Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

文字の大きさ
45 / 50

第四十四話 心の澱み

しおりを挟む
知恵の祭壇を後にした俺たちは、最後の試練の場へと向かった。
光の道が示す先には、静謐な湖に浮かぶ、小さな円形の島があった。島の中央には、何の装飾もない、ただ一つの石の祭壇が置かれている。ここが、『心の祭壇』だ。

その場所に足を踏み入れた瞬間、俺の意識は現実から引き剥がされた。
シルフィとフェンの気配が遠のき、周囲の光景がぐにゃりと歪む。目を開けると、俺は懐かしい、そして忌まわしい場所に立っていた。『ブレイジング・ソード』の拠点としていた、王都の高級宿舎の一室。

『汝の心に残る、最も大きな澱み。それを浄化し、乗り越えることができるか』
聖域の番人の声が、頭の中に響き渡る。これは、俺一人に課せられた試練なのだと、直感的に理解した。

目の前に、四つの人影がゆっくりと姿を現した。
アレクシス、リリアナ、ドラン、ソフィア。
彼らは、俺が追放された、あの日のままの姿だった。その瞳には、冷たい軽蔑の色が浮かんでいる。

「やはり、お前は役立たずだったな、カイン」
アレクシスの幻影が、嘲笑を浮かべて言った。
「あなたの地味な鑑定、本当に見ていてイライラしたわ」
リリアナの幻影が、甲高い声で続ける。
「お前がいなければ、俺たちはもっと早く強くなれたんだ」
ドランの幻影が、吐き捨てる。
「ごめんなさい……。でも、仕方なかったの……」
ソフィアの幻影が、偽りの同情を向けてくる。

過去の亡霊。俺の心の傷そのものだ。
「……黙れ」
俺は、腹の底から湧き上がる怒りに任せて、ソウルイーターを抜き放った。
「お前たちに、俺の何が分かる!」

俺は幻影に斬りかかった。黒き刃がアレクシスの体を両断する。だが、彼はすぐに元の姿を取り戻し、さらに嘲笑を深くした。
「無駄だ。我々はお前の心そのもの。お前が我々を憎む限り、我々は何度でも蘇る」

俺は何度も、何度も剣を振るった。
斬っても、斬っても、幻影は消えない。それどころか、彼らの言葉はさらに鋭くなり、俺の心を的確に抉ってくる。
『お前は、俺たちに捨てられた』
『誰もお前を必要としていない』
『お前は、独りぼっちだ』

「違う!」
俺は叫んだ。俺には、もう仲間がいる。シルフィが、フェンが、フロンティアの皆がいる。
だが、幻影たちは笑う。
「そうだ。だからこそ、お前は我々が憎いのだろう? 再び裏切られるのが怖いから。心のどこかで、今の仲間たちさえも信じきれていない。違うか?」

その言葉は、俺が心の奥底で蓋をしていた、最も見たくない本心だった。
そうだ。俺は、怖いのだ。再び、信じた者に裏切られることが。この温かい居場所を、失うことが。だから、俺は過去の裏切りを憎み続けることで、今の自分を守ろうとしていた。
この憎しみこそが、俺の心の澱みの正体だった。

俺は、はあ、と深いため息をつき、ソウルイーターを静かに下ろした。
もう、剣を振るうのはやめだ。憎しみで、この試練は乗り越えられない。
俺は、目の前の幻影たちを、初めて冷静に見つめた。

こいつらは、確かに俺を裏切った。その事実は、決して消えない。
だが、そのおかげで、俺は【神の眼】に目覚め、フェンやシルフィと出会うことができた。あの追放がなければ、今の俺はいない。
そう考えると、彼らへの憎しみは、不思議なほど色褪せていった。

「……もう、いい」
俺は、静かに呟いた。
「お前たちを、許すつもりはない。お前たちが俺にした仕打ちは、決して許されることではないからな」
幻影たちの顔に、嘲りの色が浮かぶ。
「だが」と俺は続けた。
「もう、お前たちを憎むこともやめる。俺の貴重な時間を、お前たちのような過去の亡霊のために使うのは、あまりにも無駄だ。俺の隣には、今の俺を信じてくれる仲間がいる。俺の未来には、お前たちの居場所など、もうないんだ」

それは、赦しではなかった。
過去を水に流すのでもない。
ただ、受け入れ、そして乗り越える。過去の憎しみに囚われるのではなく、それを未来へ進むための糧とする。完全なる、決別と超越の宣言だった。

俺がそう言い切った瞬間、目の前の四つの幻影が、ゆっくりと光の粒子に変わっていった。
彼らの表情から、嘲りや軽蔑の色は消えていた。ただ、どこか寂しげな、それでいて解放されたような、穏やかな顔つきで、俺に背を向けて消えていく。
さようならだ、俺の過去。

『――見事なり、人の子よ。汝は、己が心の最も深き闇に打ち勝った』
聖域の番人の、荘厳な声が響き渡る。
『憎しみに囚われず、未来を信じるその清廉なる魂。それこそが、心の祭壇が求めた答え。汝に、祝福を与えん』

俺の意識が、現実世界へと引き戻される。
目を開けると、心配そうに俺を覗き込むシルフィとフェンの顔があった。
「カイン!」
「大丈夫か、カイン!」
二人の声に、俺は穏やかに微笑んだ。憑き物が落ちたように、心が晴れやかだった。
「ああ。もう大丈夫だ」

心の祭壇が、ひときわ強い光を放ち、最後の封印を解き放った。
聖域の中央、神結晶を覆っていた三つの結界が、完全に消滅する。
結晶の内部に封じられていた『光の雫』が、俺たちを待っていた。
ついに、この聖域の最奥にたどり着いたのだ。

俺たちは、互いの顔を見合わせ、力強く頷いた。
そして、世界の運命を左右する、その一滴の光へと、静かに歩みを進めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました

黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった! これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。 絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。 辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。 一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」 これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。

霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半…… まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。 そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。 そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。 だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!! しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。 ーーそれは《竜族語》 レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。 こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。 それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。 一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた…… これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。 ※30話程で完結します。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

処理中です...