「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
4 / 5

王子の焦り



 ◇

 最近、婚約者であるジュリアの様子がおかしい。

 幼い頃から俺と一緒に王族や貴族の勉強を抜け出して遊んでいたのに、ある日突然、中身が入れ替わってしまったかのように真面目な性格になってしまった。

 俺が城を抜け出して城下町に遊びに行こうと誘っても『危ないから』の一点張りだし、最近噂になっている教会の聖女を観に行こうと言うと急に震え出す。


 もしやタチの悪い流行り病にでもなってしまったのかと思ったら、今度は『王城の医者を紹介してほしい』と言い出した。

 これは本格的に頭の病気かと思ったのだが……。


「医者に弟子入りをしたい? お前、本当に大丈夫か……?」

 もう一度言うが、ジュリアは俺の婚約者。将来の王妃となる人物だ。

 そんな女性が医者に弟子入りをしたいだなんて、本当にどうかしている。


「どうしてですの? 他の貴族令嬢だって、どなたかの師事を受ける場合だってございますでしょう?」
「いや、誰かに弟子入りするのが悪いってわけじゃないけど……」

 貴族令嬢ならば、刺繍や音楽といった習い事をするのが通例だ。医者に弟子入りをしたいと言い出した令嬢なんて、俺は初めて聞いた。


「お願いしますわ……私には、アンドレ様しか頼れる殿方がおりませんので……」
「うぐっ。その頼み方は狡いだろ……分かったよ。でも口添えだけだからな。あの爺さん、偏屈で俺も苦手なんだ……」
「ありがとうございます! さすがはアンドレ様ですわ! 頼れるし、お優しい!!」

 そう言ってジュリアは俺の手を掴み、うるうるとした瞳で見上げてくる。


「うぅ……やっぱり調子が狂うな……」

 コイツの顔なんてガキの頃から見慣れているはずなのに、見つめられているだけで胸が苦しくなってきた。ジュリアにも少しは可愛げってやつが出てきたのだろうか……。


 仕方なく、俺が昔から世話になっている医者を紹介してやった。どうせすぐに追い返されると思ったのだが……。


「もし流行り病が空気ではなく、何か物体や動物を介したものが原因だとしたらどうでしょうか?」
「ほう、それは面白い考えじゃな! どうしてそう思ったんじゃ?」
「実際に罹った患者の行動記録を見てみると――」

 どういうわけか、爺さんとジュリアは意気投合。王子である俺をそっちのけで、熱心に討論を始めてしまった。


「お主、名をジュリアと言ったか? いやぁ、女の割に物凄い知見の広さじゃ。そして考えが柔軟! ここまでワシと話が合うのは、初めてのことじゃ!!」
「いえいえ、所詮私は本によるもの。先生が現場で培った、生きた知識には到底及びませんわ」
「ほっほっほ! いや、女と言って侮って悪かった。これはアホ王子の妻にしておくのは勿体ない逸材じゃな。どうじゃ、儂と一緒にこの国一番の名医を目指さんか?」
「おい、糞ジジイ。俺の妻を勝手に奪うな。不敬だぞ」

 そうやって俺が不満をこぼすと、二人は顔を見合わせて笑い出した。

 まったく、俺じゃなきゃ牢屋行きにさせるところだぞ。


 ……しかしあの無気力だったジュリアが、まさかここまでやる女だったとは。


 たしかにここ最近、ずっと図書館に篭もって勉強をしているとは思ったが。

 もしや本当に王妃をやめて、医者にでもなるつもりなのか?

 そうしたら俺は用済みになって、あっさり捨てられる……?


「俺は絶対にジュリアを手放さないぞ」
「……? 何か言いましたか、アンドレ様」

 キョトン、とした顔を俺に向けるジュリア。

 昔は親が決めた婚約だと、恋愛なんて半ば諦めていた。だがいつの間にか俺は、ジュリア以外と結婚をしたいなんて思わなくなっていた。


 そして今日、俺は気付いてしまった。

 本当に俺は彼女の夫として相応しいのか?

