外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第94話:リナリアの覚悟

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私の魂からの絶叫と共に、地下聖堂は完全に黄金色の光によって飲み込まれた。
それはもはや単なる光ではなかった。私の怒り、哀しみ、そしてアシュレイ様へのどうしようもないほどの愛。その全ての感情が純粋なエネルギーとなって、世界そのものを塗り替えていくかのような絶対的な光輝だった。
「ぐっ……! 目が……目が焼ける……!」
ゾディアスが苦悶の声を上げて腕で顔を覆う。彼の邪悪な魔力は、この神々しいまでの光の前ではまるで闇夜の霧のように、なすすべもなく掻き消されていった。
暴走し破壊の化身と化していたアシュレイ様の動きも、完全に停止していた。彼の身体を覆っていたどす黒い呪いの瘴気が私の光に触れた瞬間、まるで浄化の炎に焼かれるかのように激しい音を立てて蒸発していく。
しかし、ただ闇を祓うだけでは足りなかった。
彼の魂は二つの強力な呪いによってその根源から傷つけられ、砕け散ってしまっている。このままでは、たとえ呪いを浄化したとしても彼は二度と元の彼には戻れない。
私は覚悟を決めた。
それはこれまで私が一度も試したことのない、そして成功する保証などどこにもない、あまりにも危険な賭け。
私はその黄金色の光の中心で、ゆっくりとアシュレイ様の前に歩み寄った。そして、その胸にそっと自分の額を当てた。
「……行きます。アシュレイ様の、中へ」
私はそう呟くと、自らの魂――その意識そのものを、彼の精神世界へと送り込んだのだ。
それは魂の同化。一歩間違えれば、私もまた彼の混沌とした精神の海に飲み込まれ、二度と戻ってはこれなくなる禁断の秘術。
けれど私に迷いはなかった。
彼がいない世界に私が一人で生きていても、何の意味もないのだから。
私の意識が光の粒子となって、彼の身体の中へと吸い込まれていく。
そして、私の目の前に広がったのは想像を絶する絶望の光景だった。

そこは凍てついた、永遠の夜の世界だった。
空には月も星もなく、ただどこまでも続く漆黒の闇が広がっている。大地は全てが鋭い氷の結晶で覆われ、触れるもの全てを切り刻まんとする絶対零度の風が絶えず吹き荒れていた。
そして、その荒野のさらに中心。
巨大な黒水晶の柱が、天を突くようにそびえ立っていた。
柱の中には一人の青年が囚われていた。
銀色の髪を力なく垂らし、その瞳を固く閉じたまま、まるで氷の棺の中で眠るかのように。
アシュレイ様。
彼の魂の本来の姿。
しかし、その彼の身体にはおぞましい二つの呪いが、まるで毒蔦のように幾重にも絡みついていた。
一つは、彼の全身を凍てつかせる古い氷の枷。
そして、もう一つは彼の魂そのものを内側から腐敗させていく、新しい漆黒の呪詛の茨。
二つの呪いは互いに絡み合い、彼の生命力を今この瞬間も奪い続けていた。
「アシュレイ様!」
私はその姿に向かって必死で駆け寄ろうとした。
しかし、その行く手を黒い影が阻んだ。
氷の大地から、無数の闇でできた手が伸びてきて、私の足に絡みついてくる。
『――来るな』
『――ここは、お前の来る場所ではない』
『――我らと共に、永遠の無へと還るのだ』
呪いの怨念の声が、私の頭の中に直接響き渡る。
それはこれまでアシュレイ様が、たった一人で何年もの間耐え続けてきた絶望の声だった。
「……っ!」
私はその邪悪な力に、一瞬だけ怯みそうになった。
けれど私はもう負けない。
私は自分の胸に強く手を当てた。
そして、呼びかけた。
私のもう一人の相棒に。

――エクシード!

私の呼びかけに、私の魂の奥底で眠っていた聖剣の気高い意思が呼応した。
『――心得た、我が主よ!』
次の瞬間。
私の右手の中に、光り輝く黄金の聖剣が姿を現した。
それはもはや物理的な剣ではない。私の魂とエクシードの意思が完全に一つになった、精神の剣。
私はその剣を一閃した。
黄金の光の斬撃が、私に絡みついていた闇の手を、一瞬にして薙ぎ払う。
私は再び自由になった。
そして今度こそ迷いなく、彼が囚われている黒水晶の柱へと駆け寄った。
「アシュレイ様!」
私はその冷たい水晶の表面に手を触れた。
そして、私の魂の剣、エクシードを力強く振りかぶる。
「あなたを縛り付けるもの全てを!」
私の魂が叫んだ。
「私がこの手で断ち切る!」
黄金の剣閃が、黒水晶の柱に向かって振り下ろされた。
キィィィィィン!
という、魂を揺さぶるような甲高く美しい音が、凍てついた世界に響き渡った。
それは愛する人を救うための、私の覚悟の一撃だった。
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