「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
3 / 5

母は強し

しおりを挟む


 ◇

「王から苦情があった。婚約者であるジュリアが、アンドレ殿下のことをないがしろにしているようだ、とな」

 ミゲット侯爵家の執務室に呼び出された私は、当主であるお父様に厳しい目を向けられていた。


「なんでも、王子に女の裸が描かれた絵を見せて驚かせたとか……私としても娘にこんな事を言いたくはないが、王妃としての自覚が足りてないと苦言を呈する輩もいる」
「お言葉ですが、お父様。私がアンドレ殿下に見せたのは医学書の挿絵で、裸ではなく解剖図です」
「……王妃候補がそんな絵を見ていたという事実の方が、尚更問題になりそうなのだが」

 お父様は愛用の椅子にギィともたれ掛かり、はぁと深い溜め息を吐いた。

 そして執務机に置いてあったブランデーの入ったグラスを手に取り、グイっと呷る。


 ――そういえば最近のお父様って、お腹が出始めてきたのよね。お酒に肉中心の食事……あらやだ、大丈夫かしら。


「私としては、何事にも消極的だったお前が勉強熱心になったことを喜んでいたんだ。しかし、それは王妃教育をキチンと受けていることが前提だった。……最近のお前はどうしてしまったんだ?」

 私が関係のないことを考えていたのがバレたのか、お父様は少し語気を強めてそう言った。

 いけない、ちゃんとお話を聞かないと……。

 私は姿勢を正すと、お父様に向かって頭を下げた。


「申し訳ございませんでした、お父様」
「謝罪などいらん。それより何が起きたんだ? どうして医学なんて勉強をしている」
「それは……」

 私は口をつぐんでしまう。

 あの夢を見たこと、その日から生き延びるために知識を身に付け始めたことを話したところで、お父様が信じてくれるはずもない。


「貴方、そんなに責めないであげて。せっかくこの子が、自分のやりたいことを見つけたのですから」
「し、しかしだな……」

 言いよどんでいた私に助け舟を出したのは、それまで壁際で静かに見守っていたお母様だった。

 お父様はこの件に口を挟んで欲しくなかったらしく、苦々しい顔でお母様を睨む。だけどお母様は気にした様子もなく、お父様のグラスを強引に奪った。


「あ、おい!?」

 奪い返そうと慌てて手を伸ばす。

 だけどお母様はそれを華麗に躱すと、グラスに残っていたお酒を全部飲んでしまわれた。


「……ふぅ。ジュリアの思うがまま、やりたいようにやればいいわ」
「おい、そうやって余計なことを――」
「貴方は黙っていて。いいですか、ジュリア。その代わり、誰にも文句を言わせないくらいに王妃教育も頑張りなさい」

 お母様はブランデーのボトルからお代わりを注ぎながら、私の目を真っ直ぐに見つめる。


「なにも学びは本だけでは無いのよ? 時間が足りないのならば、効率化を図りなさい。人手が足りないのなら、空いている手を借りなさい。そうやって上手く他人を操るのも、立派な勉強のひとつなんだから。――そして人生で起きることの殆どは、学びのチャンスよ。成し遂げたいことがあるのなら、そのチャンスを絶対に逃さないで」

 喋っている間に、グラスにはブランデーがなみなみと注がれた。そしてそのブランデーを、お母様は一気に呷った。


「誰が何と言おうと、私は貴方を応援するわ。もちろん、お父様も……ね、貴方?」
「え、いや……わ、分かった。分かったから腹をつねるな!!」
「お母様……お父様も、ありがとうございます」

 私は二人に向かって深々と頭を下げた。

 たしかにお母様の言う通りだ。

 これまで私は『夢が現実にならないように』という事ばかり考えていて、誰かを頼ろうとはしなかった。

 勉強も必要なことだったけれど、本来は私一人でどうにかできる問題ではなかったはずなのに。


「頼れる人……そうね、まずは彼から当たってみましょうか」

 翌日、私は王城のとある人物の元へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります

恋愛
 妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。  せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。  普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……  唯一の味方は学友のシーナのみ。  アリーシャは幸せをつかめるのか。 ※小説家になろうにも投稿中

妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?

カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。 フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。

【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……

しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」 そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。 魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。 「アリス様、冗談は止してください」 震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。 「冗談ではありません、エリック様ぁ」 甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。 彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。 「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」 この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。 聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。 魔法を使えないレナンとは大違いだ。 それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが…… 「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」 そう言うレナンの顔色はかなり悪い。 この状況をまともに受け止めたくないようだ。 そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。 彼女の気持ちまでも守るかのように。 ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。 同名キャラで様々な話を書いています。 話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。 お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。 中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^) カクヨムさんでも掲載中。

婚約破棄ですって?私がどうして婚約者になったのか知らないのかしら?

花見 有
恋愛
「ダーシャ!お前との婚約を破棄する!!」 伯爵令嬢のダーシャ・パレデスは、婚約者であるアーモス・ディデス侯爵令息から、突然に婚約破棄を言い渡された。 婚約破棄ですって?アーモス様は私がどうして婚約者になったのか知らないのかしら?

自信過剰なワガママ娘には、現実を教えるのが効果的だったようです

麻宮デコ@SS短編
恋愛
伯爵令嬢のアンジェリカには歳の離れた妹のエリカがいる。 母が早くに亡くなったため、その妹は叔父夫婦に預けられたのだが、彼らはエリカを猫可愛がるばかりだったため、彼女は礼儀知らずで世間知らずのワガママ娘に育ってしまった。 「王子妃にだってなれるわよ!」となぜか根拠のない自信まである。 このままでは自分の顔にも泥を塗られるだろうし、妹の未来もどうなるかわからない。 弱り果てていたアンジェリカに、婚約者のルパートは考えがある、と言い出した―― 全3話

姉の引き立て役として生きて来た私でしたが、本当は逆だったのですね

麻宮デコ@SS短編
恋愛
伯爵家の長女のメルディナは美しいが考えが浅く、彼女をあがめる取り巻きの男に対しても残忍なワガママなところがあった。 妹のクレアはそんなメルディナのフォローをしていたが、周囲からは煙たがられて嫌われがちであった。 美しい姉と引き立て役の妹として過ごしてきた幼少期だったが、大人になったらその立場が逆転して――。 3話完結

これまでは悉く妹に幸せを邪魔されていました。今後は違いますよ?

satomi
恋愛
ディラーノ侯爵家の義姉妹の姉・サマンサとユアノ。二人は同じ侯爵家のアーロン=ジェンキンスとの縁談に臨む。もともとはサマンサに来た縁談話だったのだが、姉のモノを悉く奪う義妹ユアノがお父様に「見合いの席に同席したい」と懇願し、何故かディラーノ家からは二人の娘が見合いの席に。 結果、ユアノがアーロンと婚約することになるのだが…

特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する

下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。 ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...