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第四十五話 光の雫
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心の澱みを振り払い、晴れやかな気持ちで俺は仲間たちに向き直った。
シルフィは安堵の涙を浮かべ、フェンは喜びのあまり俺の足元にじゃれついてくる。俺たちは、言葉を交わさずとも、互いの絆がさらに深まったことを感じていた。
三つの試練は、終わった。
聖域の中央、巨大な神結晶を覆っていた結界は完全に消え去り、その内部に封じられていた『光の雫』への道が開かれている。
俺たちは、ゆっくりと、しかし確かな足取りで、その光の中心へと歩を進めた。
神結晶に近づくにつれて、清浄なエネルギーが全身を包み込む。それは、生命の源そのものに触れているかのような、温かく、そして懐かしい感覚だった。
俺たちが結晶の前に立つと、それは自らの意思を持つかのように、音もなく開いていった。
そして、一滴の雫が、俺たちの目の前にふわりと浮かび上がった。
『光の雫』。
それは、液体でも固体でもない、純粋な光のエネルギー体だった。夜明けの太陽、満天の星々、生命の息吹。この世界のありとあらゆる美しいものを凝縮して、一滴の形にしたかのような、神々しい輝きを放っている。
ただ、そこに在るだけで、俺たちの魂は癒され、魔力は満ちていった。
俺は、吸い寄せられるように、その雫に手を伸ばした。
指先が触れた、その瞬間。
俺の脳内に、直接、膨大な情報とイメージが流れ込んできた。それは、聖域の番人の声ではなかった。もっと根源的な、この世界そのものの『意思』とでも言うべきものだった。
――『古の厄災』、すなわち虚無は、この世界が生まれた時に同時に生じた影。光が強ければ影が濃くなるように、生命が満ちれば、それを無に還そうとする虚無もまた力を増す。
――古の神殿にある封印は、神獣の強大な生命力を楔として、虚無の拡大を一時的に押し留めるだけのもの。それは、いずれ破られる運命にある、悲しき延命措置に過ぎない。
――この『光の雫』は、虚無と対をなす、創造の力そのもの。虚無が『無』であるならば、これは『有』を生み出す力。
――虚無が存在する空間そのものを、この雫の力で新たな理で『上書き』し、創造し直すこと。それこそが、唯一の、そして完全な封印の方法である。
世界の真理。残酷な運命の、本当の姿。
そして、それを覆すための、唯一の希望。
俺は、この聖域が俺たちに三つの試練を課した、本当の意味を理解した。
この『光の雫』を正しく使うには、強大な力、物事の本質を見抜く知恵、そして何よりも、未来を信じ、仲間と共に運命に抗うという、揺るぎない心が不可欠だったのだ。
俺の意識が現実に戻ると、目の前の『光の雫』が、より一層強く輝きを増していた。それは、俺たちの資格を認め、その力を託そうとしているようだった。
『――汝らは、その資格を示した』
知恵の祭壇で聞いた、ソフィアリスの荘厳な声が、聖域全体に響き渡る。
『我らは、永い時を待ち続けていた。力に溺れず、知恵を誇らず、心を偽らない、真の救い手を。この『光の雫』を、汝らに託そう。この世界の未来を、その手に』
その言葉と共に、『光の雫』はゆっくりと俺の胸へと吸い込まれていった。
それは、アイテムとして所持するのではない。俺の魂そのものに、創造の力が溶け込んでいくような、不思議な一体感だった。俺の体の中から、新たな力が、希望の光が、湧き上がってくるのを感じた。
『始まりの聖域』は、その役目を終えたのだろう。
周囲の空間が、ゆっくりと光の中に溶け始めていた。星々が消え、光の粒子が天へと還っていく。
俺たちの目の前に、王城の、あの扉へと続く一本の光の道だけが残されていた。
「……行こう」
俺は、隣に立つシルフィとフェンに声をかけた。
「俺たちの戦うべき場所へ」
王都での目的は、果たされた。
俺たちは、過去との因縁を断ち切り、世界の真実を知り、そして未来を切り拓くための力を手に入れた。
もう、迷いはない。
光の道を渡り、俺たちは再び王城の廊下へと戻った。
背後で、聖域へと続く扉が、永遠にその存在を閉ざすかのように、静かに閉じていった。
俺は、フロンティアの仲間たちが待つ、北の辺境を想った。そして、古の神殿の最奥で、俺たちを待ち受ける最後の戦いに、思いを馳せた。
この手に宿った光の力で、俺は必ず、フェンを、仲間を、そして俺たちが愛するこの世界を守り抜いてみせる。
