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解放と君臨
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ーーー悪い夢を見ているようだった。
甲高い女の嗤い声。絡み合う白い手足。背中が柔らかな褥に叩きつけられる度に上下する視界。弾む息。そして絶えることなく注ぎ込まれる欲望の証。
それを深い漆黒の闇の底から、眺めている。
ーーーアレは、僕、なんだろうな。
どう見ても其処に映っているのは自分のはずなのに、実感がない。身体の感触が切り離されている。他人の情事を見せつけられている。目を逸らしても目蓋の裏に残像がチラつく。
自分の意識はこんなにも明瞭に残っているのに、手足の感覚はおろか、あらゆる神経細胞が切断されているかのように、触感も体感も失われている。ただ見て、聞いて、それだけ。匂いも味もしないけれど、それがせめてもの救いかもしれない。
たった独り切り離された場所で、あんなふうに白濁に塗れながら抱き潰される感覚を全身で浴び続けたなら、気が狂ってしまうだろう。悪趣味な冗談だ。視覚と聴覚で幾ら欲情を掻き立てられても、反応する身体は無く、発散する術も無く、繰り広げられる痴態は終わることを知らない。
密兄さまと交じり合っている自分の姿は、淫らで艶かしく、僕から見ても妖しい美しさを垂れ流していた。虚ろな表情でがむしゃらに貪欲に腰を打ち付けている密兄さまは心を何処かに置き忘れてしまったのか、ただ人形のように僕を抱いて、抱いて、抱き壊している。
酷く抱かれている筈の『彼』は快楽に喘ぎながら、嗤っていた。この場の主導権を握っているのは、密兄さまではない。組み敷かれ、欲望の侭に扱われている『彼』が、この濫りがましいゲームの支配者だ。
ーーーもっと、もっとだーーー
『彼』の声が聞こえてきそうだった。
どれだけ時間が経ったのだろう。もう、密兄さまの動きも緩慢になってきていた。文字通り、精も根も尽き果てたのだろう。突然、ぱったりと密兄さまが倒れこんできた。
意識を失った蒼白な顔で、静かに眠る姿はまるで死人のそれで、僕を驚かせた。
煩わしそうな表情で密兄さまの胸元を腕で押しやってどかした後、『彼』はゆっくりと上半身を起こした。白い肌に纏わりつく情事の濃厚な跡を確かめるように指を這わせ、一瞬眉間に皺を寄せて溜め息を吐くと、
酷く満足気に微笑んだ。
あれは、まるで男を虜にして淫欲に溺れさせる、
悪魔だ。
享楽と恍惚を餌に、淫らに交わり、性を搾り取り、美しく孵化する。
無我夢中になる男を嘲弄するサキュバス。
なんて淫靡で、強欲で、低俗で、退廃で、下劣で、
なのに高慢で、玲瓏で、清澄で、艶麗で、深遠で、
震慄するほど、美しい。
『見て、居たのだろう?』
頭の中に声が響いた。ニヤニヤと嗤いながら、『彼』は確かにこちらを見ている。
『貴様も此の栄光に浴せる己が身を誇るがよい。
羞花閉月、解語之花か。
世に数多美なる者は在れども、吾が身を宿した貴様は今や為虎添翼ぞ。
誰も彼もが貴様に平伏す。其の肉を貪らせ給えと懇願する。
天香国色、貴様は正に男共を狂わせて快楽地獄へと堕とす、
稀代の傾城になれようよ。ふふ、大したものだ』
ーーー悪い夢を見ているようだった。
甲高い女の嗤い声。絡み合う白い手足。背中が柔らかな褥に叩きつけられる度に上下する視界。弾む息。そして絶えることなく注ぎ込まれる欲望の証。
それを深い漆黒の闇の底から、眺めている。
ーーーアレは、僕、なんだろうな。
どう見ても其処に映っているのは自分のはずなのに、実感がない。身体の感触が切り離されている。他人の情事を見せつけられている。目を逸らしても目蓋の裏に残像がチラつく。
自分の意識はこんなにも明瞭に残っているのに、手足の感覚はおろか、あらゆる神経細胞が切断されているかのように、触感も体感も失われている。ただ見て、聞いて、それだけ。匂いも味もしないけれど、それがせめてもの救いかもしれない。
たった独り切り離された場所で、あんなふうに白濁に塗れながら抱き潰される感覚を全身で浴び続けたなら、気が狂ってしまうだろう。悪趣味な冗談だ。視覚と聴覚で幾ら欲情を掻き立てられても、反応する身体は無く、発散する術も無く、繰り広げられる痴態は終わることを知らない。
密兄さまと交じり合っている自分の姿は、淫らで艶かしく、僕から見ても妖しい美しさを垂れ流していた。虚ろな表情でがむしゃらに貪欲に腰を打ち付けている密兄さまは心を何処かに置き忘れてしまったのか、ただ人形のように僕を抱いて、抱いて、抱き壊している。
酷く抱かれている筈の『彼』は快楽に喘ぎながら、嗤っていた。この場の主導権を握っているのは、密兄さまではない。組み敷かれ、欲望の侭に扱われている『彼』が、この濫りがましいゲームの支配者だ。
ーーーもっと、もっとだーーー
『彼』の声が聞こえてきそうだった。
どれだけ時間が経ったのだろう。もう、密兄さまの動きも緩慢になってきていた。文字通り、精も根も尽き果てたのだろう。突然、ぱったりと密兄さまが倒れこんできた。
意識を失った蒼白な顔で、静かに眠る姿はまるで死人のそれで、僕を驚かせた。
煩わしそうな表情で密兄さまの胸元を腕で押しやってどかした後、『彼』はゆっくりと上半身を起こした。白い肌に纏わりつく情事の濃厚な跡を確かめるように指を這わせ、一瞬眉間に皺を寄せて溜め息を吐くと、
酷く満足気に微笑んだ。
あれは、まるで男を虜にして淫欲に溺れさせる、
悪魔だ。
享楽と恍惚を餌に、淫らに交わり、性を搾り取り、美しく孵化する。
無我夢中になる男を嘲弄するサキュバス。
なんて淫靡で、強欲で、低俗で、退廃で、下劣で、
なのに高慢で、玲瓏で、清澄で、艶麗で、深遠で、
震慄するほど、美しい。
『見て、居たのだろう?』
頭の中に声が響いた。ニヤニヤと嗤いながら、『彼』は確かにこちらを見ている。
『貴様も此の栄光に浴せる己が身を誇るがよい。
羞花閉月、解語之花か。
世に数多美なる者は在れども、吾が身を宿した貴様は今や為虎添翼ぞ。
誰も彼もが貴様に平伏す。其の肉を貪らせ給えと懇願する。
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