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5.職人さんごめんなさい

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 ギルドに着いてすぐに換金所へと向かう。
 そこでゴブリンの魔石を10個入った薄汚れた革袋を渡した。

 もちろんアイテム倉庫からではなく鞄から出したもので、ポイント交換で手に入れたものだ。
 パッと見た感じ前世で手に入りそうな高品質なもので、この世界の子どもが持つには不釣り合いに思えた。ということで非常に心が痛んだが、職人さんごめんなさい、と唱えながら石をぶつけたり土で汚したりを繰り返した。


 そんな過程によって作り出されたのがこのいかにも使い古したお下がり風薄汚れた革袋である。
 私の心痛む努力の結晶は換金所のスタッフさんの目をかいくぐることに成功した。けれど出した物の量が問題だったようだ。



「あの、これ……一体どうしたんですか?」
「え?」
「ゴブリンなんて大人がやっと倒せるくらいなのに……」
 ああ、そういえばガイドにそんなこと書かれていたような?
 登録料が足りないと困るからと、とりあえず10個にしてみたが多かったようだ。

 所持しているもの全部出さなくて良かった~と心の中で安堵の息を漏らしながら、適当に作り上げた嘘を吐く。

「村の人達がもたせてくれたんです!」
「なるほど、そうでしたか。ですがこんな高価な物持ち歩いていて……。お一人ですか? 賊に狙われませんでしたか?」
「大丈夫です! 私、強いから!」

 子どもらしく、えっへんと胸を張ると職員さんは困ったように笑った。
 どうやら子どもの戯れ言だと思っているらしい。
 ゴブリンの魔石が高価な物だと知らなかったのは多分、私みたいな転生者か世間知らずくらいなものなのだろう。おおかた金持ちのお嬢ちゃんが護衛も連れずに運良くたどり着いたか、隠れていた護衛が倒してきたとでも思ってくれていることだろう。

 もちろん私の家は金持ちではないし、正面きって旅立ったところで何かを持たせてくれるだけの情などない。

 せいぜい良くて塩を撒かれるくらい。
 当面の生活資金を自分で用意出来たから何の文句もないけれど。それにこの数週間、村や町の近くを歩くこともあったが、賊どころか人っ子一人会わなかった。

 寝ている間に結界が作動していただけの可能性もあるが、万が一起きている時に遭遇したところで私のステータスなら返り討ちにするのも難しくはないだろう。
 身体強化も上手く調整出来るようになったし、拘束して手持ちのアイテム剥ぐぐらいは出来るはずだ。

「強くても油断は禁物ですよ」
「はい!」

 目の前の少女が森の中でゴブリンをバッサバサ狩っているとは想像もしていないだろう職員さんの忠告を適当に受け流す。

「もう、本当に危ないんですからね! ゴブリンの魔石1つにつき銅貨3枚ですので、銀貨3枚になります」
「ありがとうございます~」

 頬を膨らませてプリプリ怒ったそぶりを見せる職員さんからお金を受け取った。
 ファンタジー世界でよくある金貨・銀貨・銅貨制度がこの世界でも導入されていることはガイドにも記載されていた。

 だがまさかこんなに良い金額になるとは……。
 ちなみに金貨の上に白金貨が、銅貨の下に鉄貨が存在するようなので、銀貨3枚はなかなかの大金だ。

「ところで冒険者登録はお済みですか?」
「まだです」
「でしたら登録を済ませ、銀行口座を開設することをおすすめします。口座の開設には別途料金がかかりますが、安全面を考慮すると早めに開設しておいた方が良いかと……」
「そうします!」
「では係の者をお呼びしますので少々お待ちください」

