Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第十六話 二人目の仲間

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ミスリル装備を身につけた俺の体は、驚くほど軽かった。
防御力は以前の比ではないのに、動きを全く阻害しない。疾風のダガーは、まるで俺の腕の延長であるかのように手に馴染んでいた。これだけの装備があれば、今まで躊躇していたダンジョン中層エリアの攻略も、現実味を帯びてくる。

俺は逸る心を抑え、いつも通り霧の森へと足を踏み入れた。ソウルイーターが完成する十日後まで、俺は俺にできる最大限の準備を整えるつもりだ。
森の中は、以前のような緊張した空気が嘘のように、穏やかな気に満ちていた。小鳥のさえずりが聞こえ、木々の間を柔らかな光が差し込んでいる。穢れの源泉がなくなったことで、森全体が息を吹き返したかのようだ。

聖域の泉へ向かうと、シルフィが泉のほとりで静かに祈りを捧げていた。彼女の周りには小動物たちが集まり、その姿はまるで一枚の絵画のようだ。
俺の気配に気づいた彼女は、ゆっくりと顔を上げた。その翡翠色の瞳には、以前の険しさはなく、穏やかな光が宿っている。

「カイン。来てくれたのだな」
「ああ。森の様子を見に来た。ずいぶん、変わったみたいだな」
「うむ。お前のおかげだ」

彼女は立ち上がると、俺の姿を見て少し目を見開いた。
「その装備……。ミスリルか。見事な出来栄えだ」
「街の鍛冶師に作ってもらった」
「お前には、それを持つ資格がある」

シルフィはそう言うと、俺に歩み寄ってきた。
「私も、お前に礼がしたい。だが、私には金も財産もない。だから、代わりに私の知識と力を、お前に貸そうと思う」
「力と知識?」

「そうだ。お前が挑んでいるあの遺跡……。あれは、我らエルフの古い伝承に残る『古の神殿』だ。遥か昔、我々の祖先が何かを封じるために築いたと聞く」
古の神殿。シルフィの言葉に、俺は息を呑んだ。ただのダンジョンではないと思っていたが、やはり特別な場所だったらしい。

「神殿の中層から先は、侵入者を阻むための巧妙な仕掛けや、古代エルフの魔法が施された罠が数多く存在する。闇雲に進めば、いかに手練れの冒険者であろうと命を落とすだろう」
シルフィの言葉は、俺の気を引き締めた。確かに【神の眼】があれば物理的な罠は見抜けるが、古代魔法となると話は別かもしれない。

「私の知識があれば、そのいくつかを解き明かす助けになれるはずだ。そして……」
彼女は背中の弓を手に取り、強い意志を込めた瞳で俺を見つめた。
「私の弓も、お前の力になる。だから、カイン。私を、お前の探索に同行させてはくれないだろうか」

それは、思いがけない申し出だった。
だが、俺に断る理由はなかった。彼女の弓の腕は確かだし、古代の知識は大きなアドバンテージになる。何より、信頼できる仲間がいることは、この先の厳しい戦いにおいて、何物にも代えがたい力になるだろう。

『ブレイジング・ソード』に追放され、俺は人間不信に陥っていた。もう二度とパーティーなど組むものかと思っていた。
だが、シルフィは違う。彼女は俺の力を、そして俺自身を見てくれた。打算や嫉妬ではなく、純粋な信頼を寄せてくれている。

「……助かる。こちらこそ、よろしく頼む」
俺がそう言うと、シルフィの表情がぱっと華やいだ。
「本当か! ああ、感謝する。必ず、お前の役に立ってみせる」

腕の中から顔を出したフェンが、嬉しそうに「わふ!」と一声鳴いた。
『カイン! 仲間が増えますね!』
フェンはシルフィの足元に駆け寄ると、尻尾を振って喜びを表現した。シルフィもまた、嬉しそうにそのもふもふの頭を撫でている。

こうして、俺は二人目の仲間を得た。
神獣フェンリルに、エルフの精霊使い。我ながら、とんでもないパーティーになりそうだ。

俺たちは早速、古の神殿――ダンジョンへと向かった。
シルフィが隣にいるだけで、探索の質は劇的に変わった。
「待て、カイン。この先の通路、壁の模様に注意しろ。あれは古代エルフの幻惑魔法だ。一度囚われれば、同じ場所を永遠に彷徨うことになる」
「ここには、風の精霊の気配が薄い。おそらく、魔物の巣が近いだろう」

彼女の知識は、【神の眼】が示す物理的な情報とは別のレイヤーで、ダンジョンの本質を暴き出していく。俺の鑑定能力と、彼女の古代知識。この二つが合わされば、攻略できない罠などないのではないかと思えるほどだった。

やがて俺たちは、これまで到達したことのない階層へと続く、巨大な石の扉の前にたどり着いた。ここが、中層エリアへの入り口だ。
扉の表面には、複雑な魔法陣がびっしりと刻まれている。

「これは、強力な封印魔法だ。並の魔力では開くことはできないだろう」
シルフィが眉をひそめる。
だが、俺が【神の眼】で鑑定すると、その攻略法はすぐに明らかになった。

【封印の扉:古代エルフの魔力封印。扉に刻まれた魔法陣の、中心となる紋様と対になる紋様に同時に魔力を注ぐことで解錠される】

「シルフィ、あの右上の紋様と、左下の紋様。同時に魔力を注げば開くはずだ」
「……分かった。やってみよう」

俺とシルフィは、それぞれが指定された紋様に手をかざし、同時に魔力を注ぎ込んだ。
すると、魔法陣がまばゆい光を放ち、ゴゴゴゴゴ、と地響きのような音を立てて、重厚な石の扉がゆっくりと開いていった。

扉の向こう側からは、これまでとは比較にならないほど濃密な魔素と、未知の魔物の気配が流れ出してくる。
ここからが、本当の戦いだ。

「行くぞ」
俺が声をかけると、シルフィとフェンが力強く頷いた。
追放された鑑定士と、神獣と、森のエルフ。
奇妙な三人組のパーティーは、古の神殿の深淵へと、その第一歩を踏み出した。
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