悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

文字の大きさ
7 / 114

6.お祝いのケーキにろうそくは必須

しおりを挟む
 ギルドカードを首から提げてギルドを出れば優しそうな笑みを顔面にぺっとりと貼り付けた先輩達が私を出迎えてくれた。

「お嬢ちゃん、冒険者になったばかりなんだって? 俺たちのパーティーでよければいれてやるよ」
「いやいやそんなおっさんばかりのところよりもうちのパーティーの方がいいって。うちは女もいるけど、男所帯じゃ不便だろうよ」
「なら、私のところのパーティーにすべきね。男なんて一人もいないんだから」
「それなら同じくらいの年のメンバーがいるうちのパーティーがおすすめだぞ!」

 それぞれにアピールポイントを並べてはうちに入れと勧誘してくる。けれど全員揃って親切からの申し出でないことくらい一目瞭然。顔を見れば大体分かるけど、その他にも判断基準がある。

 例えばこちらを眺めつつもスルーしていく、真っ当そうな冒険者さんのしらけたような視線とか。
 遠くて何言ってるのか聞こえないけど、明らかに彼らを毛嫌いしてそうな表情を浮かべる冒険者さんとか。

 ご愁傷さまとでも言いたげに手を合わせているお兄さんに至っては助けてくれたっていいと思う。だが手を出さないのが暗黙のルールなのだろう。

 弱肉強食の世界なのか、面倒くさいから関わらないのかは分からないけど。
 どちらにせよ自力でここから脱するしか道はないようだ。

「私、しばらくはソロで戦っていこうかなって」
「は?」
 一掃するためにそう答えれば誰もが目を丸くして、口をぽかんと開いた。そしてしばし制止した後で堰を切ったかのように大声で笑い始めた。

「それはないぜ、嬢ちゃん」
「いくら何でも無理よ~」
「ここまでは難なくこれたようだが、さすがに死ぬぞ」
「初めは先輩に頼ろうぜ? な?」
「少し頑張って、駄目だったらその時は頼らせてもらえると嬉しいなって思ってるんですが……」

 いくらチートステータスを持っているとはいえ、ガイドブックを所有しているとはいえ、これから壁にぶち当たることもあるだろう。

 自分を過大評価しすぎている可能性だってある。
 けれど私の勘が『この人達よりは確実に私の方が強い』と告げている。

 それに無理せず初めは薬草狩りとかリスクの少ない仕事をしつつ、今まで通りざくざくとゴブリンを狩って当面の生活資金を稼げば何の問題もないだろう。

 怪しい人達に頼る必要はない! を何十枚ものオブラートでがっちりと包んだ言葉は、自分の力を過信しているお嬢ちゃんのそれに聞こえたらしく、全員が気を悪くすることなく立ち去ってくれた。

「その時は気軽に声をかけてくれよ!」
「無理だけはしないことね!」
 ――なんていい人ぶった言葉を残していった訳だが、とりあえず立ち去ってくれただけでもありがたく思っておくべきだろう。


 それにしてもこの後どうするべきか。
 本当ならばここから町を散策して、現地のご飯を堪能しつつ、今日から泊まる宿を見つけたいところだがどうも予定通りには進ませてくれないようだ。周りを見渡さずとも、私を狙う人影が少なくとも5つほどあるのは容易に分かる。銀行口座に仕舞ってあるから手持ちなんてほとんどないんだけど、それでも子どもを倒せば獲得出来る金額と考えればなかなかのものなのかもしれない。

 登録可能場所を絞ったことによって、登録場所が初心者狩りの場所にでもなっているのだろうか。

 異世界治安悪すぎでしょ!

 ギルドの冒険者がこんなだと、気軽にお店や露店でご飯を食べることも出来やしない。ましてや宿なんて寝ている間に身ぐるみ剥がされる可能性大だ。宿の場合はいつものように結界を張ればいいんだろうけれど、わざわざ宿代払った上で結界を交換してポイントを消費する意味が分からない。

 二重払いは勿体ない。

 ならば残された選択肢は昨日までと同じキャンプ生活。
 折角人里に降りてきて、ふっかふかじゃなくてもベッドで寝れると思ったんだけどなぁ。
 誰にも聞こえないようにひっそりとため息を吐いて、山へ向かって歩き出す。警戒心0を装ってですたこらさっさと歩き続ければ、後ろをついてくる。

 依頼を何も受けていないのにいきなり山へと向かい始めたらおかしいと思ってくれるかも? なんて少しは期待したのだが、残念ながら一人も脱落者はいない。

 どれだけ警戒心がないんだろう。
 子どもを狙ってたら自分が罠にかけられちゃいました~なんてラノベや漫画の悪役を罠に引っかける常套手段なんだけど……。その可能性も含めた上でついてきてるのかな? ってそこまで私が心配する義理もないか。

 ある程度ひらけた場所へと進んだところで、くるりと身体を反転させる。

「皆さんご存じとは思いますけど、手持ちのほとんどは銀行に預けちゃったので今はほとんどないんですよ~。なのになんでここまで着いてくるんですか? 答えてくださいよ、っと」

 煽るように声をかけて、彼らが潜んでいると思わしき場所めがけて足下の石ころを投げつける。身体強化はかけていないが、ステータスがステータスだけになかなかのスピードだ。前世だったらこのスピードの球を投げられるってだけで甲子園まで進めそうだ。


 プロどころかメジャーからもオファーが来ちゃうかも!? 
 そもそもこんな剛速球をキャッチ出来る相棒を見つけるのが困難だろうけど。


 実際、受けるどころか避けきれなかったストーカーさん達は次々に音を立てて倒れていく。手応えがまるでないのだが、もしかしてここにいるの全員索敵専門だったのかな?
 それとも私が弱い人の居場所しか探れてないだけ?
 だが道中、崖を降りる時に交換したロープをバックから取り出している間もこれといったアクションはない。

 逃げられた?
 いや、ここは追い払えたと前向きに考えよう。
 取り出したロープで全員をぐるぐる巻きにして近くの太めの木に縛り付けておく。魔物の餌食になるかもしれないが、運が良ければ仲間に救出してもらえるだろう。

 こればかりは運だ。
 私が冒険者達のカモにならなかったのも、こうして対処出来たのもたまたま前世の記憶があり、人よりもステータスが高かったからに過ぎない。

 この世界に転生したこと自体は不運だったのか幸運なのかは分からないが、今日の私に限って言えばとても運が良い。

 でも彼らは知らない。
 悪巧みをしたことで神様の怒りをかったかもしれないし、私の近くに来たことで全部運を吸い取られちゃったかもしれない。

 どっちにせよ死んじゃったらアンラッキーってことで!
「油断は駄目ってギルドの職員さんも言ってたでしょ。人生、弱肉強食+運! 生き残るか上手く転生出来るといいね!」
 それだけを言い残して、その場を立ち去る。

 ガサゴソと音が聞こえた気がするけれど、敵か味方かそれ以外か。
 私の知ったことではない。

 それよりも今日のご飯は何にしようかな~。
 冒険者としての門出を祝って小さめの丸いショートケーキでも食べちゃおうかな~。

 ろうそく立てようかな? なんて考えながら今日のキャンプ地を探すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

処理中です...