 安全面か……。
 職員さんが席を外した途端、ギルド内の至るところから私を値踏みするような視線を感じるようになった。

 良いところのお嬢ちゃんをカモにしようと考えているのだろうか。
 世間知らずの子をパーティーに誘い、親切な振りをして少しずつお金を搾り取っていく。
 武器を揃えると言いつつちゃっかり自分の武器代も払わせたり、宿代を多めに払わせたり。はたまた初心者ならアイテム多めに買っておいた方がいいと言って大量に買わせておいて、仲間だからと言って自分達が消費することによって、アイテム消費による出費負担を担わせるというのはよくある手段である。

 こうした結果、細々といった出費がかさみ、文句を言ってきたら初心者なんてこんなものだと宥めて、金が尽きたら放り出すまでがセットだ。


 我ながらネガティブすぎる気もするが、用心するに越したことはない。
 なにせこの世界の私はまだ10歳。前世でも22歳とまだまだ若く、私が見た世界は狭いものだったのだから。

「お待たせいたしました。今回は冒険者登録と口座の開設ということでお間違いありませんか?」
「はい」
「では別室にて、簡単に説明させていただきます」
「え、別室ですか?」
「はい。口座開設の際はセキュリティ面を重視し、個室にてご案内しております」
「わかりました」

 職員さんがそう告げると、周りの冒険者達はそそくさとどこかへと行ってしまった。
 なるほど。別室への案内は彼らから隠す役割もあるのか。魔法を使える者が少ないとはいえ、私も知らない魔法で口座番号とか記録されてたら困るもんね。

 二人の職員さんと向かい合うように席に座ると早速説明と登録作業が開始された。
 大量の魔石を出し、お金をそこそこ手に入れたからか、職員さんの対応は非常に丁寧なものだった。
 ガイドで予習をしているとはいえまだ分からないところもある。

 仕事の受注や達成の際の報告方法などの初歩的なことから、納品依頼の際に依頼内容よりも多く手に入れた分は納品することで追加報酬を得られるのかなど。

 登録の際に聞いてきた人は初めてだと驚きながらも、実際に掲示してある常駐クエストの依頼書を用いて説明してくれた。

 どうやら必要なことは全て書類に記載してあり、記載していない事項は原則として守る必要がなく、守られることもないらしい。

 つまり書類を見て判断して動けってことか。

「他に何かご質問はございますか?」
「例えばこのゴブリン討伐依頼の場合、Eランク以下冒険者はパーティー『推奨』だから初心者がソロで狩っても大丈夫ってことですか?」
「その通りです。ただこの依頼に限らず、特殊クエストを除くクエストの全ては冒険者が倒れた際、ギルドから保証が出ることはありません。ソロでは救助依頼を出すことも出来ませんし、おすすめはしません」
「なるほど。ランクは貢献度により昇格するってお話でしたが、降格することはありますか?」
「はい。Bランク以上の冒険者の場合、未達成やキャンセルがいくつか続き、ランクの継続が困難と判断させて頂いた場合、ランク降格という手段を取らせて頂くことがあります。こちらは冒険者自身の安全面やギルドの信用問題を考慮してのことですのであらかじめご了承頂きたく思います」
「わかりました!」
「分からないことがありましたら、ギルドの職員にお声がけ頂ければいつでもご説明いたしますので」

 口座の方は特に疑問はなく、冒険者の仕組みも大体理解した。
 職員さんが持ってきてくれた魔水晶とやらに少量の血を垂らして偽造したステータスを読み取り、それを元にギルドカードが作成された。カードといっても銀製の名札みたいなものだ。

 なくさないように首から提げるといいと、チェーンまでおまけしてくれた。
 ちなみに口座取引はこのカードを専門の窓口で見せることで出来るらしい。専門の機械にカードと魔力を関知させることで本人かどうかチェックをするらしいので、カードを取られてもお金が抜き取られる心配はないらしい。その代わりカードの再発行にお金がかかり、紛失申請から数日は口座が凍結され、お金の出し入れは出来なくなるようだ。

 職員さんの勧めで銅貨5枚だけを残し、後は口座にしまって登録完了。

 これで私も立派な冒険者だ。
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