影牢 -かげろう-

帯刀通

文字の大きさ
53 / 94
解放と君臨

12

しおりを挟む
*******

ーーー悪い夢を見ているようだった。

甲高い女の嗤い声。絡み合う白い手足。背中が柔らかな褥に叩きつけられる度に上下する視界。弾む息。そして絶えることなく注ぎ込まれる欲望の証。

それを深い漆黒の闇の底から、眺めている。

ーーーアレは、僕、なんだろうな。

どう見ても其処に映っているのは自分のはずなのに、実感がない。身体の感触が切り離されている。他人の情事を見せつけられている。目を逸らしても目蓋の裏に残像がチラつく。

自分の意識はこんなにも明瞭に残っているのに、手足の感覚はおろか、あらゆる神経細胞が切断されているかのように、触感も体感も失われている。ただ見て、聞いて、それだけ。匂いも味もしないけれど、それがせめてもの救いかもしれない。

たった独り切り離された場所で、あんなふうに白濁に塗れながら抱き潰される感覚を全身で浴び続けたなら、気が狂ってしまうだろう。悪趣味な冗談だ。視覚と聴覚で幾ら欲情を掻き立てられても、反応する身体は無く、発散する術も無く、繰り広げられる痴態は終わることを知らない。

密兄さまと交じり合っている自分の姿は、淫らで艶かしく、僕から見ても妖しい美しさを垂れ流していた。虚ろな表情でがむしゃらに貪欲に腰を打ち付けている密兄さまは心を何処かに置き忘れてしまったのか、ただ人形のように僕を抱いて、抱いて、抱き壊している。

酷く抱かれている筈の『彼』は快楽に喘ぎながら、嗤っていた。この場の主導権を握っているのは、密兄さまではない。組み敷かれ、欲望の侭に扱われている『彼』が、このみだりがましいゲームの支配者だ。

ーーーもっと、もっとだーーー

『彼』の声が聞こえてきそうだった。

どれだけ時間が経ったのだろう。もう、密兄さまの動きも緩慢になってきていた。文字通り、精も根も尽き果てたのだろう。突然、ぱったりと密兄さまが倒れこんできた。

意識を失った蒼白な顔で、静かに眠る姿はまるで死人のそれで、僕を驚かせた。

煩わしそうな表情で密兄さまの胸元を腕で押しやってどかした後、『彼』はゆっくりと上半身を起こした。白い肌に纏わりつく情事の濃厚な跡を確かめるように指を這わせ、一瞬眉間に皺を寄せて溜め息を吐くと、

酷く満足気に微笑んだ。

あれは、まるで男を虜にして淫欲に溺れさせる、

悪魔だ。

享楽と恍惚を餌に、淫らに交わり、性を搾り取り、美しく孵化する。
無我夢中になる男を嘲弄するサキュバス。
なんて淫靡で、強欲で、低俗で、退廃で、下劣で、
なのに高慢で、玲瓏で、清澄で、艶麗で、深遠で、

震慄しんりつするほど、美しい。

『見て、居たのだろう?』

頭の中に声が響いた。ニヤニヤと嗤いながら、『彼』は確かにこちらを見ている。

『貴様も此の栄光に浴せる己が身を誇るがよい。
 羞花閉月しゅうかへいげつ解語之花かいごのはなか。
 世に数多あまた美なる者は在れども、吾が身を宿した貴様は今や為虎添翼いこてんよくぞ。
 誰も彼もが貴様に平伏ひれふす。其の肉を貪らせ給えと懇願する。
 天香国色てんこうこくしょく、貴様は正に男共を狂わせて快楽地獄へと堕とす、
 稀代の傾城になれようよ。ふふ、大したものだ』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

ニューハーフヘルス体験

中田智也
BL
50代のオジサンがニューハーフヘルスにハマッた実体験と心の内を元にしたおはなし

処理中です...