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第七十七話 アリアの祈り
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地上からの無差別な迎撃魔法と矢の雨。
それは、教皇の冷酷な計算の上に成り立っていた。
我々が反撃すれば、その被害は必ず王都の市街地と、そこに住む罪のない民衆に及ぶ。
聖女である私が、それを見過ごすはずがない。
その足枷が我々の動きを鈍らせるだろう、と。
「……汚い真ěを」
ゼノヴィアが吐き捨てるように言った。
彼女でさえ、無関係の民衆を巻き込むような戦い方は好まない。それは戦士としての矜持に反する行為だった。
カイザーも忌々しげに唸りながら、その巨体で私を庇うように飛んでくる矢を弾き落としている。
このままではジリ貧になる。
カイザーの背中の上で、私は固く決意した。
「カイザー様。私を降ろしてください」
「……何を言う。危険すぎる」
「お願いします」
私は彼の首筋の鱗を優しく撫でた。
「私にしかできないことがあります。私を信じてください」
私の揺るぎない声。
カイザーは一瞬ためらったが、やがて深く頷いた。
彼はゆっくりと高度を下げ、王都の中でも特に大きな中央広場へと着地した。
そのあまりの巨体の出現に、地上で弓を構えていた兵士たちや、物陰から様子を窺っていた民衆たちが一斉に悲鳴を上げる。
「で、出たぞ! 黒竜だ!」
「聖女様を攫った悪魔め!」
彼らは恐怖と憎悪に顔を歪め、私たちが降り立った広場を遠巻きに包囲していく。
私はカイザーの背中から静かに地面に降り立った。
そして私を守るように、レオンとゼノヴィアもその両脇に降り立つ。
私たちは完全に敵の只中に孤立していた。
「アリア……!」
レオンが心配そうに私を見る。
私は彼に大丈夫、と微笑みかけると、一人前へと進み出た。
包囲する兵士たちと民衆たちの前に。
フードを深く被っていた私の顔は、まだ彼らには見えていない。
「……何者だ、貴様!」
兵士の一人が震える声で叫ぶ。
私はその声に応えず、ただ静かに胸の前で両手を組んだ。
そして、ゆっくりとその場で膝をつく。
祈りの姿勢。
「……な、何をする気だ……?」
兵士たちが戸惑っている。
私は目を閉じた。
そして、私の魂の全てを込めて祈り始めた。
それは誰かに教えられた定型句の祈りではない。
私の心の中から溢れ出す、ありのままの想い。
『―――どうか』
心の中で唱える。
『どうか、この無益な争いが終わりますように』
『どうか、これ以上誰も傷つくことがありませんように』
『どうか、憎しみと恐怖に囚われた人々の心に、安らぎの光が灯りますように』
私の祈りに呼応して。
私の体から金色の光が溢れ出した。
それは今まで私が放ってきたどんな光よりも強く、そして温かい慈愛に満ちた光だった。
光は私の体から波紋のように広がっていく。
それは攻撃的な力ではない。
ただ、そこに存在する全ての命を優しく包み込む、癒やしのオーラ。
広場を包囲していた兵士たち。
物陰で怯えていた民衆たち。
その全てに私の金色の光が降り注いでいく。
「……あ……」
誰かが声を漏らした。
光に触れた兵士の腕の切り傷が、すうっと癒えていく。
光を浴びた民衆の恐怖に歪んだ顔が、次第に穏やかな表情へと変わっていく。
戦いの興奮で高ぶっていた彼らの心が。
私の祈りの光によって強制的に鎮められていく。
戦場で傷ついた敵も味方もない。
その場にいる全ての傷ついた者たちを、私の光は平等に癒やしていく。
ワイバーンに踏みつけられ足を怪我した老婆。
流れ矢に当たり肩を負傷した若い兵士。
混乱の中で親とはぐれ、泣きじゃくっていた小さな子供。
その全ての苦しみが、私の光の中でゆっくりと溶けて消えていく。
私はただ祈り続けた。
この愚かで、そして愛おしい故郷の人々のために。
やがて光が収まった時。
広場を支配していたのは戦いの狂騒ではなかった。
ただ、呆然とした静寂。
誰もが武器を下ろし、傷が癒えた自分の体を信じられないというように見つめている。
そして、全ての視線が再び祈りの姿勢を続ける私一人に集中した。
私はゆっくりと顔を上げた。
そして被っていたフードを静かに下ろす。
私の素顔が露わになる。
その顔を。
その瞳を。
この国の民ならば誰もが知っている。
「……まさか」
誰かが震える声で呟いた。
