隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第26話 球技大会、あるいは女神の独壇場

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球技大会当日。初夏の太陽が、じりじりとアスファルトを焼いていた。
体育館の中は、試合開始前から全校生徒の熱気と興奮でむせ返るようだ。クラスごとにデザインされた揃いのTシャツが、色とりどりの感情を映し出している。
俺たちのクラスが選んだのは、燃えるような赤。その背中には、担任のタナチューの似顔絵がプリントされている。正直、あまり着たくはなかった。

「よっしゃー! 燃えてきたぜ!」
陽平が、無駄に気合の入った声で叫んでいる。
俺も、いつもとは違う種類の緊張を感じていた。隣を見ると、同じチームの天宮夏帆さんが「頑張ろうね、相沢くん!」と、太陽みたいに眩しい笑顔を向けてくる。
「お、おう……」
俺は曖.昧に頷きながら、視線は自然と体育館の反対側へと向いていた。
そこに、彼女はいた。
雪城冬花。
彼女のチームカラーは、静かな海を思わせる青。そのTシャツすら、彼女が着るとどこかの高級ブランド品のように見えるから不思議だ。彼女は一人、壁に寄りかかり、静かに目を閉じて精神を集中させているようだった。
俺たちの「約束」を、彼女も覚えているだろうか。

俺の視線に気づいたのか、彼女はゆっくりと目を開けた。そして、遠く離れた俺と、ぴたりと視線が合う。
彼女は、何も言わなかった。ただ、ほんのわずかに、こくりと頷いて見せた。
それは、他の誰にも気づかれない、俺と彼女だけの秘密の合図。
『見ていますよ』
そう言われた気がして、俺の心臓は、試合開始前からけたたましく鳴り響いた。

開会式が終わり、いよいよ試合が始まる。
最初の試合は、雪城さんのチームだった。相手は、去年の優勝クラスの猛者たちが揃う、3年2組。
「うわ、いきなり強敵じゃん」
「雪城さんとこ、大丈夫か?」
周囲から心配の声が上がる中、俺はコートサイドの一番見やすい場所に陣取り、固唾をのんで試合の行方を見守っていた。「約束」通り、彼女の姿だけを、その目に焼き付けるために。

ホイッスルが鳴り、試合が始まる。
序盤、やはり地力に勝る3年生チームが優勢に試合を進めた。パス回しも巧みで、次々と雪城さんチームの内野を減らしていく。
雪城さんは、コートの後方で静かに佇み、まだほとんど動いていなかった。
「おいおい、雪城さんどうしたんだ?」
「緊張してんのかな?」
観客席がざわつき始めた、その時だった。
3年生のエース格の男子が、勝利を確信したかのように、渾身の力を込めたボールを投げた。そのターゲットは、雪城さんだった。
唸りを上げて飛んでくるボール。体育館の誰もが、雪城さんのアウトを確信した。

だが、彼女は、動かなかった。
いや、俺の目にはそう見えた。
ボールが彼女の顔面に到達する、まさに寸前。彼女の右手が、まるで幻影のようにすっと現れ、いとも容易く、そのボールを鷲掴みにしたのだ。
ドンッ、という鈍い音が、静まり返った体育館に響き渡る。
ボールの回転は完全に殺され、彼女の手の中で、ぴたりと静止していた。
「……は?」
ボールを投げた3年生が、間抜けな声を漏らす。
体育館中が、信じられないものを見たという驚愕で、シンと静まり返った。
その静寂を破ったのは、陽平の叫び声だった。
「マジかよ……マトリックスかよ……」

そこから、戦場の流れは完全に変わった。
ボールを手にした雪城冬花は、もはや女神ではなかった。コートに君臨する、絶対的な支配者だった。
彼女はボールを構えると、一瞬だけ、ちらりと俺の方を見た。そして、その唇の端が、ほんのわずかに吊り上がったのを、俺は見逃さなかった。
『見ていてくださいね、私の活躍を』
そんな声が聞こえた気がした。
次の瞬間、彼女の腕から放たれたボールは、見えない糸に引かれているかのように、正確無比な軌道を描いて相手の内野手の足元を捉えた。アウト。
ボールは味方チームに渡り、再び彼女の手に戻る。
また、アウト。
そして、また一人、アウト。
彼女の投げるボールは、決して剛速球ではない。だが、相手が絶対に取れない場所、体の重心が移動した逆のコース、味方の壁で死角になった足元などを、ミリ単位の精度で的確に狙い撃ちしていく。
それはもはや、スポーツではなく、芸術の域に達していた。
守備に回っても、彼女は完璧だった。相手の投げるボールの軌道を全て予測しているかのように、危険なボールは全て彼女がカットする。そして、そのボールは常に、味方の最も攻撃しやすい選手へと、優しく手渡されるのだ。
「すげえ……雪城さん、一人だけ未来が見えてるみてえだ……」
誰かが呟いた言葉に、俺は心の中で頷いた。
そうだよ。こいつは、本当に未来が見えてるんだ。色んな意味で。

試合は、終わってみれば雪城さんチームの圧勝だった。
試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、彼女は汗一つかいていない涼しい顔で、再び俺の方を見た。そして、小さくドヤ顔をしたように見えたのは、きっと俺の欲目ではないだろう。
俺は、彼女の圧倒的な強さと、その根底にある「俺に見ていてほしい」という健気な想いに、胸が熱くなるのを感じた。

その後も、彼女のチームの快進撃は続いた。
一試合、また一試合と、危なげなく勝ち進んでいく。
その間、俺はずっと、彼女だけを追い続けた。
彼女が得点を決めれば、俺は心の中でガッツポーズをした。彼女がファインプレーを見せれば、俺は自分のことのように誇らしい気持ちになった。
彼女もまた、プレーの合間に、必ず俺の視線を探しているのが分かった。俺たちの間には、言葉はなくとも、確かな繋がりが生まれていた。

やがて、俺たちのチームの試合が始まった。
「相沢くん、私たちの番だよ! 行こう!」
天宮さんに腕を引かれ、俺はコートへと向かう。
大丈夫だ。俺も、彼女が見ていてくれる。
そう思うと、不思議と力が湧いてきた。
「見てろよ、雪城さん。俺だって、やるときはやるんだってところ、見せてやる」
俺はコートサイドで試合を見つめる彼女に向かって、心の中で力強く宣言した。
彼女は、俺の決意に気づいたかのように、ただ静かに、その氷の瞳で俺を見つめ返していた。
その視線が、俺にとっては何よりの力になった。
これから始まる試合で、俺が活躍できるかどうかは分からない。
だが、一つだけ確かなことがある。
俺は、彼女のために戦う。ただ、それだけだ。
熱気に満ちた体育館で、俺は静かに闘志を燃やしていた。
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