【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす

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第6章 転生隠者の望む暮らし

閑話 聖サントリアナ 王妃の応接間にて

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 聖サントリアナ城、王妃の部屋。
 そこには優雅な午後のティータイムを楽しむ王と王妃、そして宰相の姿があった。他には王妃付きのメイドが1人。他の者は扉の外に待機している。
「……魔術省はそれで良いって?」
「はい。写しを許可してくれるのならその方針で良いそうです」
 国王エンリケは宰相にニンマリと笑うと、優雅に菓子を口に運ぶ王妃ファムタールに微笑みかけた。
「帝国側には、その病気は伝染しないと伝えてありますわ。次の会議の時に少しは詳しく教えて差し上げてくださいましね」
「……承知いたしました」
 良いように交渉するように、という圧力のある微笑みに、宰相はぐいと茶を流し込むように飲み込んだ……が、少し熱かったようで眉がピクリと跳ねた。
「ロンダール」
「はい」
「……休暇届、サインしたよ」
「ありがとう存じます」
「1週間だけだからね」
「ありがとう存じます」
 ファムタールはクスクスと笑いながら侍女に合図をすると、侍女は蓋付きの大きなカゴを持ってやって来た。
「ナディアと可愛いサフィリア嬢へ。ずっと貴方にお休みをあげられなかったから……2人にも寂しい思いをさせてしまったわね」
「お気遣いに感謝いたします」
 宰相ロンダール•メイ•アバネシーはニコリと微笑んだ。王妃からの直々のプレゼントとなれば、きっと妻の機嫌も戻るだろう。
「サフィリアも5歳になるのね。デヴィンが楽しみにしているようだから、またぜひ遊びに来てちょうだいね。私もナディアとお茶がしたいわ」
 会話だけ、そして少しだけ離れて仕舞えば、それは優雅なティータイム。
 しかし、彼らの視線はテーブル中央のやや低くなっている窪みにはめられた掌大の小さな板状の端末にある。
 それには、他国とのやりとりや間者が手に入れた情報がパラパラと表示されては消えていく。
「陛下」
 宰相はこの部屋に入ってから初めて、自分から国王に声をかけた。グッと低く潜めた声は、おそらくお茶のお代わりを用意している侍女も聞き取りづらいだろう。
「先ほど、魔導国家から早の電信鳥が参りました」
「ふうん?」
「至急の文が届くかと」
「良かった。用意しておいた甲斐があったよね」

 国王の目がわずかに細められた。まだ若々しいと言って良い年齢の王。微笑めば万人が好感を持つだろうその美しい容姿の、その目の奥は笑っていない。
 王妃のもの言いたげな視線に、宰相は視線だけで国王に答えを求めた。この2人は学園で苦楽を共にした仲なのだ。その時から表向き仲が悪いということにはなっているが、2人の絆は確かなものだ。
「魔導国家の賢者候補がこっちに来たいみたいなんだよ」
 ふわりと甘やかに微笑んで、国王エンリケはなんと普通の声音で内容を口にした。
「まあ」
「息子が例の奇病に罹ったみたいでね……何処からか噂を聞いたらしいんだ」
「それは……大丈夫なの?」
 眉を顰めるファムタールの手をとって手の甲に唇を寄せながら、エンリケは暖かく微笑んだ。
「大丈夫だよ」
 大丈夫という言葉に含まれる沢山の意味に、ファムタールは苦笑する。
「息子はまだ12歳みたいでね……遅くにできた息子で、奥方は産後の肥立ちが悪くて亡くなっているらしいんだ。助けてあげたいだろう?」
 それに、彼には借りがあったからね。そう続けた国王エンリケの視線の先、中央の端末に映っていたのは裁判記録。奴隷売買に関わっていた者たちについてだった。魔導国家の中の中の情報がなかなか集まらなかった時、情報提供をしたのは誰だったか。求められた対価とは……。

「まあ、正式なのはどう頑張っても半年後だね。それまではじっくり準備をしよう」
「……承知しました」
 またお得意の準備の準備かよ、と聞こえた声に思わず肩を揺らす王妃とそれを愛おしげに眺める国王、砂糖など入れたら胸焼けしそうだと言わんばかりに渋面でグイグイと茶を流し込む若き宰相の姿。

 それらを扉の隙間から眺めている何者かの視線。さらにそれに気づいている国王たち。
 この国ではそこまで珍しく無い光景だった。

 明確な変化が現れるのは、ここから1年ほど後のことになる。
 国王が他国から優れた魔術師を招き入れ、いつのまにか側近たちの入れ替えを行い、城仕えの者たちの姿も半分以上が入れ替わったのだ。そして、今まで変わることのなかった高位貴族の三分の一に手を入れ、その他の貴族の爵位にも大きな変化があった。

 国王エンリケから数代にかけて始まる、大きな改革の始まりだった。
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