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第93話:呪いの暴走
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アシュレイ様の身体から噴き出した、どす黒い呪いの瘴気。
それはもはや制御不能な、純粋な破壊のエネルギーの奔流だった。
彼が長年その強靭な精神力で抑え込んできた古い呪い。
そして今、ゾルディアスによって撃ち込まれた魂を腐敗させる新たな呪詛。
二つの絶対的な悪意が彼の身体の中で混じり合い、最悪の形で暴走を始めたのだ。
「ぐ……う……あああああっ!」
私の腕の中で、アシュレイ様が獣のような苦悶の雄叫びを上げた。
彼の身体を、内側からどす黒い稲妻が何度も何度も駆け巡る。その白い肌には霜のような紋様ではなく、まるで血管が内側から焼け爛れたかのようなおぞましい黒い亀裂が、網の目のように広がっていった。
紫水晶のようだった彼の瞳は完全に色を失い、ただ底なしの闇だけが広がっている。
「アシュレイ様! しっかりしてください!」
私は必死で彼の身体を抱きしめた。
しかし、彼の身体から放たれる呪いの瘴気はあまりにも強大で、私の黄金色の光さえも弾き返してしまう。
「ははははっ! 見ろ! 我が呪詛と古の呪いが、完璧な融合を果たしたわ!」
ゾルディアスは、その光景を恍惚とした表情で見つめていた。
「もはやあの男に意識はない! ただ破壊の本能だけが残った、最強の、しかし抜け殻の魔人よ! 素晴らしい! これぞ我が魔術の最高傑作だ!」
その言葉通り、アシュレイ様の身体から放たれる魔力は先ほどまでとは比べ物にならないほどに膨れ上がっていた。しかし、それはもはや彼の持つ気高い闘気ではなかった。
ただひたすらに邪悪で、そして全てを破壊し尽くさんとする混沌のエネルギー。
彼の身体がゆっくりと、私の腕の中から立ち上がった。
その動きは、まるで操り人形のようにぎこちない。
そして、その虚ろな瞳が私を捉えた。
「……アシュレイ様……?」
私の震える声。
しかし、その瞳には私の姿は映っていなかった。
そこにいるのは、もはや私の愛したアシュレイ様ではなかった。
彼の唇がわずかに動いた。
そして、そこから漏れ出たのは私の名前ではなく。
『――コロス』
という、地獄の底から響いてくるかのような低い低い呟きだけだった。
彼はその手に持った魔剣『夜天』を、ゆっくりと私に向かって振り上げた。
「……っ!」
私は息をのんだ。
愛する人が、その虚ろな瞳で私に殺意を向けている。
そのあまりにも残酷で絶望的な光景に、私の心は完全に砕け散ってしまいそうだった。
「素晴らしいぞ、アシュレイ! そうだ、まずはその女からだ! その女を、その手で八つ裂きにしてしまえ!」
ゾルディアスが狂ったように哄笑する。
魔剣の切っ先が、私の喉元へと狙いを定める。
もう駄目だ。
そう思ったその瞬間。
私の心の中で何かが、ぷつりと音を立てて切れた。
それは恐怖でも、絶望でもなかった。
私の魂の最も深い場所で燃え上がった、一つの絶対的な感情。
(――ふざけないで)
私の唇から、静かな、しかし絶対零度の声が漏れた。
(誰があなたをこんな姿にしたの)
(誰が私たちの幸せを邪魔したの)
(誰が私の大切な人を奪おうとしているの)
(――許さない)
その感情は、もはや聖女としての慈愛などではなかった。
それは己が唯一つの愛するものを奪われようとしている、一人の女の、純粋で神さえも畏れるほどの激しい『怒り』だった。
私の全身から、黄金色の光がこれまでにないほど激しく、そして爆発的に溢れ出した。
それはもはや温かい光などではない。
全てを焼き尽くさんとする太陽フレアのような、神々しいまでの怒りの光輝。
地下聖堂の全てがその光によって白く染め上げられた。
「なっ……なんだ、この光は!?」
ゾルディアスが驚愕の声を上げる。
私の前に立ちはだかっていた暴走したアシュレイ様もまた、その凄まじい光の圧力に一瞬だけ動きを止めた。
私はゆっくりと立ち上がった。
その瞳にはもはや涙はなかった。
ただ燃え盛る黄金色の炎だけが、静かに、そして激しく揺らめいていた。
「……あなただけは」
私は暴走する彼に語りかけた。
「あなただけは、私が絶対に、取り戻す」
その声は、もはやか弱い少女のものではなかった。
運命に、神に、そして悪意そのものに戦いを挑む、一人の『女神』の絶対的な宣言だった。
私は自分の両手を胸の前で固く組んだ。
そして、私の聖女としての全ての力をこの一瞬に解き放つ。
