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第48話 後夜祭のキャンプファイヤー
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大盛況のうちに、文化祭の一日目は幕を閉じた。
俺たちのカフェ「Café de Shizuku」は、予想を遥かに上回る売り上げを記録し、クラスは達成感と心地よい疲労感に包まれていた。
片付けを終えた教室で、健太が「よっしゃー! 打ち上げは後夜祭だ!」と叫ぶと、クラスの全員が「おー!」と雄叫びを上げた。
夕暮れの校庭には、大きなキャンプファイヤーが組まれ、すでに多くの生徒たちが集まり始めていた。
日が落ち、空が深い藍色に染まる頃、大きな炎が点火された。
パチパチと薪がはぜる音。天高く舞い上がる火の粉。揺れる炎が、集まった生徒たちの顔を、幻想的に照らし出している。
BGMとして流れる、流行りのポップス。あちこちで生まれる、楽しそうな笑い声の輪。
まさに、文化祭のクライマックスにふさわしい光景だった。
俺たちのクラスも、キャンプファイヤーを囲むようにして、自然と一つの輪を作っていた。
健太や天野さんたちが中心となって、今日の成功を労い合い、ジュースで乾杯する。その輪の中心には、少しだけ恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑む雫の姿があった。
今日のMVPは間違いなく彼女だ。クラスメイトたちが代わる代わる彼女の元へ行き、「月宮さんのおかげだよ!」「本当にありがとう!」と感謝の言葉を伝えている。
雫は、その一つ一つに、丁寧にお辞儀をしたり、はにかんだ笑顔を見せたりしていた。
俺は、その光景を、少しだけ離れた場所から、温かい気持ちで眺めていた。
彼女が、自分の力で、自分の居場所を見つけた。
その事実が、俺の心を何よりも満たしてくれていた。
しばらくして、BGMがアップテンポな曲から、しっとりとしたバラードに変わった。
会場の雰囲気も、賑やかなお祭り騒ぎから、少しだけ感傷的で、ロマンチックなムードへと変化していく。
その、絶妙なタイミングだった。
俺は、意を決して、雫のそばへと歩み寄った。
彼女は、一人で揺れる炎をじっと見つめていた。その横顔は、炎の光に照らされて、息をのむほど美しかった。
俺の気配に気づいたのか、彼女がゆっくりとこちらを振り返る。
その瞳には、もうあの日のような悲しみの色はない。ただ、炎の光を反射して、潤んだようにきらめいている。
「……少し、いいかな」
俺が、周りに聞こえないくらいの小さな声で言うと、彼女はこくりと頷いた。
俺たちは、少しだけ人の輪から離れた、校庭の隅の、静かな場所へと移動した。
遠くで聞こえる、バラードのメロディと、キャンプファイヤーのはぜる音。
二人きりの、特別な時間が流れる。
俺は、ずっと聞きたかったことを、切り出した。
「なあ、雫」
初めて、彼女の名前を声に出して呼んだ。
その響きに、自分でも驚く。
彼女の肩が、びくりと大きく震えた。そして、驚いたように俺の顔を見上げる。
俺は、彼女の目を真っ直ぐに見つめ、手話で、言葉を続けた。
『ずっと、聞きたかったんだけど』
『俺、何か、雫を怒らせるようなこと、しちゃったかな?』
俺の、ストレートな質問。
彼女は、驚いたように目を丸くした。そして、慌てたように、ぶんぶんと首を横に振る。
『違うの! 航くんは、何も悪くない!』
彼女の指が、焦るように、言葉を紡ぐ。
『怒ってたわけでも、ないの。ただ……』
彼女は、そこで言葉を切った。
俯いてしまい、何かを言うのを、ひどくためらっているようだった。
俺は、彼女の言葉を、辛抱強く待った。
揺れる炎が、彼女の顔に、不安げな影を落としている。
やがて、彼女は意を決したように、顔を上げた。
その瞳は、潤んでいた。
そして、彼女は、震える指で、ゆっくりと、その胸の内を明かしてくれた。
『少しだけ……やきもち、焼いちゃった』
その言葉を読み取った瞬間、俺の頭は、ハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。
やきもち?
嫉妬?
俺に?
