Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第十八話 星渡りの橋

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クリスタルゴーレムの残骸が転がる広間で、俺たちはしばしの休息を取っていた。先ほどまでの激戦の興奮が、心地よい疲労感と共に体に残っている。

「それにしても、見事な指揮だった。お前の目には、まるで未来でも見えているかのようだ」
シルフィは、自分の弓を手入れしながら感嘆の声を漏らした。彼女の翡翠色の瞳には、純粋な称賛の色が浮かんでいる。
「未来が見えるわけじゃない。ただ、普通の人には見えないものが少しだけ見えるだけだ」
俺はそう言って、膝の上で満足げに丸まっているフェンの頭を撫でた。
『カインはすごいのです!』
フェンが、得意げに胸を張る。その様子に、シルフィはふっと微笑んだ。

「その『少し』が、勝敗を分けるのだろうな。私は、お前とフェンに出会えて幸運だった」
彼女の素直な言葉が、胸にじんわりと染みた。
追放されたあの日、俺は世界にたった一人だと思っていた。だが今は、こうして背中を預けられる仲間がいる。この出会いこそが、俺がこの辺境の地で手に入れた、何よりの宝物かもしれない。

休息を終え、俺たちは再び神殿の奥へと歩を進めた。
しばらく進むと、目の前に広大な地底湖が広がっていた。天井の水晶が湖面に反射し、まるで満天の星空を逆さまにしたような絶景が広がっている。湖の中央には、小さな島が一つ、ぽつんと浮かんでいた。

「美しい……。まるで、エルフの故郷にある『星見の湖』のようだ」
シルフィが、うっとりとその光景に見惚れている。
だが、俺の【神の眼】は、その美しさの裏に潜む危険を明確に捉えていた。

「シルフィ、湖の水に触れるな。あれは、鉄さえも溶かす強力な酸だ。それに、この空間全体に飛行を阻害する結界が張られている」
「何だと……?」

俺の言葉に、シルフィははっと表情を引き締めた。島へ渡る橋は見当たらない。泳いで渡ることも、飛んでいくこともできない。完全な行き止まりだ。
「どうやら、力任せでは進めない仕掛けのようだな」
「ああ。だが、道は必ずあるはずだ」

シルフィはそう言うと、湖のほとりに立つ一つの石碑に近づいた。石碑には、風化した古代エルフの文字が刻まれている。
「……読めるか?」
「うむ、少し待ってくれ。『星々の涙が湖面に落ちる時、月への道は開かれん』……そう書いてある」
「星々の涙? 月への道?」

抽象的な言葉だ。だが、ヒントはそこにあるはずだ。
俺は再び【神の眼】を発動し、この空間全体をスキャンした。天井に輝く無数の水晶。湖に浮かぶ島。そして、石碑。
一つ一つの情報を精査していく中で、俺はある一点に気づいた。

天井の水晶のほとんどは青白い光を放っている。だが、その中で一つだけ、ひときわ優しく、柔らかな月光のような光を放つ水晶があった。そして、湖の中央に浮かぶ島。その形は、三日月に酷似している。

「シルフィ、あれだ」
俺は天井の、月光のような水晶を指さした。
「あの水晶が『星々の涙』。そして、あの三日月形の島が『月』だ。あの水晶に衝撃を与えれば、道が開かれるはずだ」
「なるほど……。試してみる価値はありそうだな」

シルフィは頷くと、弓に矢を番えた。
天井まではかなりの距離がある。しかも、目標は無数にある水晶の中の一つだけ。並の射手では、当てることすら難しいだろう。
だが、シルフィは違った。彼女は深く息を吸い込むと、迷いなく矢を放った。

放たれた矢は、美しい軌跡を描いて一直線に飛翔し、見事に月光の水晶を射抜いた。
カラン、と澄んだ音が響く。
すると、射抜かれた水晶から、光り輝く雫が一つ、ぽたりと滴り落ちた。
雫はゆっくりと湖面へと落下し、着水した瞬間、まばゆい光を放った。
次の瞬間、俺たちの足元から湖の中央に浮かぶ島まで、星の光を編み上げたかのような、きらびやかな光の橋が架かった。

「……見事だな」
俺の呟きに、シルフィは誇らしげに微笑んだ。
俺たちは光の橋を慎重に渡り、三日月形の島へとたどり着いた。島の中央には、小さな石造りの祭壇が一つあるだけだった。
その祭壇の上には、一冊の古びた本が置かれていた。

俺がその本を手に取り、【神の眼】で鑑定する。

【アイテム名】星詠みの魔導書
【ランク】B
【状態】良好
【詳細】古代エルフの星詠み師が記した魔導書。高位の精霊魔法や、星の運行を読むことで未来の危険を予知する魔法などが記されている。エルフ族、あるいは精霊との親和性が高い者でなければ、読み解くことはできない。

「シルフィ、これはお前が持つべきものだ」
俺は魔導書を彼女に手渡した。
シルフィは驚いたようにそれを受け取ると、表紙をそっと撫でた。
「……すごい。これだけの魔導書、エルフの里でも国宝級だ。本当に、私が受け取っていいのか?」
「あんたがいなければ、手に入らなかったものだ。それに、俺には読めないからな」

俺の言葉に、シルフィは嬉しそうに微笑むと、魔導書を大切に懐にしまった。彼女の戦力アップは、パーティー全体の強化に繋がる。

祭壇をさらに調べると、本の置かれていた下に、何かの文字が刻まれているのを見つけた。
シルフィが、その文字を読み解いていく。
「『神殿の最深部にて、古の厄災は眠る。目覚めを阻むは三つの試練。力の試練、知恵の試練、そして……』」

彼女の声が、そこで途切れた。
「そして、何だ?」
「……読めない。最後の試練の部分だけ、意図的に削り取られている」

三つの試練。
この神殿の、さらなる謎が示された。
力の試練は、おそらくクリスタルゴーレムのような強力なガーディアンとの戦いだろう。知恵の試練は、今しがた越えてきた星渡りの橋のようなものか。
だが、最後の試練とは一体何なのか。

「いずれ、分かる時が来るさ」
俺はそう言って、シルフィの肩を軽く叩いた。
「今は、手に入れた力でさらに強くなることだけを考えよう」

俺の言葉に、シルフィは力強く頷いた。
新たな力を手に入れ、新たな謎に直面した俺たち。
この古の神殿の攻略は、一筋縄ではいかないことを改めて実感しながらも、俺の心は不思議と燃えていた。仲間と共に謎を解き、困難に立ち向かう。これこそが、俺が本当に求めていた冒険の形なのかもしれない。
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