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第6章 転生隠者の望む暮らし
13.少しの嘘
しおりを挟むサブマスは王都まで出張しているということだったので、ギルドでギルマスに論文の写しを預け……最近気づいたのだが、アイテムボックスに私の書いたものを書類を入れて、取り出す時に詳細を見ると『コピーを渡す』事ができると気付いた。前の論文の時は全部自分で写したので、これを見つけた時は流石に落ち込んでしまったのは別の話だ……ミリィさんのお店に寄って顔を見て帰るつもりが、今はミリィさんとアーバンさんにお昼をご馳走になっている。息子のリッカくんは美味しそうにパン粥を食べている。
握った木匙を落とそうとするのを別に気を逸らして止めさせる。この年齢なら時々ある事だ。
「リッカさんは赤ん坊の世話した事があるの?」
「ええ……たぶん」
モヤがだんだん濃くなる記憶の向こう側の私には、成人したくらいの子供が2、3人いた気がする。以前の私は、嫌いでは無いけどそんなに好きでも無い自分の仕事と、それぞれ個性の違う子供たちの世話に明け暮れていたように思う。
「あのさ」
アーバンさんが申し訳ないと頭を掻いた。
「ミリィには前に話しちまって……その、リッカさんの前の人生?前世とかの話さ……」
「ああ、そうなんですね。別にミリィさんならかまいませんから」
ミリィさんの怪訝な視線の正体はそれだったかと納得して、おそらく成人した子供がいたとは思うがよく思い出せないのだと話した。
「……それって、辛くは無い?」
ミリィさんのこちらを気遣う言葉に、胸が温かくなった。
「いいえ。今は。あの時の私なりに全力で生きたと思いますし……私がいなくなっても、子供達には夫もいるでしょうから」
顔も声ももうはっきりと思い出せないが、最近になってようやく思い出すとほろ苦くも温かいものが胸の内に灯るようになって来た。
(きっと……私もいっぱいいっぱいだったのね。アーバンさんとミリィさん達みたいに沢山話していたらまだ違ったのかもしれないけれど……)
相手を気遣う他愛無い話。微笑む両親と幼子。
肉団子の入ったスープパスタは、とても美味しかった。
(ああ、忘れるところだった)
リッカくんの大きな声に目を向けつつ、以前アーバンさんの膝に留まるようにかけておいた治癒魔法の紋様をチェックする。もう少しで完治の方向に自然に持っていく流れが出来そうだ。カルラ達はカルラ達で、リッカくんやミリィさんの髪を撫でたり、店のドアやら台所やらに最近覚えたという『精霊の守り』をかけて回っている。
(この治癒の紋様魔法なら、アーバンさんも出来そうな気がするんだけどなぁ……)
実験を兼ねてのことなので、後でゆっくり相談してみようかな、心のメモに書き足した。
「なあリッカさん…」
「ねえリッカさん」
帰り際に2人に同時に話しかけられた。
「この家に何かした?」
「なんか家の中が光ってる気がするんだが」
「いいえ」
私は何もしていない。
「でもなんか……窓ガラスとか最近拭かなくても綺麗で…」
「あーい!」
ミリィさんの腕の中のリッカくんは何を見たのかご機嫌で、大きな声で笑った。
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