彼女は、恥ずかしそうに、でも正直に、言葉を続ける。
『文化祭の準備中、航くんが、他の女の子と、すごく楽しそうに話してるのを見て……』
『航くんの隣は、私の場所だって、勝手に思ってたから』
『航くんの笑顔は、私だけのものだって、わがままなこと、考えちゃってたから』
『みんなに優しくする航くんは、すごく素敵なのに。そんな風に思っちゃう自分が、すごく嫌で……』
彼女の指が紡ぐ、一つ一つの言葉。
それは、あまりにも、健気で、純粋で、そしてどうしようもなく、愛おしい、彼女の心の叫びだった。
俺は、完全に、言葉を失っていた。
そうか。
そういうことだったのか。
俺が、他の女子と親しく話していたことに、彼女は、一人で心を痛めていたのだ。
なんて、馬鹿だったんだ、俺は。
彼女の不安に、全く気づいてやれなかった。
それどころか、彼女が勇気を出して自分の居場所を広げているのを、ただ呑気に喜んでいただけだった。
一番、彼女の心に寄り添ってあげなければいけなかったのは、俺だったのに。
込み上げてくる、後悔と、それ以上に巨大な愛おしさ。
俺は、目の前で、泣きそうになるのを必死で堪えている、この愛しい少女を、力いっぱい抱きしめたい衝動に駆られた。
「……そっか」
俺は、なんとかそれだけ声を絞り出す。
そして、彼女の潤んだ瞳を、もう一度、真っ直ぐに見つめた。
今度は、俺が、俺の気持ちを、全て伝える番だ。
俺たちのカフェ「Café de Shizuku」は、予想を遥かに上回る売り上げを記録し、クラスは達成感と心地よい疲労感に包まれていた。
片付けを終えた教室で、健太が「よっしゃー! 打ち上げは後夜祭だ!」と叫ぶと、クラスの全員が「おー!」と雄叫びを上げた。
夕暮れの校庭には、大きなキャンプファイヤーが組まれ、すでに多くの生徒たちが集まり始めていた。
日が落ち、空が深い藍色に染まる頃、大きな炎が点火された。
パチパチと薪がはぜる音。天高く舞い上がる火の粉。揺れる炎が、集まった生徒たちの顔を、幻想的に照らし出している。
BGMとして流れる、流行りのポップス。あちこちで生まれる、楽しそうな笑い声の輪。
まさに、文化祭のクライマックスにふさわしい光景だった。
俺たちのクラスも、キャンプファイヤーを囲むようにして、自然と一つの輪を作っていた。
健太や天野さんたちが中心となって、今日の成功を労い合い、ジュースで乾杯する。その輪の中心には、少しだけ恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑む雫の姿があった。
今日のMVPは間違いなく彼女だ。クラスメイトたちが代わる代わる彼女の元へ行き、「月宮さんのおかげだよ!」「本当にありがとう!」と感謝の言葉を伝えている。
雫は、その一つ一つに、丁寧にお辞儀をしたり、はにかんだ笑顔を見せたりしていた。
俺は、その光景を、少しだけ離れた場所から、温かい気持ちで眺めていた。
彼女が、自分の力で、自分の居場所を見つけた。
その事実が、俺の心を何よりも満たしてくれていた。
しばらくして、BGMがアップテンポな曲から、しっとりとしたバラードに変わった。
会場の雰囲気も、賑やかなお祭り騒ぎから、少しだけ感傷的で、ロマンチックなムードへと変化していく。
その、絶妙なタイミングだった。
俺は、意を決して、雫のそばへと歩み寄った。
彼女は、一人で揺れる炎をじっと見つめていた。その横顔は、炎の光に照らされて、息をのむほど美しかった。
俺の気配に気づいたのか、彼女がゆっくりとこちらを振り返る。
その瞳には、もうあの日のような悲しみの色はない。ただ、炎の光を反射して、潤んだようにきらめいている。
「……少し、いいかな」
俺が、周りに聞こえないくらいの小さな声で言うと、彼女はこくりと頷いた。
俺たちは、少しだけ人の輪から離れた、校庭の隅の、静かな場所へと移動した。
遠くで聞こえる、バラードのメロディと、キャンプファイヤーのはぜる音。
二人きりの、特別な時間が流れる。
俺は、ずっと聞きたかったことを、切り出した。
「なあ、雫」
初めて、彼女の名前を声に出して呼んだ。
その響きに、自分でも驚く。
彼女の肩が、びくりと大きく震えた。そして、驚いたように俺の顔を見上げる。
俺は、彼女の目を真っ直ぐに見つめ、手話で、言葉を続けた。
『ずっと、聞きたかったんだけど』
『俺、何か、雫を怒らせるようなこと、しちゃったかな?』
俺の、ストレートな質問。
彼女は、驚いたように目を丸くした。そして、慌てたように、ぶんぶんと首を横に振る。
『違うの! 航くんは、何も悪くない!』
彼女の指が、焦るように、言葉を紡ぐ。
『怒ってたわけでも、ないの。ただ……』
彼女は、そこで言葉を切った。
俯いてしまい、何かを言うのを、ひどくためらっているようだった。
俺は、彼女の言葉を、辛抱強く待った。
揺れる炎が、彼女の顔に、不安げな影を落としている。
やがて、彼女は意を決したように、顔を上げた。
その瞳は、潤んでいた。
そして、彼女は、震える指で、ゆっくりと、その胸の内を明かしてくれた。
『少しだけ……やきもち、焼いちゃった』
その言葉を読み取った瞬間、俺の頭は、ハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。
やきもち?
嫉妬?
俺に?
彼女は、恥ずかしそうに、でも正直に、言葉を続ける。
『文化祭の準備中、航くんが、他の女の子と、すごく楽しそうに話してるのを見て……』
『航くんの隣は、私の場所だって、勝手に思ってたから』
『航くんの笑顔は、私だけのものだって、わがままなこと、考えちゃってたから』
『みんなに優しくする航くんは、すごく素敵なのに。そんな風に思っちゃう自分が、すごく嫌で……』
彼女の指が紡ぐ、一つ一つの言葉。
それは、あまりにも、健気で、純粋で、そしてどうしようもなく、愛おしい、彼女の心の叫びだった。
俺は、完全に、言葉を失っていた。
そうか。
そういうことだったのか。
俺が、他の女子と親しく話していたことに、彼女は、一人で心を痛めていたのだ。
なんて、馬鹿だったんだ、俺は。
彼女の不安に、全く気づいてやれなかった。
それどころか、彼女が勇気を出して自分の居場所を広げているのを、ただ呑気に喜んでいただけだった。
一番、彼女の心に寄り添ってあげなければいけなかったのは、俺だったのに。
込み上げてくる、後悔と、それ以上に巨大な愛おしさ。
俺は、目の前で、泣きそうになるのを必死で堪えている、この愛しい少女を、力いっぱい抱きしめたい衝動に駆られた。
「……そっか」
俺は、なんとかそれだけ声を絞り出す。
そして、彼女の潤んだ瞳を、もう一度、真っ直ぐに見つめた。
今度は、俺が、俺の気持ちを、全て伝える番だ。
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