Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

文字の大きさ
18 / 50

第十八話 星渡りの橋

しおりを挟む
クリスタルゴーレムの残骸が転がる広間で、俺たちはしばしの休息を取っていた。先ほどまでの激戦の興奮が、心地よい疲労感と共に体に残っている。

「それにしても、見事な指揮だった。お前の目には、まるで未来でも見えているかのようだ」
シルフィは、自分の弓を手入れしながら感嘆の声を漏らした。彼女の翡翠色の瞳には、純粋な称賛の色が浮かんでいる。
「未来が見えるわけじゃない。ただ、普通の人には見えないものが少しだけ見えるだけだ」
俺はそう言って、膝の上で満足げに丸まっているフェンの頭を撫でた。
『カインはすごいのです!』
フェンが、得意げに胸を張る。その様子に、シルフィはふっと微笑んだ。

「その『少し』が、勝敗を分けるのだろうな。私は、お前とフェンに出会えて幸運だった」
彼女の素直な言葉が、胸にじんわりと染みた。
追放されたあの日、俺は世界にたった一人だと思っていた。だが今は、こうして背中を預けられる仲間がいる。この出会いこそが、俺がこの辺境の地で手に入れた、何よりの宝物かもしれない。

休息を終え、俺たちは再び神殿の奥へと歩を進めた。
しばらく進むと、目の前に広大な地底湖が広がっていた。天井の水晶が湖面に反射し、まるで満天の星空を逆さまにしたような絶景が広がっている。湖の中央には、小さな島が一つ、ぽつんと浮かんでいた。

「美しい……。まるで、エルフの故郷にある『星見の湖』のようだ」
シルフィが、うっとりとその光景に見惚れている。
だが、俺の【神の眼】は、その美しさの裏に潜む危険を明確に捉えていた。

「シルフィ、湖の水に触れるな。あれは、鉄さえも溶かす強力な酸だ。それに、この空間全体に飛行を阻害する結界が張られている」
「何だと……?」

俺の言葉に、シルフィははっと表情を引き締めた。島へ渡る橋は見当たらない。泳いで渡ることも、飛んでいくこともできない。完全な行き止まりだ。
「どうやら、力任せでは進めない仕掛けのようだな」
「ああ。だが、道は必ずあるはずだ」

シルフィはそう言うと、湖のほとりに立つ一つの石碑に近づいた。石碑には、風化した古代エルフの文字が刻まれている。
「……読めるか?」
「うむ、少し待ってくれ。『星々の涙が湖面に落ちる時、月への道は開かれん』……そう書いてある」
「星々の涙? 月への道?」

抽象的な言葉だ。だが、ヒントはそこにあるはずだ。
俺は再び【神の眼】を発動し、この空間全体をスキャンした。天井に輝く無数の水晶。湖に浮かぶ島。そして、石碑。
一つ一つの情報を精査していく中で、俺はある一点に気づいた。

天井の水晶のほとんどは青白い光を放っている。だが、その中で一つだけ、ひときわ優しく、柔らかな月光のような光を放つ水晶があった。そして、湖の中央に浮かぶ島。その形は、三日月に酷似している。

「シルフィ、あれだ」
俺は天井の、月光のような水晶を指さした。
「あの水晶が『星々の涙』。そして、あの三日月形の島が『月』だ。あの水晶に衝撃を与えれば、道が開かれるはずだ」
「なるほど……。試してみる価値はありそうだな」

シルフィは頷くと、弓に矢を番えた。
天井まではかなりの距離がある。しかも、目標は無数にある水晶の中の一つだけ。並の射手では、当てることすら難しいだろう。
だが、シルフィは違った。彼女は深く息を吸い込むと、迷いなく矢を放った。

放たれた矢は、美しい軌跡を描いて一直線に飛翔し、見事に月光の水晶を射抜いた。
カラン、と澄んだ音が響く。
すると、射抜かれた水晶から、光り輝く雫が一つ、ぽたりと滴り落ちた。
雫はゆっくりと湖面へと落下し、着水した瞬間、まばゆい光を放った。
次の瞬間、俺たちの足元から湖の中央に浮かぶ島まで、星の光を編み上げたかのような、きらびやかな光の橋が架かった。

「……見事だな」
俺の呟きに、シルフィは誇らしげに微笑んだ。
俺たちは光の橋を慎重に渡り、三日月形の島へとたどり着いた。島の中央には、小さな石造りの祭壇が一つあるだけだった。
その祭壇の上には、一冊の古びた本が置かれていた。

俺がその本を手に取り、【神の眼】で鑑定する。

【アイテム名】星詠みの魔導書
【ランク】B
【状態】良好
【詳細】古代エルフの星詠み師が記した魔導書。高位の精霊魔法や、星の運行を読むことで未来の危険を予知する魔法などが記されている。エルフ族、あるいは精霊との親和性が高い者でなければ、読み解くことはできない。

「シルフィ、これはお前が持つべきものだ」
俺は魔導書を彼女に手渡した。
シルフィは驚いたようにそれを受け取ると、表紙をそっと撫でた。
「……すごい。これだけの魔導書、エルフの里でも国宝級だ。本当に、私が受け取っていいのか?」
「あんたがいなければ、手に入らなかったものだ。それに、俺には読めないからな」

俺の言葉に、シルフィは嬉しそうに微笑むと、魔導書を大切に懐にしまった。彼女の戦力アップは、パーティー全体の強化に繋がる。

祭壇をさらに調べると、本の置かれていた下に、何かの文字が刻まれているのを見つけた。
シルフィが、その文字を読み解いていく。
「『神殿の最深部にて、古の厄災は眠る。目覚めを阻むは三つの試練。力の試練、知恵の試練、そして……』」

彼女の声が、そこで途切れた。
「そして、何だ?」
「……読めない。最後の試練の部分だけ、意図的に削り取られている」

三つの試練。
この神殿の、さらなる謎が示された。
力の試練は、おそらくクリスタルゴーレムのような強力なガーディアンとの戦いだろう。知恵の試練は、今しがた越えてきた星渡りの橋のようなものか。
だが、最後の試練とは一体何なのか。

「いずれ、分かる時が来るさ」
俺はそう言って、シルフィの肩を軽く叩いた。
「今は、手に入れた力でさらに強くなることだけを考えよう」

俺の言葉に、シルフィは力強く頷いた。
新たな力を手に入れ、新たな謎に直面した俺たち。
この古の神殿の攻略は、一筋縄ではいかないことを改めて実感しながらも、俺の心は不思議と燃えていた。仲間と共に謎を解き、困難に立ち向かう。これこそが、俺が本当に求めていた冒険の形なのかもしれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました

黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった! これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。 絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。 辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。 一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」 これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。

霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半…… まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。 そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。 そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。 だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!! しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。 ーーそれは《竜族語》 レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。 こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。 それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。 一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた…… これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。 ※30話程で完結します。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

処理中です...