「聖女……アリア様……?」
その声。
それが反撃の狼煙だった。
偽りの物語に終止符を打つための、真実の第一声だった。
それは、教皇の冷酷な計算の上に成り立っていた。
我々が反撃すれば、その被害は必ず王都の市街地と、そこに住む罪のない民衆に及ぶ。
聖女である私が、それを見過ごすはずがない。
その足枷が我々の動きを鈍らせるだろう、と。
「……汚い真ěを」
ゼノヴィアが吐き捨てるように言った。
彼女でさえ、無関係の民衆を巻き込むような戦い方は好まない。それは戦士としての矜持に反する行為だった。
カイザーも忌々しげに唸りながら、その巨体で私を庇うように飛んでくる矢を弾き落としている。
このままではジリ貧になる。
カイザーの背中の上で、私は固く決意した。
「カイザー様。私を降ろしてください」
「……何を言う。危険すぎる」
「お願いします」
私は彼の首筋の鱗を優しく撫でた。
「私にしかできないことがあります。私を信じてください」
私の揺るぎない声。
カイザーは一瞬ためらったが、やがて深く頷いた。
彼はゆっくりと高度を下げ、王都の中でも特に大きな中央広場へと着地した。
そのあまりの巨体の出現に、地上で弓を構えていた兵士たちや、物陰から様子を窺っていた民衆たちが一斉に悲鳴を上げる。
「で、出たぞ! 黒竜だ!」
「聖女様を攫った悪魔め!」
彼らは恐怖と憎悪に顔を歪め、私たちが降り立った広場を遠巻きに包囲していく。
私はカイザーの背中から静かに地面に降り立った。
そして私を守るように、レオンとゼノヴィアもその両脇に降り立つ。
私たちは完全に敵の只中に孤立していた。
「アリア……!」
レオンが心配そうに私を見る。
私は彼に大丈夫、と微笑みかけると、一人前へと進み出た。
包囲する兵士たちと民衆たちの前に。
フードを深く被っていた私の顔は、まだ彼らには見えていない。
「……何者だ、貴様!」
兵士の一人が震える声で叫ぶ。
私はその声に応えず、ただ静かに胸の前で両手を組んだ。
そして、ゆっくりとその場で膝をつく。
祈りの姿勢。
「……な、何をする気だ……?」
兵士たちが戸惑っている。
私は目を閉じた。
そして、私の魂の全てを込めて祈り始めた。
それは誰かに教えられた定型句の祈りではない。
私の心の中から溢れ出す、ありのままの想い。
『―――どうか』
心の中で唱える。
『どうか、この無益な争いが終わりますように』
『どうか、これ以上誰も傷つくことがありませんように』
『どうか、憎しみと恐怖に囚われた人々の心に、安らぎの光が灯りますように』
私の祈りに呼応して。
私の体から金色の光が溢れ出した。
それは今まで私が放ってきたどんな光よりも強く、そして温かい慈愛に満ちた光だった。
光は私の体から波紋のように広がっていく。
それは攻撃的な力ではない。
ただ、そこに存在する全ての命を優しく包み込む、癒やしのオーラ。
広場を包囲していた兵士たち。
物陰で怯えていた民衆たち。
その全てに私の金色の光が降り注いでいく。
「……あ……」
誰かが声を漏らした。
光に触れた兵士の腕の切り傷が、すうっと癒えていく。
光を浴びた民衆の恐怖に歪んだ顔が、次第に穏やかな表情へと変わっていく。
戦いの興奮で高ぶっていた彼らの心が。
私の祈りの光によって強制的に鎮められていく。
戦場で傷ついた敵も味方もない。
その場にいる全ての傷ついた者たちを、私の光は平等に癒やしていく。
ワイバーンに踏みつけられ足を怪我した老婆。
流れ矢に当たり肩を負傷した若い兵士。
混乱の中で親とはぐれ、泣きじゃくっていた小さな子供。
その全ての苦しみが、私の光の中でゆっくりと溶けて消えていく。
私はただ祈り続けた。
この愚かで、そして愛おしい故郷の人々のために。
やがて光が収まった時。
広場を支配していたのは戦いの狂騒ではなかった。
ただ、呆然とした静寂。
誰もが武器を下ろし、傷が癒えた自分の体を信じられないというように見つめている。
そして、全ての視線が再び祈りの姿勢を続ける私一人に集中した。
私はゆっくりと顔を上げた。
そして被っていたフードを静かに下ろす。
私の素顔が露わになる。
その顔を。
その瞳を。
この国の民ならば誰もが知っている。
「……まさか」
誰かが震える声で呟いた。
「聖女……アリア様……?」
その声。
それが反撃の狼煙だった。
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