クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第63話 古都と君と

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数時間の甘い移動時間を経て、俺たちの乗った新幹線は古都・京都の地に滑り込んだ。
ホームに降り立った瞬間、東京とは違う、少しだけひんやりとした歴史の匂いがする空気が俺たちの頬を撫でた。
「うおー! 着いたー! 京都だー!」
健太が眠気など微塵も感じさせない大声で叫ぶ。その声に、俺たちの班のメンバーも長旅の疲れを忘れて一気にテンションが上がった。

ホテルに荷物を置いた後、早速俺たちは班別行動へと繰り出した。
初日の午後は、それぞれの希望を詰め込んだ欲張りな観光プランだ。
バスと電車を乗り継ぎ、まず俺たちが向かったのはきらびやかな金閣寺だった。
教科書で何度も見た、あの黄金に輝く舎利殿が池の水面にその姿を映している。その圧倒的な美しさに、俺たちはただただ息をのんだ。

「すげー! マジで金ピカじゃん!」
「写真撮ろ、写真!」
健太や天野さんたちがはしゃぎながらスマホのカメラを向けている。
俺は、そんな喧騒から少し離れた場所で、静かにその光景に見入っている雫の隣に立った。
彼女は、その美しい金閣寺をまるで一枚の絵画を鑑賞するかのように、真剣な眼差しで見つめていた。その瞳には深い感動と、芸術家としての探究心がきらきらと輝いている。

「すごいな」
俺が声で呟くと、彼女はこくりと頷いた。そして、手話でそっと言葉を紡ぐ。
『言葉が出ないくらい、綺麗』
その素直な感想が、俺の心にすとんと落ちてきた。
俺も同じ気持ちだった。
二人で同じものを見て、同じように感動する。
その当たり前のようで奇跡のような瞬間に、俺はどうしようもない幸福感を感じていた。

金閣寺を後にした俺たちが次に向かったのは、女子たちの強い希望で決まった着物のレンタルショップだった。
「せっかく京都に来たんだから、着物着て散策したいじゃん!」
天野さんのその一言に、男子は少しだけ気恥ずかしさを感じながらも異論はなかった。
なぜなら、俺たちの頭の中には同じ想像が浮かんでいたからだ。
女子たちの着物姿。
そして、何よりも。
月宮雫の着物姿。

店に入ると、色とりどりの着物や浴衣が壁一面にずらりと並んでいた。
女子たちは「きゃー! 可愛い!」と歓声を上げ、鏡の前で着物を体に当てながら、どれにしようかと目を輝かせている。
雫も白石さんと一緒に、楽しそうに、しかし少しだけ恥ずかしそうに着物を選んでいた。

しばらくして、着付けを終えた女子たちが暖簾の向こうから現れた。
「どうかなー?」
天野さんたちは華やかな赤い着物に身を包み、いつも以上に大人っぽく、そして艶っぽく見えた。健太たちが「おー! めっちゃいいじゃん!」と素直な賛辞を送る。

そして、最後に。
少しだけためらうように。
雫が、暖簾の影からそっと姿を現した。

その瞬間、俺の周りの空気がまた止まった。
彼女が選んだのは、淡い藤色の地に小さな桜の花びらが舞う、上品で儚げな柄の着物だった。
帯は、柔らかな白。
髪は夏祭りの時と同じように綺麗に結い上げられ、今度は桜の花をかたどった繊細なかんざしが挿されている。
その姿は、まるで春の日にだけ現れる花の精霊のようだった。
夏祭りの浴衣姿も、もちろん最高だった。
でも、今日の着物姿はそれを遥かに凌駕するほどの、息をのむような美しさだった。
清楚で、可憐で、そしてどこか触れたら消えてしまいそうな儚い色香を漂わせている。

「…………」
俺は言葉を失い、ただその光景に見入ることしかできなかった。
健太でさえも、「お……」と感嘆の声を漏らしたまま言葉を失っている。

俺たちのあまりにも分かりやすい反応を見て、雫は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
その仕草すら、絵になるほど美しい。
俺はなんとか我に返ると、彼女のそばに駆け寄った。
そして、周りの目も気にせず、はっきりと手話で伝えた。

『世界で、一番、綺麗だ』

俺のストレートすぎる言葉。
彼女は顔を上げた。その潤んだ瞳には、驚きと、そして隠しきれない喜びの色が溢れんばかりに浮かんでいた。
彼女は何かを言いたそうに唇を動かしたが、結局言葉にはならなかった。
代わりに、その白い指先でそっと、俺が着ている黒い羽織の袖を、きゅっと小さく握りしめたのだ。
その健気で、あまりにも愛おしい仕草が、彼女からの最高の返事だった。

着物姿に変身した俺たちは、古い街並みが残る祇園の石畳を歩いた。
カラン、コロン。
慣れない下駄の音が、心地よく響く。
いつもとは全く違う特別な衣装。
その非日常感が、俺たちの心をさらに浮き立たせた。

すれ違う観光客たちが「あのカップル、素敵ね」と囁いているのが聞こえてくる。
そのたびに、俺と雫は顔を見合わせてはにかんだ。
カップル。
その響きが、くすぐったくて、そして誇らしかった。

古都の美しい街並みと、隣で微笑む着物姿の君。
それはまるで夢の中にいるような、幻想的で最高に幸せな時間だった。
俺たちの修学旅行は、まだ始まったばかり。
これから、どんな素敵な景色が俺たちを待っているのだろう。
俺は、袖を握る彼女の小さな手の温もりを感じながら、これから始まる未来への期待に胸を膨らませていた。
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