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第98話 「す…き……」
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夕暮れの教室。
俺の胸に額を預け心を落ち着かせた雫。
彼女がゆっくりと顔を上げた時、その瞳にはもう何の迷いもなかった。
そこにあるのは俺への絶対的な信頼と、そしてどうしようもないほどの愛情だけ。
彼女はもう一度深く息を吸い込んだ。
俺の心臓の鼓動が伝わってしまったかのように、どくんと大きく跳ねる。
今度こそ。
その瞬間が来る。
俺は固唾を飲んで彼女の唇を見つめた。
彼女の震える唇がゆっくりと開かれる。
そして、紡がれた最初の一音。
「す……」
それはまだ囁き声のようにか細かった。
でも、あの日練習で聞いた時よりもずっと、ずっと芯のある確かな「音」だった。
その音の響きに彼女自身も勇気づけられたのだろう。
彼女の表情に微かな自信の光が灯る。
彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめ返したまま、次の音を紡いだ。
「き……」
好き。
二つの音が確かに繋がった。
夕暮れの静まり返った教室に、そのあまりにも尊い響きがこだました。
それは、世界で一番短くて。
世界で一番甘い、愛の告白だった。
俺はもうダメだった。
込み上げてくる、どうしようもないほどの感動と愛おしさ。
目の前のこの奇跡の光景が信じられなくて。
俺はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
全ての音を紡ぎ終えた雫は、まるで全身の力を使い果たしたかのように、はあ、はあと小さな肩で荒い息をついていた。
その顔は極度の集中と緊張と、そして達成感で真っ赤に染まっている。
そして俺の反応を不安そうに、潤んだ瞳でじっと窺っていた。
「どう、だった……?」
その瞳が雄弁にそう問いかけていた。
どうだった、なんて。
そんな言葉で表現できるはずがない。
最高、なんて言葉でも足りない。
俺はゆっくりと彼女の前に屈み込んだ。
そして、彼女の潤んだ瞳と視線の高さを合わせる。
「……雫」
俺は震える声で彼女の名前を呼んだ。
「もう一回、言ってくれないか?」
俺の我儘なお願い。
彼女は驚いたように少しだけ目を見開いた。
そして、次の瞬間。
少しだけ困ったように、でもどうしようもなく嬉しそうにはにかんだ。
彼女はこくりと小さく頷く。
そして、もう一度息を吸い込んだ。
今度はさっきよりもずっとリラックスして。
もっと自然に。
「す……き……」
二度目の愛の言葉。
一度目よりもずっと滑らかに。
その音は俺の心の、一番柔らかい場所にすとんと落ちてきた。
そして、じんわりと温かく広がっていく。
ああ、俺はこの声を聞くために生まれてきたのかもしれない。
このか細くて、でも世界で一番優しい声を一番近くで聞くために。
俺はもう自分の感情を抑えることができなかった。
「ありがとう……」
俺の瞳から一筋の温かい涙がぽろりとこぼれ落ちた。
「ありがとう、雫……!」
俺はその場にしゃがみ込んだまま、彼女の小さな体をぎゅっと強く抱きしめた。
俺の腕の中で彼女の体がびくりと小さく震える。
そして、俺の背中にその小さな手を回し、同じように強く、強く抱きしめ返してくれた。
俺の肩に彼女の顔が埋められる。
その温かい涙が俺のシャツを濡らしていくのが分かった。
夕日が教室の窓から最後の光を投げかけている。
俺たち二人を祝福するかのように優しく、優しく包み込んで。
がらんどうの教室に響くのは二人の幸せな小さな嗚咽だけ。
それは決して悲しい涙ではなかった。
俺たちの長い、長い物語が、一つの大きな奇跡にたどり着いたことを祝う喜びの涙だった。
まだ拙いけれど。
心のこもった声の「好き」。
その言葉が俺たちの絆を、永遠に解けることのない固い、固いものへと変えてくれた。