 それに見合う努力を、俺はしていたのだろうか……。


「――俺はここで失礼する。あとは頼んだぞ、名医殿」
「ちょっと、どこへ行かれるのです?」
「やるべきことを、思い出したのでな」

 手に入れたいものがあるのなら、何が何でも手に入れてやる。

 相応しくないのなら、相応しいだけの男になればいいのだ。


「やってやろうじゃねぇか。本気を出した王子を舐めんじゃねぇぞ」

 なにしろ俺は、傲慢な王子様なんだからな――。


感想 0

あなたにおすすめの小説

『お前のためを思って言っている』が千回記された日記帳が、社交界に流出した件

歩人
ファンタジー
「お前のためを思って言っている」「普通はこうだろう?」「お前が悪いから怒るんだ」——ディートリヒ侯爵子息は、婚約者のカティアにそう言い続けた。3年間、毎日。カティアは日記をつけていた。恨みではない。「何が普通なのか」を確かめるために。日記には日付と、彼が言った言葉だけが記されている。感想も解釈もない。ただ事実だけ。婚約破棄の場で、カティアは日記を読み上げなかった。ただ、茶会で親しい令嬢に見せただけだ。令嬢たちは青ざめた。「これ、全部言われたの?」日記は写本され、社交界に広がった。ディートリヒ本人は「何がおかしいのかわからない」と主張した。——それが一番怖いのだと、誰もが理解した。

妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?

カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。 フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。

離縁され隣国の王太子と海釣りをしていたら旦那様が泣きついてきた。私は別の隣国の王太子と再婚します。

唯崎りいち
恋愛
「真実の愛を見つけた」と言って、旦那様に一方的に離縁された侯爵令嬢。だが彼女の正体は、大陸最大級の鉄鋼財閥の後継であり、莫大な資産と魔力を持つ規格外の存在だった。 離縁成立から数時間後、彼女はすでに隣国の王太子と海の上でカジキ釣りを楽しんでいた。 一方、元旦那は後になって妻の正体と家の破産寸前の現実を知り、必死に追いすがるが——時すでに遅し。 「旦那様? もう釣りの邪魔はしないでくださいね」 恋愛より釣り、結婚より自由。 隣国王太子たちを巻き込みながら、自由奔放な令嬢の人生は加速していく。

これまでは悉く妹に幸せを邪魔されていました。今後は違いますよ?

satomi
恋愛
ディラーノ侯爵家の義姉妹の姉・サマンサとユアノ。二人は同じ侯爵家のアーロン=ジェンキンスとの縁談に臨む。もともとはサマンサに来た縁談話だったのだが、姉のモノを悉く奪う義妹ユアノがお父様に「見合いの席に同席したい」と懇願し、何故かディラーノ家からは二人の娘が見合いの席に。 結果、ユアノがアーロンと婚約することになるのだが…

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、推しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

婚約破棄された私と侯爵子息様〜刺繍も私も、貴方が離さない〜

ナナミ
恋愛
「ディアナ!お前との婚約を破棄する!」  ディアナ・コヴァー伯爵令嬢は、婚約者である伯爵子息に断罪され、婚約破棄されてしまった。  ある子爵令嬢に嫌がらせをしていたと言うことである。彼女には身に覚えのない冤罪であった。    自分は、やっていない、と言っても、婚約者は信じない。  途方に暮れるディアナ。そんな時、美形の侯爵子息であるフレット・ファンエスがやって来て……。  伯爵令嬢×美形侯爵子息の恋愛ファンタジー。

【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります

恋愛
 妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。  せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。  普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……  唯一の味方は学友のシーナのみ。  アリーシャは幸せをつかめるのか。 ※小説家になろうにも投稿中

実家を没落させられ恋人も奪われたので呪っていたのですが、記憶喪失になって呪わなくなった途端、相手が自滅していきました

麻宮デコ@SS短編
恋愛
「どうぞ、あの人たちに罰を与えてください。この身はどうなっても構いません」 ラルド侯爵家のドリィに自分の婚約者フィンセントを奪われ、実家すらも没落においやられてしまった伯爵家令嬢のシャナ。 毎日のように呪っていたところ、ラルド家の馬車が起こした事故に巻き込まれて記憶を失ってしまった。 しかし恨んでいる事実を忘れてしまったため、抵抗なく相手の懐に入りこむことができてしまい、そして別に恨みを晴らそうと思っているわけでもないのに、なぜか呪っていた相手たちは勝手に自滅していってしまうことになっていった。 全6話