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第50話 普通のカップル、あるいは幸せな勘違い
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夕立がもたらした、静かで甘い時間。
バス停の狭い屋根の下、俺と雪城さんの間にはもう言葉は必要なかった。
触れ合った肩から伝わる温もりと、雨音に混じるお互いの呼吸。それだけで、俺たちの心は確かに通じ合っている気がした。
彼女の「普通の高校生カップルみたい」という、あの小さな呟き。
その言葉が、俺の頭の中でずっと反響していた。
そうだ。俺たちがしているのは、まさにそれだ。
未来の嫁とか、委員長と副委員長とか、そんな肩書きはどうでもいい。
俺は雪城冬花という一人の女の子に恋をしていて、彼女もまた俺に特別な感情を抱いてくれている。
ただ、それだけのことだ。
そう思ったら、今まで俺の心を縛っていた様々な枷が、すっと外れていくような気がした。
「……雨、少し弱くなってきたな」
俺がそう呟くと、俯いていた彼女がゆっくりと顔を上げた。
その頬はまだほんのりと赤い。
「……そうですね」
彼女の声は、まだ少しだけ上ずっていた。
俺たちの間に流れる、この初々しくて少しだけ気まずい空気。
それが、たまらなく心地よかった。
雨足が弱まり、俺たちは再び学校へと歩き始めた。
大きな荷物を二人で一つずつ持つ。その歩幅は、自然と同じリズムを刻んでいた。
もう、どちらかが先に歩くということもない。
ただ隣に並んで、同じ景色を見て、同じ道を歩く。
それだけのことが、こんなにも幸せなことなんだと、俺は生まれて初めて知った。
教室に戻ると、作業を続けていたクラスメイトたちが、ずぶ濡れの俺たちを見て驚きの声を上げた。
「うわっ、二人ともびしょ濡れじゃん! 大丈夫か!?」
陽平がタオルを持って駆け寄ってくる。
「ああ、夕立にやられてな」
俺が苦笑いしながら答えると、天宮さんが心配そうな顔で冬花に声をかけた。
「雪城さん、風邪ひいちゃうよ! これ、使って!」
そう言って、彼女は自分のタオルを冬花に差し出す。
「……ありがとうございます、天宮さん」
冬花は素直にそれを受け取った。
その光景を見て、俺は少しだけほっとした。
球技大会の頃にあった、二人の間のあのピリピリとした緊張感はもうない。
天宮さんは、きっと全てを理解して受け入れてくれたのだろう。そして冬花もまた、彼女の優しさを素直に受け止めている。
そのことに、俺は心からの感謝を覚えた。
「にしても、二人で雨宿りとか、青春かよ!」
陽平がニヤニヤしながら、俺の脇腹を肘で突く。
「お前ら、もう付き合っちゃえよ。クラス全員、公認だっての」
「う、うるさい!」
俺が顔を赤くして陽平を追い払っていると、他のクラスメイトたちも「そうだそうだー!」と楽しそうに囃し立て始めた。
「美男美女で、お似合いだよねー」
「委員長と副委員長って、なんか燃えるし!」
「もう、うちのクラスの公式カップルでいいんじゃない?」
その温かいからかいの言葉の雨。
以前の俺なら羞恥心で死んでいたかもしれない。
だが、今の俺は不思議とそれが嫌ではなかった。
むしろ、少しだけ誇らしいような、嬉しいような気持ちになっている自分がいる。
俺はちらりと隣の冬花を見た。
彼女はクラスメイトたちのからかいに、特に反論もせず、ただ静かに濡れた髪をタオルで拭いている。
だが、その耳は隠しようもなく真っ赤に染まっていた。
そのあまりにも分かりやすい反応が可愛すぎて、俺はまたしても胸が高鳴るのを止められなかった。
「……こうしていると」
その日の帰り道。
二人きりになった夕暮れの道で、彼女がぽつりと呟いた。
「なんだか、みんなに私たちの関係を勘違いさせてしまっているみたいで……。申し訳ないですね」
彼女の言葉に、俺は少しだけ意地悪な気持ちになった。
「勘違い、かな?」
俺がそう聞き返すと、彼女はきょとんとして俺の顔を見上げた。
「え?」
「俺は、別に勘違いだとは思わないけどな」
俺は彼女の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「俺たちが付き合ってるって思われても。俺は、別に構わない」
それはほとんど告白に近い言葉だった。
俺の不意打ちの一言に、彼女の思考は完全に停止したようだった。
大きな碧色の瞳をぱちぱちと何度か瞬きさせる。
そして、次の瞬間。
そのいつも冷静な彼女の顔が、ぼんっと音を立てるかのように真っ赤に染まった。
「な……、な……、な……」
彼女は何かを言おうとするが、言葉にならない。ただ口をぱくぱくとさせているだけだ。
そのあまりにも初々しい狼狽した姿。
俺は、その反応がたまらなく愛おしくて、声を上げて笑ってしまった。
「ははっ、冗談だよ」
俺がそう言ってごまかすと、彼女ははっと我に返ったように俺をじろりと睨みつけた。
その瞳は潤んでいて、怒っているのか、照れているのか、もう判別がつかない。
「……優斗さんの、いじわる」
ぷいっとそっぽを向いて拗ねてしまう彼女。
その小さな背中を追いかけながら、俺は確信していた。
勘違いなんかじゃない。
俺たちはもう、ただのクラスメイトでも未来の夫婦でもない。
まだ言葉にはしていないけれど。
俺たちの心は、もうとっくの昔に結ばれていたのだと。