この瞬間を俺は一生忘れないだろう。
俺の胸に額を預け心を落ち着かせた雫。
彼女がゆっくりと顔を上げた時、その瞳にはもう何の迷いもなかった。
そこにあるのは俺への絶対的な信頼と、そしてどうしようもないほどの愛情だけ。
彼女はもう一度深く息を吸い込んだ。
俺の心臓の鼓動が伝わってしまったかのように、どくんと大きく跳ねる。
今度こそ。
その瞬間が来る。
俺は固唾を飲んで彼女の唇を見つめた。
彼女の震える唇がゆっくりと開かれる。
そして、紡がれた最初の一音。
「す……」
それはまだ囁き声のようにか細かった。
でも、あの日練習で聞いた時よりもずっと、ずっと芯のある確かな「音」だった。
その音の響きに彼女自身も勇気づけられたのだろう。
彼女の表情に微かな自信の光が灯る。
彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめ返したまま、次の音を紡いだ。
「き……」
好き。
二つの音が確かに繋がった。
夕暮れの静まり返った教室に、そのあまりにも尊い響きがこだました。
それは、世界で一番短くて。
世界で一番甘い、愛の告白だった。
俺はもうダメだった。
込み上げてくる、どうしようもないほどの感動と愛おしさ。
目の前のこの奇跡の光景が信じられなくて。
俺はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
全ての音を紡ぎ終えた雫は、まるで全身の力を使い果たしたかのように、はあ、はあと小さな肩で荒い息をついていた。
その顔は極度の集中と緊張と、そして達成感で真っ赤に染まっている。
そして俺の反応を不安そうに、潤んだ瞳でじっと窺っていた。
「どう、だった……?」
その瞳が雄弁にそう問いかけていた。
どうだった、なんて。
そんな言葉で表現できるはずがない。
最高、なんて言葉でも足りない。
俺はゆっくりと彼女の前に屈み込んだ。
そして、彼女の潤んだ瞳と視線の高さを合わせる。
「……雫」
俺は震える声で彼女の名前を呼んだ。
「もう一回、言ってくれないか?」
俺の我儘なお願い。
彼女は驚いたように少しだけ目を見開いた。
そして、次の瞬間。
少しだけ困ったように、でもどうしようもなく嬉しそうにはにかんだ。
彼女はこくりと小さく頷く。
そして、もう一度息を吸い込んだ。
今度はさっきよりもずっとリラックスして。
もっと自然に。
「す……き……」
二度目の愛の言葉。
一度目よりもずっと滑らかに。
その音は俺の心の、一番柔らかい場所にすとんと落ちてきた。
そして、じんわりと温かく広がっていく。
ああ、俺はこの声を聞くために生まれてきたのかもしれない。
このか細くて、でも世界で一番優しい声を一番近くで聞くために。
俺はもう自分の感情を抑えることができなかった。
「ありがとう……」
俺の瞳から一筋の温かい涙がぽろりとこぼれ落ちた。
「ありがとう、雫……!」
俺はその場にしゃがみ込んだまま、彼女の小さな体をぎゅっと強く抱きしめた。
俺の腕の中で彼女の体がびくりと小さく震える。
そして、俺の背中にその小さな手を回し、同じように強く、強く抱きしめ返してくれた。
俺の肩に彼女の顔が埋められる。
その温かい涙が俺のシャツを濡らしていくのが分かった。
夕日が教室の窓から最後の光を投げかけている。
俺たち二人を祝福するかのように優しく、優しく包み込んで。
がらんどうの教室に響くのは二人の幸せな小さな嗚咽だけ。
それは決して悲しい涙ではなかった。
俺たちの長い、長い物語が、一つの大きな奇跡にたどり着いたことを祝う喜びの涙だった。
まだ拙いけれど。
心のこもった声の「好き」。
その言葉が俺たちの絆を、永遠に解けることのない固い、固いものへと変えてくれた。
この瞬間を俺は一生忘れないだろう。
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