「私が、アシュレイ様を――」
私の魂が叫んだ。
「――『修復』する!」
それはもはや制御不能な、純粋な破壊のエネルギーの奔流だった。
彼が長年その強靭な精神力で抑え込んできた古い呪い。
そして今、ゾルディアスによって撃ち込まれた魂を腐敗させる新たな呪詛。
二つの絶対的な悪意が彼の身体の中で混じり合い、最悪の形で暴走を始めたのだ。
「ぐ……う……あああああっ!」
私の腕の中で、アシュレイ様が獣のような苦悶の雄叫びを上げた。
彼の身体を、内側からどす黒い稲妻が何度も何度も駆け巡る。その白い肌には霜のような紋様ではなく、まるで血管が内側から焼け爛れたかのようなおぞましい黒い亀裂が、網の目のように広がっていった。
紫水晶のようだった彼の瞳は完全に色を失い、ただ底なしの闇だけが広がっている。
「アシュレイ様! しっかりしてください!」
私は必死で彼の身体を抱きしめた。
しかし、彼の身体から放たれる呪いの瘴気はあまりにも強大で、私の黄金色の光さえも弾き返してしまう。
「ははははっ! 見ろ! 我が呪詛と古の呪いが、完璧な融合を果たしたわ!」
ゾルディアスは、その光景を恍惚とした表情で見つめていた。
「もはやあの男に意識はない! ただ破壊の本能だけが残った、最強の、しかし抜け殻の魔人よ! 素晴らしい! これぞ我が魔術の最高傑作だ!」
その言葉通り、アシュレイ様の身体から放たれる魔力は先ほどまでとは比べ物にならないほどに膨れ上がっていた。しかし、それはもはや彼の持つ気高い闘気ではなかった。
ただひたすらに邪悪で、そして全てを破壊し尽くさんとする混沌のエネルギー。
彼の身体がゆっくりと、私の腕の中から立ち上がった。
その動きは、まるで操り人形のようにぎこちない。
そして、その虚ろな瞳が私を捉えた。
「……アシュレイ様……?」
私の震える声。
しかし、その瞳には私の姿は映っていなかった。
そこにいるのは、もはや私の愛したアシュレイ様ではなかった。
彼の唇がわずかに動いた。
そして、そこから漏れ出たのは私の名前ではなく。
『――コロス』
という、地獄の底から響いてくるかのような低い低い呟きだけだった。
彼はその手に持った魔剣『夜天』を、ゆっくりと私に向かって振り上げた。
「……っ!」
私は息をのんだ。
愛する人が、その虚ろな瞳で私に殺意を向けている。
そのあまりにも残酷で絶望的な光景に、私の心は完全に砕け散ってしまいそうだった。
「素晴らしいぞ、アシュレイ! そうだ、まずはその女からだ! その女を、その手で八つ裂きにしてしまえ!」
ゾルディアスが狂ったように哄笑する。
魔剣の切っ先が、私の喉元へと狙いを定める。
もう駄目だ。
そう思ったその瞬間。
私の心の中で何かが、ぷつりと音を立てて切れた。
それは恐怖でも、絶望でもなかった。
私の魂の最も深い場所で燃え上がった、一つの絶対的な感情。
(――ふざけないで)
私の唇から、静かな、しかし絶対零度の声が漏れた。
(誰があなたをこんな姿にしたの)
(誰が私たちの幸せを邪魔したの)
(誰が私の大切な人を奪おうとしているの)
(――許さない)
その感情は、もはや聖女としての慈愛などではなかった。
それは己が唯一つの愛するものを奪われようとしている、一人の女の、純粋で神さえも畏れるほどの激しい『怒り』だった。
私の全身から、黄金色の光がこれまでにないほど激しく、そして爆発的に溢れ出した。
それはもはや温かい光などではない。
全てを焼き尽くさんとする太陽フレアのような、神々しいまでの怒りの光輝。
地下聖堂の全てがその光によって白く染め上げられた。
「なっ……なんだ、この光は!?」
ゾルディアスが驚愕の声を上げる。
私の前に立ちはだかっていた暴走したアシュレイ様もまた、その凄まじい光の圧力に一瞬だけ動きを止めた。
私はゆっくりと立ち上がった。
その瞳にはもはや涙はなかった。
ただ燃え盛る黄金色の炎だけが、静かに、そして激しく揺らめいていた。
「……あなただけは」
私は暴走する彼に語りかけた。
「あなただけは、私が絶対に、取り戻す」
その声は、もはやか弱い少女のものではなかった。
運命に、神に、そして悪意そのものに戦いを挑む、一人の『女神』の絶対的な宣言だった。
私は自分の両手を胸の前で固く組んだ。
そして、私の聖女としての全ての力をこの一瞬に解き放つ。
「私が、アシュレイ様を――」
私の魂が叫んだ。
「――『修復』する!」
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