愛のかたち

凛子

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 当面の生活の心配はなかった。翔が彩華の生活費の面倒を見ると言ったからだ。これが夫婦の情というものだろうか。それとも、結婚する時に「俺が責任を持つ」と言った手前、後に引けなかったのだろうか。
 だが、彩華は複雑な心境だった。健太から聞いていた『金銭面の援助』の相手が、子供の母親から、自分に変わっただけのように思えたからだ。妻の座を明け渡し、立場が逆転したようで、何とも言えない気持ちになった。例え離婚原因が翔にあったとしても、いつまでも翔に頼り続けるわけにはいかない。仕事が決まるまで、と彩華は決めていた。
 しかし、自分に何が出来るのだろうか。

『社会に出たら通用しない』

 あの日翔に言われた言葉を思い出す。
 この歳まで外で働いたことのない自分を受け入れてくれるところがあるのだろうか。篩にかけられて、最後まで残れる自信はなかった。


 思案に暮れていたそんなある日、健太から電話があった。
「とりあえずおいで」と言われた彩華が、その夜久しぶりに『いとう家』を訪れると、そこには野上の姿があった。

「どうも。お久しぶりです」

 彩華が挨拶すると、野上はいつもの柔和な笑顔を見せた。

「健さんから、白藤さんとのこと聞いたよ。一人で大丈夫?」
「ああ……はい。まあ、大丈夫ではないですけど、何とか」

 野上が眉をひそめた。

「彩華ちゃんが仕事探してるって健さんから聞いてて……」
「そうなんです。でも自分が何をしたいのかもわからなくて……。本当は『何をしたいか』なんて考えてる場合じゃなくて、『何が出来るか』を考えないといけないんですけどね。一人じゃどうすることも出来なくて、健ちゃんに相談してたんです」

 彩華は野上に心境を打ち明けた。

「だったら、うちの会社に来ないかなぁと思ってね」

 突然の野上の提案に、彩華は驚きで目を見張った。

「いえ……私、本当に何も出来ないんです。インテリアとか家具のことなんて全然わからないし。野上さんのお気遣いは本当に有難いんですけど、お気持ちだけ頂戴します」
「一度見に来るだけでもどうかな。一応簡単な面接はするつもりだけど」

 丁重に断ったつもりだったが野上が食い下がり、彩華は返答に窮した。
 野上の気遣いは有難かったが、そんな野上だからこそ余計に迷惑をかけるわけにはいかないと思ってしまうのだ。

「面接なんて言ったら緊張しちゃう? まあ一度覗きにおいでよ。社会見学ってことでさぁ。無理だと思ったら遠慮なく断ってくれたらいいし」

 野上は気さくに、遊びにでも誘うかのように言った。

「そう言ってくれてるんだから、一度行ってみれば?」

 と健太にも後押しされ、「じゃあ、一度伺わせていただきます」と返事をした。
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