Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第十七話 中層の洗礼

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重厚な石の扉の向こう側は、異世界だった。
これまでの薄暗く湿った洞窟とは違い、そこは広大な地下空間が広がっていた。天井からは、青白い光を放つ巨大な水晶が無数に垂れ下がり、周囲を幻想的に照らし出している。空気は澄み渡り、濃密な魔素が肌をぴりぴりと刺激した。

「……ここが、古の神殿の中層」
シルフィが、息を呑んで呟いた。彼女の古代知識をもってしても、この光景は想像を超えていたようだ。
「美しい場所だな。だが、油断するな。そこら中に魔物の気配がする」
俺の言葉に、シルフィははっと我に返り、弓を構え直した。フェンもまた、喉の奥で低く唸り、警戒を強めている。

俺たちは慎重に、水晶の森とでも言うべき空間を進んでいった。
足音を立てるたびに、周囲の水晶が共鳴して、鈴のような音を奏でる。幻想的な光景だが、その実、敵にこちらの居場所を知らせる警報装置の役割も果たしているのだろう。

しばらく進んだ時だった。
前方の水晶の影から、複数の影がぬっと現れた。
それは、俺たちがこれまで戦ってきた魔物とは明らかに異質だった。全身が光り輝く水晶で構成された、三メートルはあろうかという巨体。ゴーレムだ。だが、その数は一体や二体ではない。五体。パーティーで挑むなら、Bランクでも苦戦は必至の戦力だ。

「クリスタルゴーレム……。物理攻撃に極めて高い耐性を持ち、魔法をも反射する難敵だ」
シルフィが、緊張を帯びた声で言った。
「フェン、前に出るな。シルフィは援護を頼む」

俺が指示を出すと同時に、五体のゴーレムが一斉に動き出した。地響きを立てながら、その巨体に見合わない速度でこちらに迫ってくる。
「風よ!」
シルフィが放った矢が、先頭のゴーレムの胸に突き刺さる。しかし、矢は甲高い音を立てて弾かれ、ゴーレムは一瞬よろめいただけだった。

「くっ、硬すぎる……!」
「予想通りだ。下がれ!」

俺はシルフィを庇い、疾風のダガーを構える。
だが、斬りかかるのは無謀だ。【神の眼】を最大限に集中させ、敵の情報を解析する。

【名前】クリスタルゴーレム
【種族】魔法生物
【ランク】C+
【状態】侵入者排除モード
【弱点】超振動、内部の魔力核(コア)
【スキル】
・魔法反射(低位)
・自己修復(微弱)
【攻略情報】
・全身が硬い水晶で覆われているが、関節部は比較的脆い。
・力の源である『魔力核(コア)』は体内の決まった軌道を移動しており、攻撃の予備動作の際に一瞬だけ胸部中央に露出し、無防備になる。

これだ。弱点は、一瞬しか姿を現さない内部のコア。
「シルフィ! 奴らの胸を狙え。攻撃してくる、その一瞬だけだ!」
俺は叫びながら、突進してくるゴーレムの巨腕を紙一重でかわした。
「そんな無茶な!」
「やるしかない! フェン、他の奴らの注意を引け!」

『承知!』
フェンが神速で駆け、ゴーレムたちの足元を駆け抜ける。その素早い動きに、三体のゴーレムが気を取られた。

残るは二体。一体はシルフィに向かい、もう一体は俺に向かってくる。
俺に向かってくるゴーレムが、再び拳を振り上げた。その瞬間、俺の【神の眼】は、その胸部に赤い光を放つコアが一瞬だけ出現するのを捉えた。
「シルフィ、今だ! 右のやつ!」

俺の叫びと、シルフィが矢を放つのは、ほぼ同時だった。
風を切り裂いて飛んだ矢は、寸分の狂いもなく、ゴーレムの胸部中央に吸い込まれていく。
ギャイン、という金属が砕けるような音と共に、ゴーレムの胸に突き刺さった矢がまばゆい光を放った。矢に込められたシルフィの精霊力が、コアを内部から破壊したのだ。

コアを失ったゴーレムは、その動きをぴたりと止め、次の瞬間には全身の光を失ってガラガラと崩れ落ちた。
「……やった!」
シルフィが、喜びと驚きの声を上げる。

だが、感傷に浸っている暇はない。
残りの四体が、仲間をやられたことで怒り狂い、一斉にこちらへ向かってくる。

「シルフィ、続けられるな!」
「ああ!」
「フェン、一体頼む!」
『ガウッ!』

フェンが一体のゴーレムに飛びかかり、その足の関節部に噛みついて動きを封じる。俺は残りの三体と対峙した。
疾風のダガーを逆手に持ち、俺は地面を蹴った。狙うは、攻略情報にあった関節部。
振り下ろされる拳をくぐり抜け、ゴーレムの膝裏にある僅かな隙間にダガーを滑り込ませる。ミスリル製の刃が、硬い水晶の結合部を切り裂いた。

バランスを崩したゴーレムが、大きな音を立てて膝をつく。その胸に、コアが露出する。
「シルフィ!」
俺が叫ぶまでもなく、彼女の矢が寸分違わぬタイミングで飛来し、コアを正確に射抜いた。

俺とシルフィの連携で、二体目が崩れ落ちる。
その光景を見て、他の冒険者なら恐怖で足がすくんだだろう。だが、俺たちの間には、言葉を交わさずとも互いの次を読む、確かな信頼が生まれていた。

俺は次のゴーレムの注意を引きつけ、攻撃を誘発させる。その一瞬の隙を、シルフィが見逃さない。フェンは残る一体を翻弄し、俺たちへの攻撃を妨害する。
司令塔の俺、狙撃手のシルフィ、そして遊撃手のフェン。
役割分担は完璧だった。

数分後、最後のゴーレムが崩れ落ちた時、俺たちは息を切らせながらも、確かな達成感を共有していた。
「……信じられない。私一人では、一体倒すことすらできなかっただろう」
シルフィが、感嘆の息を漏らす。
「あんたの腕があってこそだ。俺の指示通りに、あのタイミングで射抜ける射手はそういない」

俺の言葉に、シルフィは少し照れたように頬を染めた。
崩れたゴーレムの残骸の中から、俺はドロップアイテムを回収した。それは、人の拳ほどの大きさがある、美しい水晶だった。

【アイテム名】魔光石
【ランク】B
【状態】高純度
【詳細】高純度の魔力が凝縮された結晶石。強力な魔法道具の動力源や、触媒として用いられる。極めて希少。

高純度の魔石。
Sランク指輪の覚醒に必要なアイテムだ。一つでは足りないだろうが、大きな一歩であることは間違いない。

俺は魔光石を懐にしまい、仲間たちに向き直った。
「行くぞ。この先に何が待っているか、楽しみになってきた」
俺の言葉に、シルフィは力強く頷き、フェンは嬉しそうに一声鳴いた。
辺境で始まった俺の再出発は、今、本物のパーティーとしての第一歩を、力強く踏み出した。
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