Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第十一話 ギルドマスターの慧眼

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宿屋の自室に戻り、俺はベッドにどかりと腰を下ろした。外套の中から顔を出したフェンが、心配そうに俺の頬を舐める。

『カイン、もう怒ってないですか?』
「ああ、もう大丈夫だ。すまない、お前まで巻き込んで」
『ううん。カインが我のために怒ってくれて、嬉しかった』

フェンはそう言うと、俺の胸に頭をすり寄せてきた。その温かい感触に、先ほどまで荒れ狂っていた感情が凪いでいくのを感じる。
ギルドでの一件は、少しやりすぎたかもしれない。だが、後悔はしていない。フェンを侮辱されたこと、そしてかつて自分が受けた仕打ちが重なり、感情の箍が外れてしまったのだ。

「これからは、もう少しうまく立ち回らないとな」

目立ちすぎれば、それだけ面倒が増える。あのボルツとかいう男も、今日のところは引き下がったが、逆恨みしていないとは限らない。
俺はこれからの身の振り方を考えながら、その日は早めに眠りについた。

翌日、俺がギルドに足を踏み入れると、昨日とは打って変わって、奇妙な静寂が満ちていた。冒険者たちの視線は感じるが、そのどれもが以前のような侮りや嫉妬を含んだものではなく、畏怖と警戒の色を帯びている。誰も俺に話しかけようとはしない。

「カインさん!」

そんな中、エリアナだけが慌てた様子でカウンターから駆け寄ってきた。
「よかった、来てくれて……。あの、ギルドマスターがお呼びです。すぐに奥の部屋へ」
「ギルドマスターが?」

ギルドの支部長が、俺のような新参の冒険者に何の用だろうか。昨日の騒ぎについて、お咎めを受けるのかもしれない。
「面倒なことになったな」と内心で呟きつつ、俺はエリアナの案内に従ってギルドの奥にある重厚な扉の前に立った。

「失礼します」
扉を開けると、そこは書物と武具で埋め尽くされた部屋だった。部屋の中央には、屈強な体つきをしたドワーフの老人がどっしりと椅子に座っている。見事な髭をたくわえ、その瞳は年季の入った鋼のように鋭い光を宿していた。彼がこのフロンティアのギルドマスター、ガングだろう。

「お前がカインか。まあ、座れ」

ガングは顎で向かいの椅子を示した。俺は言われるままに腰を下ろす。フェンは俺の外套の中で、息を潜めていた。
「昨日の騒ぎについては聞いている。ボルツの奴らからもな。だが、お前の言い分も聞いておこうと思ってな」
その声は低く、重い。だが、威圧的というよりは、物事の本質を見極めようとする冷静さが感じられた。

俺は事実だけを淡々と話した。ボルツたちに絡まれたこと。フェンを売れと言われて、頭に血が上ったこと。そして、手を出してきた彼らを無力化したこと。
俺の話を黙って聞いていたガングは、やがてふぅと息を吐いた。

「なるほどな。大方、ボルツの奴らが言っていた通りか。奴らは自分の非を棚に上げて、お前が一方的に暴力を振るったと喚いていたがな」
「……では、俺に何か罰則が?」
「罰則だと? 馬鹿を言え」

ガングは鼻で笑った。
「冒険者同士のいざこざなんぞ、日常茶飯事だ。ましてや、売られた喧嘩を買うのは冒険者の流儀よ。お前はそれに倣っただけだ。何の問題もない」

意外な言葉に、俺は少し驚いた。
「だがな、カイン」とガングは続けた。「お前の力は、この辺境では少々目立ちすぎる。力を持つ者は、それを妬む者、利用しようとする者を引き寄せる。そのことは覚えておけ」

その言葉は、俺が昨夜考えていたことと全く同じだった。この老人は、すべてお見通しのようだ。
「肝に銘じておきます」
「うむ。それから、その懐の相棒も、ただの子犬ではないようじゃな」

ガングの鋭い視線が、俺の胸元に突き刺さる。フェンがびくりと体を震わせた。
「……ただ、少し賢いだけです」
「ふん、そうか。まあ、誰にだって秘密の一つや二つはある。ワシはそれを暴こうとは思わん。だが、その力、自分のためだけでなく、この街のために使う気があるなら、いつでも力を貸そう。ワシはお前の実力を買っている」

それは、ギルドマスターからの最大限の賛辞であり、後ろ盾になるという申し出に他ならなかった。
「……ありがとうございます」
俺は素直に頭を下げた。追放されて以来、誰かに実力を認められたのは、これが初めてだった。

ギルドマスターの部屋を出ると、心配そうに待っていたエリアナが駆け寄ってきた。
「カインさん、大丈夫でしたか? ギルドマスターに何か……」
「いや、問題なかった。むしろ、励まされたくらいだ」
「よかった……」

エリアナは心底ほっとしたように胸を撫で下ろした。そして、少し真剣な表情で俺を見つめた。
「でも、ギルドマスターが言った通り、カインさんのことを良く思わない人も増えています。ボルツさんたちも、きっと諦めてはいません。どうか、本当に気をつけてください」
「ああ、分かっている」

彼女の純粋な心配が、今は素直に心に染みた。
俺は換金を済ませると、すぐにギルドを後にしてダンジョンへと向かった。

ダンジョンの探索は、これまで以上に順調だった。レベルが上がったことで、俺自身の戦闘能力も向上している。だが、同時にある種の停滞感も感じ始めていた。
この階層の魔物を狩り続けるだけでは、得られる経験値も素材も頭打ちだ。もっと効率よく、そして大きく成長するためには、新たな手段が必要だった。

そこで俺は、一つの考えに至った。
【神の眼】の力を、魔物やアイテムの鑑定だけに使うのはもったいない。このダンジョンそのものを鑑定し、隠された価値を見つけ出すことはできないだろうか。

俺はダンジョンの一角で立ち止まり、意識を集中させた。
【神の眼】を、広範囲スキャンモードのようなイメージで起動する。視界から色が失せ、代わりに魔力の流れや地層の構造が、幾何学的なラインとなって表示された。
膨大な情報が脳内に流れ込み、軽い頭痛がする。だが、俺は耐えて鑑定を続けた。

すると、これまで気づかなかった一つの流れを発見した。
ダンジョンの壁の奥深く、魔素溜まりとは違う、特殊なエネルギーを発する鉱脈が細々と続いている。そこは魔物の通り道からも外れており、全く手つかずの状態だった。

「……見つけた」

俺は壁の弱そうな部分を探し出し、ダガーを使って岩を崩していく。しばらく掘り進めると、硬い岩盤に突き当たった。その岩盤の隙間に、鈍い銀色の輝きが見える。
俺は慎重にその鉱石を一つ、掘り出した。

手に取って、【神の眼】で鑑定する。

【アイテム名】ミスリル銀鉱石(低純度)
【ランク】C
【状態】原石。不純物を多く含む。
【詳細】魔力を帯びた希少な金属、ミスリルの原石。非常に硬く、そして軽い。精錬することで純度を高めることができ、高ランクの武具や魔法道具の素材となる。聖なる力との親和性が高い。

聖なる力との親和性。
間違いない。これは、あのソウルイーターの浄化に必要な『聖なる銀』の原石だ。
今はまだ低純度の原石に過ぎない。だが、これを集めて精錬すれば、いずれあの魔剣を本来の姿に戻すことができるだろう。

俺の口元に、自然と笑みが浮かんだ。
魔物を狩るだけが、冒険者の稼ぎ方じゃない。鑑定士だからこそできる、俺だけのやり方。
目の前に、新たな道がはっきりと開けた気がした。
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