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解放と君臨
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唾液が顎を伝って滴り落ちる。弾む息は荒く、お預けを喰らって悶える駄犬に成り下がってでもいい、『彼女』を愛したい、愛されたい、『彼女』が欲しい、欲しがらせたい。
正気が、目の前でぽろぽろと、剥がれ落ちていくのを見た。
光を受けて綺羅綺羅と舞い落ちていくその向こうにすっと指を伸ばす、高慢な女王の笑み。思わず、その細い指を恭しく押し戴き、口に含んだ。
ーーー甘露ーーー
濃厚な蜂蜜のように、どろりと。
だが、咥内であっという間に吸い込まれてしまったそれは『彼女』の指先から泉のように何かが溢れ出ているとしか思えない。在る筈のない液体が、確かな嚥下の感触と共に体内に残る。これまで口にした何物よりも鮮烈で芳醇な旨味が身体を支配する。脳天に突き刺さるのは快楽という名の天恵。
まさに、神酒。
「吾が手に気安く触れるとは、汝は余程死にたいと見えるな」
嘲笑う声すらも天上の調べ。俺の、迦陵頻伽。
ああ、俺は狂っているのだろう。
気がつけば、『彼女』の細い身体を押し倒していた。
折れそうな腰。滑らかな彫像のように指先を滑る肌。恥らうように膨らむ小さな胸。宝石のような突起。それを隠すようにさらさらと揺れる、絹のようにしっとりとした濡れ烏。剥き出しになった背中には羽根の跡すら見えるようで、蕩けた脳髄が『彼女』に触れる度に夥しい量の脳内麻薬を分泌しまくって俺は本当にケダモノになってしまったように、『彼女』を求めた。
さっきまでお預けをくらっていたから、というだけではない。『彼女』の中にある魔力めいた何かが、俺を、男を、強烈に狂わせている。
Femme fatale. そんな言葉が脳裏に浮かんだ。運命を狂わせる、魔性の存在。この際、男であろうが女であろうが関係なかった。愛と番になったか否かすらどうでもいい。ただ目の前に在るこの肉を貪り尽くしたい。失った欠片を嵌めるように、足りない何かを注ぎ込んで埋めこんで仕舞いたい。
愛撫なんてない。ただ闇雲に喰い荒らすだけのセックス。
俺に圧し掛かられた『彼女』は、恐怖や怯えなど微塵も感じさせない満足気な薄笑いを浮かべながら、時折嬌声をあげる。初めからこうなることは理解っていたのだとでも云うように、俺を追い込んで追い立てる。
「さあ、吾が胎内に注ぐが好い。汝にその資格が有るのであれば
--何れ世界の覇者にならん」
絹を引き裂く妖鳥ハルピュイアの歌声か。それとも子を抱いてすすり泣く姑獲鳥の慟哭か。
幻の中で『彼女』は嗤いながら踊るように跳ね回る。その白い肌を繋ぎ止めておきたくて、何度も掻き擁くのに残像だけがちらついて、両の手から零れ落ちてしまう。霧より深く立ち込める甘い匂いに身も世もなく支配され、翻弄されている。
何度深く抉って、何度色に染めても、爆ぜた欲望の数如きではまるで足らない。惜しみなく湧き出してくるマグマが地中で滾るように、俺の中で増殖していく尽きない劣情に、俺自身が喰われてしまいそうだった。
正気が、目の前でぽろぽろと、剥がれ落ちていくのを見た。
光を受けて綺羅綺羅と舞い落ちていくその向こうにすっと指を伸ばす、高慢な女王の笑み。思わず、その細い指を恭しく押し戴き、口に含んだ。
ーーー甘露ーーー
濃厚な蜂蜜のように、どろりと。
だが、咥内であっという間に吸い込まれてしまったそれは『彼女』の指先から泉のように何かが溢れ出ているとしか思えない。在る筈のない液体が、確かな嚥下の感触と共に体内に残る。これまで口にした何物よりも鮮烈で芳醇な旨味が身体を支配する。脳天に突き刺さるのは快楽という名の天恵。
まさに、神酒。
「吾が手に気安く触れるとは、汝は余程死にたいと見えるな」
嘲笑う声すらも天上の調べ。俺の、迦陵頻伽。
ああ、俺は狂っているのだろう。
気がつけば、『彼女』の細い身体を押し倒していた。
折れそうな腰。滑らかな彫像のように指先を滑る肌。恥らうように膨らむ小さな胸。宝石のような突起。それを隠すようにさらさらと揺れる、絹のようにしっとりとした濡れ烏。剥き出しになった背中には羽根の跡すら見えるようで、蕩けた脳髄が『彼女』に触れる度に夥しい量の脳内麻薬を分泌しまくって俺は本当にケダモノになってしまったように、『彼女』を求めた。
さっきまでお預けをくらっていたから、というだけではない。『彼女』の中にある魔力めいた何かが、俺を、男を、強烈に狂わせている。
Femme fatale. そんな言葉が脳裏に浮かんだ。運命を狂わせる、魔性の存在。この際、男であろうが女であろうが関係なかった。愛と番になったか否かすらどうでもいい。ただ目の前に在るこの肉を貪り尽くしたい。失った欠片を嵌めるように、足りない何かを注ぎ込んで埋めこんで仕舞いたい。
愛撫なんてない。ただ闇雲に喰い荒らすだけのセックス。
俺に圧し掛かられた『彼女』は、恐怖や怯えなど微塵も感じさせない満足気な薄笑いを浮かべながら、時折嬌声をあげる。初めからこうなることは理解っていたのだとでも云うように、俺を追い込んで追い立てる。
「さあ、吾が胎内に注ぐが好い。汝にその資格が有るのであれば
--何れ世界の覇者にならん」
絹を引き裂く妖鳥ハルピュイアの歌声か。それとも子を抱いてすすり泣く姑獲鳥の慟哭か。
幻の中で『彼女』は嗤いながら踊るように跳ね回る。その白い肌を繋ぎ止めておきたくて、何度も掻き擁くのに残像だけがちらついて、両の手から零れ落ちてしまう。霧より深く立ち込める甘い匂いに身も世もなく支配され、翻弄されている。
何度深く抉って、何度色に染めても、爆ぜた欲望の数如きではまるで足らない。惜しみなく湧き出してくるマグマが地中で滾るように、俺の中で増殖していく尽きない劣情に、俺自身が喰われてしまいそうだった。
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