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「彩華ちゃん、お腹空かない?」
不意に野上が尋ねる。
「え? いえ、私は大丈夫です」
「俺が減ったんだよね」
野上は照れ笑いを見せながら立ち上がり、キッチンに入って冷蔵庫を開けた。
「たいした物入ってないけど、彩華ちゃん何か作れたりする?」
突拍子もない野上の言葉に驚いたが、彩華もキッチンに入って冷蔵庫の中を確認した。一通りの調味料と、ハムと鶏肉と卵、数種類の野菜が入っていた。
「えーっと……ご飯があれば、オムライスか親子丼くらいなら」
「マジ? じゃあ、オムライス食べたい」
「あ、はい。わかりました」
腕まくりをした彩華は、野上と会話しながら手際よく材料をカットして炒め、ものの十五分でオムライスとサラダが完成した。
「えっ!? 早っ」
いつも落ち着いた雰囲気を纏っている野上の驚きようが可笑しくて、彩華は思わず吹き出した。
「お口に合うかどうかわかりませんけど、どうぞ」
彩華がそう言うと、「いただきます」と手を合わせてから、野上はスプーンを口に運んだ。
「旨っ!」
「わぁ、良かったです」
カウンター越しに眺めていた彩華は、野上に笑顔を向けた。
「という訳で……ごめんね、彩華ちゃん」
野上が食事の手を止めた。
「え?」
「勝手に面接しちゃった」
「えぇっ!?」
「こっちとしては、是非彩華ちゃんに来てもらいたいと思ってるんだけど、彩華ちゃんはどうかな?」
「え、どういうことですか?」
訳が分からず、彩華は尋ねた。
「彩華ちゃんには、うちの社員の昼食を作ってもらいたいと考えてたんだ」
「え?」
一瞬、思考が止まった。
「健さんからも聞いてたし、白藤さんも言ってた通り、めちゃくちゃ旨いよ。手際もいいし。是非彩華ちゃんにお願いしたいんだ」
思いも寄らない方向に話が進んでいたが、それなら自分にでも出来るかもしれない、と彩華は思った。
「私で良ければ、是非やらせてください」
彩華はその場ですぐに返事をした。
「例えば、明日からとかでも?」
「はい、大丈夫です」
「良かった」
野上は安堵したような笑顔を見せてから、再びスプーンを口に運んだ。
「何かすげぇ旨そうな匂いしますね」
匂いに釣られた数人の社員が、キッチンに集まってきた。
「残念だけど、俺の分しかねーんだわ」
野上はいたずらっ子のような表情をして言った。
「えーっ、ズルイっすねぇ」
社員達が残念がる様子を見せると、「でも」と野上が続けた。
「明日からここで、うちの社員の昼食を作ってもらえることになったんだ。こちら、彩華さんです」
一斉に彩華に視線が向けられた。
「あ、あの……料理は得意なほうです。リクエストなどがあれば、いつでもおっしゃってください」
彩華は初めての経験に不安を感じながらも、先の見えない状態から抜け出せたことに安堵していた。そして、自分を変える大きなチャンスかもしれない、と、これから始まる新しい生活に少しだけ胸を弾ませた。
不意に野上が尋ねる。
「え? いえ、私は大丈夫です」
「俺が減ったんだよね」
野上は照れ笑いを見せながら立ち上がり、キッチンに入って冷蔵庫を開けた。
「たいした物入ってないけど、彩華ちゃん何か作れたりする?」
突拍子もない野上の言葉に驚いたが、彩華もキッチンに入って冷蔵庫の中を確認した。一通りの調味料と、ハムと鶏肉と卵、数種類の野菜が入っていた。
「えーっと……ご飯があれば、オムライスか親子丼くらいなら」
「マジ? じゃあ、オムライス食べたい」
「あ、はい。わかりました」
腕まくりをした彩華は、野上と会話しながら手際よく材料をカットして炒め、ものの十五分でオムライスとサラダが完成した。
「えっ!? 早っ」
いつも落ち着いた雰囲気を纏っている野上の驚きようが可笑しくて、彩華は思わず吹き出した。
「お口に合うかどうかわかりませんけど、どうぞ」
彩華がそう言うと、「いただきます」と手を合わせてから、野上はスプーンを口に運んだ。
「旨っ!」
「わぁ、良かったです」
カウンター越しに眺めていた彩華は、野上に笑顔を向けた。
「という訳で……ごめんね、彩華ちゃん」
野上が食事の手を止めた。
「え?」
「勝手に面接しちゃった」
「えぇっ!?」
「こっちとしては、是非彩華ちゃんに来てもらいたいと思ってるんだけど、彩華ちゃんはどうかな?」
「え、どういうことですか?」
訳が分からず、彩華は尋ねた。
「彩華ちゃんには、うちの社員の昼食を作ってもらいたいと考えてたんだ」
「え?」
一瞬、思考が止まった。
「健さんからも聞いてたし、白藤さんも言ってた通り、めちゃくちゃ旨いよ。手際もいいし。是非彩華ちゃんにお願いしたいんだ」
思いも寄らない方向に話が進んでいたが、それなら自分にでも出来るかもしれない、と彩華は思った。
「私で良ければ、是非やらせてください」
彩華はその場ですぐに返事をした。
「例えば、明日からとかでも?」
「はい、大丈夫です」
「良かった」
野上は安堵したような笑顔を見せてから、再びスプーンを口に運んだ。
「何かすげぇ旨そうな匂いしますね」
匂いに釣られた数人の社員が、キッチンに集まってきた。
「残念だけど、俺の分しかねーんだわ」
野上はいたずらっ子のような表情をして言った。
「えーっ、ズルイっすねぇ」
社員達が残念がる様子を見せると、「でも」と野上が続けた。
「明日からここで、うちの社員の昼食を作ってもらえることになったんだ。こちら、彩華さんです」
一斉に彩華に視線が向けられた。
「あ、あの……料理は得意なほうです。リクエストなどがあれば、いつでもおっしゃってください」
彩華は初めての経験に不安を感じながらも、先の見えない状態から抜け出せたことに安堵していた。そして、自分を変える大きなチャンスかもしれない、と、これから始まる新しい生活に少しだけ胸を弾ませた。
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