追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

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第66話 勇者の末路

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『光の剣』の解散。そのニュースは王都の冒険者たちの間を瞬く間に駆け巡った。だが、その話題に上るのはもはや驚きや賞賛ではない。失墜した英雄たちへの冷笑と憐れみだけだった。

「聞いたか? 『光の剣』、ついに解散したらしいぜ」
「まあ、当然だろうな。Bランクに落ちてからも、ロクな成果を出せてなかったし」
「仲間割れが原因だって話だ。勇者アレクが仲間を役立たず呼ばわりして追い出したとか」
「勇者ねぇ……。今じゃ、ただの『傲慢王』だろ」

そんな嘲笑の声を背中に浴びながら、アレクは一人で王都を彷徨っていた。

彼は本気で信じていた。イリーナとマルスという『足手まとい』がいなくなれば、自分は本来の力を取り戻せる、と。彼は一人でギルドの依頼を受け、再びSランクへと返り咲くための戦いを始めた。

だが、現実は彼が想像していたものとはあまりにもかけ離れていた。

一人になったことで、聖剣ソルブレイバーが彼の生命力を蝕む速度は加速度的に増していった。簡単なスライム討伐でさえ剣を数回振るうだけで、立っていられないほどの激しい疲労感に襲われる。依頼の達成率はパーティーを組んでいた頃よりも、さらに悲惨なものとなった。

「はあっ……はあっ……! なぜだ……! なぜ、力が……!」

彼は路地裏で壁に手をつき、荒い呼吸を繰り返した。かつてオークの大群を一人で薙ぎ払ったほどの力が、今はもうその身体のどこにも残っていなかった。

ギルドからの報酬は激減し、彼が拠点としていた高級宿の宿代もすぐに払えなくなった。彼は宿を追い出され、日々の寝床にも事欠くようになった。黄金の髪は汚れ、輝いていた鎧も手入れを怠ったせいでその輝きを失っていく。

それでも、彼のプライドだけは痩せ衰えることを知らなかった。

「俺は勇者だ……。聖剣に選ばれた特別な存在なのだ……。こんなはずがない……!」

彼はぶつぶつと誰に言うでもなく呟きながら、薄汚れた街を歩き続けた。だが、もはや誰も彼を勇者として見る者はいなかった。人々は落ちぶれた元有名冒険者を、奇異の目で、あるいは憐れみの目で遠巻きに見ているだけだった。

ある日、彼はついに日々の食事代にも困るようになった。空腹に耐えかねた彼は、かつての自分なら考えられないような行動に出た。

スラム街の、施しを受けるための行列。そこに彼は並んだのだ。

「……おい、見ろよ。あれ、勇者アレ-クじゃねえか?」
「まさか。あんな英雄様が俺たちと同じようにパンの施しを待つなんてよ」

周囲からひそひそとした声が聞こえる。アレクは屈辱に顔を歪め、フードでその顔を隠した。だが、空腹には勝てない。

やがて彼の番が来た。教会の神父が彼に一つの黒パンを差し出す。

その時だった。神父の後ろにいた一人の少年がアレクの顔をまじまじと見つめ、そして大きな声で叫んだ。

「あ! 『にせもの勇者』だ!」

その一言に周囲の空気が凍った。

「お母さんが言ってた! あの人は本当はすごく弱くて、仲間をいじめて追い出した悪い勇者なんだって!」

子供の無邪気で残酷な言葉。それが、アレクの心の最後の壁を粉々に打ち砕いた。

「……ち、がう」

彼の唇からか細い声が漏れた。

「俺は……俺は勇者だ……! 偽物なんかじゃ、ない……!」

彼は狂ったように叫びながらその場から逃げ出した。施しのパンさえ受け取ることなく。

その日から、アレクの精神は急速に崩壊していった。

彼は幻覚を見るようになった。かつて自分が倒した魔物たちが彼を嘲笑いながら闇の中から現れる。そして、何よりも彼を苦しめたのはリアムの幻影だった。

『アレクさん、大丈夫ですか?』

幻影のリアムはいつも、パーティーにいた頃と同じように心配そうな顔で彼に語りかけてくる。

「うるさい! 消えろ、寄生虫が! 俺はお前の助けなど必要としていない!」

彼は存在しない幻影に向かって聖剣を振り回した。だが、その剣は空を切るだけ。そして、その度に彼の生命力は確実に削り取られていった。

やがて、アレクは聖剣を振るう力さえも失った。
伝説の聖剣ソルブレイバーは、もはや彼の生命力を吸い尽くすだけの呪いの剣と化していた。

彼はその剣を、まるで自分の身体の一部であるかのように片時も手放さなかった。それが自分が『勇者』であった最後の証だったからだ。

数週間後。
王都のスラム街の最も汚く暗い路地裏。
そこで一人の男が壁に寄りかかり、虚ろな目で空を見上げていた。

その姿はもはや誰が見ても、かつての勇者アレクだとは気づかないだろう。髪は伸び放題で頬はこけ、その瞳にはもはや何の光も宿っていなかった。廃人。その言葉が彼にはふさわしかった。

彼の膝の上には、錆びつき輝きを失った一本の剣が置かれている。

「……りあむ」

彼のひび割れた唇から、か細い声が漏れた。

「……どこだ……。どこにいるんだ……。お前がいないと……俺は……」

彼はようやく認めたのだ。
自分が一人では何もできない無力な存在であったことを。
そして、自分が切り捨てた男が自分にとってどれほどかけがえのない存在であったかを。

だが、その自覚はあまりにも遅すぎた。

彼の瞳から一筋の汚れた涙がこぼれ落ちた。それは失われた栄光への哀悼か、それとも犯した過ちへの悔恨か。

もはや誰にも分からない。

かつて王国中の希望をその一身に背負った勇者の物語は、こうして誰にも知られることなく、王都の最も暗い場所で惨めな終焉を迎えた。

その頃、彼の耳にも風の噂が届き始めていた。

辺境の地に『エデン』という名の奇跡の楽園があるという。
そこには『聖人』と呼ばれる男がいて、どんな呪いも病も癒やしてしまうのだと。

だが、その『聖人』がかつて自分が『寄生虫』と罵り追放した男であるとは、今の彼には想像することさえできなかった。
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