俺の新たな決意と共に、物語は最終章へと、その駒を進めようとしていた。
シルフィは安堵の涙を浮かべ、フェンは喜びのあまり俺の足元にじゃれついてくる。俺たちは、言葉を交わさずとも、互いの絆がさらに深まったことを感じていた。
三つの試練は、終わった。
聖域の中央、巨大な神結晶を覆っていた結界は完全に消え去り、その内部に封じられていた『光の雫』への道が開かれている。
俺たちは、ゆっくりと、しかし確かな足取りで、その光の中心へと歩を進めた。
神結晶に近づくにつれて、清浄なエネルギーが全身を包み込む。それは、生命の源そのものに触れているかのような、温かく、そして懐かしい感覚だった。
俺たちが結晶の前に立つと、それは自らの意思を持つかのように、音もなく開いていった。
そして、一滴の雫が、俺たちの目の前にふわりと浮かび上がった。
『光の雫』。
それは、液体でも固体でもない、純粋な光のエネルギー体だった。夜明けの太陽、満天の星々、生命の息吹。この世界のありとあらゆる美しいものを凝縮して、一滴の形にしたかのような、神々しい輝きを放っている。
ただ、そこに在るだけで、俺たちの魂は癒され、魔力は満ちていった。
俺は、吸い寄せられるように、その雫に手を伸ばした。
指先が触れた、その瞬間。
俺の脳内に、直接、膨大な情報とイメージが流れ込んできた。それは、聖域の番人の声ではなかった。もっと根源的な、この世界そのものの『意思』とでも言うべきものだった。
――『古の厄災』、すなわち虚無は、この世界が生まれた時に同時に生じた影。光が強ければ影が濃くなるように、生命が満ちれば、それを無に還そうとする虚無もまた力を増す。
――古の神殿にある封印は、神獣の強大な生命力を楔として、虚無の拡大を一時的に押し留めるだけのもの。それは、いずれ破られる運命にある、悲しき延命措置に過ぎない。
――この『光の雫』は、虚無と対をなす、創造の力そのもの。虚無が『無』であるならば、これは『有』を生み出す力。
――虚無が存在する空間そのものを、この雫の力で新たな理で『上書き』し、創造し直すこと。それこそが、唯一の、そして完全な封印の方法である。
世界の真理。残酷な運命の、本当の姿。
そして、それを覆すための、唯一の希望。
俺は、この聖域が俺たちに三つの試練を課した、本当の意味を理解した。
この『光の雫』を正しく使うには、強大な力、物事の本質を見抜く知恵、そして何よりも、未来を信じ、仲間と共に運命に抗うという、揺るぎない心が不可欠だったのだ。
俺の意識が現実に戻ると、目の前の『光の雫』が、より一層強く輝きを増していた。それは、俺たちの資格を認め、その力を託そうとしているようだった。
『――汝らは、その資格を示した』
知恵の祭壇で聞いた、ソフィアリスの荘厳な声が、聖域全体に響き渡る。
『我らは、永い時を待ち続けていた。力に溺れず、知恵を誇らず、心を偽らない、真の救い手を。この『光の雫』を、汝らに託そう。この世界の未来を、その手に』
その言葉と共に、『光の雫』はゆっくりと俺の胸へと吸い込まれていった。
それは、アイテムとして所持するのではない。俺の魂そのものに、創造の力が溶け込んでいくような、不思議な一体感だった。俺の体の中から、新たな力が、希望の光が、湧き上がってくるのを感じた。
『始まりの聖域』は、その役目を終えたのだろう。
周囲の空間が、ゆっくりと光の中に溶け始めていた。星々が消え、光の粒子が天へと還っていく。
俺たちの目の前に、王城の、あの扉へと続く一本の光の道だけが残されていた。
「……行こう」
俺は、隣に立つシルフィとフェンに声をかけた。
「俺たちの戦うべき場所へ」
王都での目的は、果たされた。
俺たちは、過去との因縁を断ち切り、世界の真実を知り、そして未来を切り拓くための力を手に入れた。
もう、迷いはない。
光の道を渡り、俺たちは再び王城の廊下へと戻った。
背後で、聖域へと続く扉が、永遠にその存在を閉ざすかのように、静かに閉じていった。
俺は、フロンティアの仲間たちが待つ、北の辺境を想った。そして、古の神殿の最奥で、俺たちを待ち受ける最後の戦いに、思いを馳せた。
この手に宿った光の力で、俺は必ず、フェンを、仲間を、そして俺たちが愛するこの世界を守り抜いてみせる。
俺の新たな決意と共に、物語は最終章へと、その駒を進めようとしていた。
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