この幸せな『勘違い』が、いつか本当になる日を夢見て。
俺は、拗ねてしまった彼女の隣にそっと並んで歩き始めた。
その距離は、今までで一番近かった。
バス停の狭い屋根の下、俺と雪城さんの間にはもう言葉は必要なかった。
触れ合った肩から伝わる温もりと、雨音に混じるお互いの呼吸。それだけで、俺たちの心は確かに通じ合っている気がした。
彼女の「普通の高校生カップルみたい」という、あの小さな呟き。
その言葉が、俺の頭の中でずっと反響していた。
そうだ。俺たちがしているのは、まさにそれだ。
未来の嫁とか、委員長と副委員長とか、そんな肩書きはどうでもいい。
俺は雪城冬花という一人の女の子に恋をしていて、彼女もまた俺に特別な感情を抱いてくれている。
ただ、それだけのことだ。
そう思ったら、今まで俺の心を縛っていた様々な枷が、すっと外れていくような気がした。
「……雨、少し弱くなってきたな」
俺がそう呟くと、俯いていた彼女がゆっくりと顔を上げた。
その頬はまだほんのりと赤い。
「……そうですね」
彼女の声は、まだ少しだけ上ずっていた。
俺たちの間に流れる、この初々しくて少しだけ気まずい空気。
それが、たまらなく心地よかった。
雨足が弱まり、俺たちは再び学校へと歩き始めた。
大きな荷物を二人で一つずつ持つ。その歩幅は、自然と同じリズムを刻んでいた。
もう、どちらかが先に歩くということもない。
ただ隣に並んで、同じ景色を見て、同じ道を歩く。
それだけのことが、こんなにも幸せなことなんだと、俺は生まれて初めて知った。
教室に戻ると、作業を続けていたクラスメイトたちが、ずぶ濡れの俺たちを見て驚きの声を上げた。
「うわっ、二人ともびしょ濡れじゃん! 大丈夫か!?」
陽平がタオルを持って駆け寄ってくる。
「ああ、夕立にやられてな」
俺が苦笑いしながら答えると、天宮さんが心配そうな顔で冬花に声をかけた。
「雪城さん、風邪ひいちゃうよ! これ、使って!」
そう言って、彼女は自分のタオルを冬花に差し出す。
「……ありがとうございます、天宮さん」
冬花は素直にそれを受け取った。
その光景を見て、俺は少しだけほっとした。
球技大会の頃にあった、二人の間のあのピリピリとした緊張感はもうない。
天宮さんは、きっと全てを理解して受け入れてくれたのだろう。そして冬花もまた、彼女の優しさを素直に受け止めている。
そのことに、俺は心からの感謝を覚えた。
「にしても、二人で雨宿りとか、青春かよ!」
陽平がニヤニヤしながら、俺の脇腹を肘で突く。
「お前ら、もう付き合っちゃえよ。クラス全員、公認だっての」
「う、うるさい!」
俺が顔を赤くして陽平を追い払っていると、他のクラスメイトたちも「そうだそうだー!」と楽しそうに囃し立て始めた。
「美男美女で、お似合いだよねー」
「委員長と副委員長って、なんか燃えるし!」
「もう、うちのクラスの公式カップルでいいんじゃない?」
その温かいからかいの言葉の雨。
以前の俺なら羞恥心で死んでいたかもしれない。
だが、今の俺は不思議とそれが嫌ではなかった。
むしろ、少しだけ誇らしいような、嬉しいような気持ちになっている自分がいる。
俺はちらりと隣の冬花を見た。
彼女はクラスメイトたちのからかいに、特に反論もせず、ただ静かに濡れた髪をタオルで拭いている。
だが、その耳は隠しようもなく真っ赤に染まっていた。
そのあまりにも分かりやすい反応が可愛すぎて、俺はまたしても胸が高鳴るのを止められなかった。
「……こうしていると」
その日の帰り道。
二人きりになった夕暮れの道で、彼女がぽつりと呟いた。
「なんだか、みんなに私たちの関係を勘違いさせてしまっているみたいで……。申し訳ないですね」
彼女の言葉に、俺は少しだけ意地悪な気持ちになった。
「勘違い、かな?」
俺がそう聞き返すと、彼女はきょとんとして俺の顔を見上げた。
「え?」
「俺は、別に勘違いだとは思わないけどな」
俺は彼女の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「俺たちが付き合ってるって思われても。俺は、別に構わない」
それはほとんど告白に近い言葉だった。
俺の不意打ちの一言に、彼女の思考は完全に停止したようだった。
大きな碧色の瞳をぱちぱちと何度か瞬きさせる。
そして、次の瞬間。
そのいつも冷静な彼女の顔が、ぼんっと音を立てるかのように真っ赤に染まった。
「な……、な……、な……」
彼女は何かを言おうとするが、言葉にならない。ただ口をぱくぱくとさせているだけだ。
そのあまりにも初々しい狼狽した姿。
俺は、その反応がたまらなく愛おしくて、声を上げて笑ってしまった。
「ははっ、冗談だよ」
俺がそう言ってごまかすと、彼女ははっと我に返ったように俺をじろりと睨みつけた。
その瞳は潤んでいて、怒っているのか、照れているのか、もう判別がつかない。
「……優斗さんの、いじわる」
ぷいっとそっぽを向いて拗ねてしまう彼女。
その小さな背中を追いかけながら、俺は確信していた。
勘違いなんかじゃない。
俺たちはもう、ただのクラスメイトでも未来の夫婦でもない。
まだ言葉にはしていないけれど。
俺たちの心は、もうとっくの昔に結ばれていたのだと。
この幸せな『勘違い』が、いつか本当になる日を夢見て。
俺は、拗ねてしまった彼女の隣にそっと並んで歩き始めた。
その距離は、今までで一番近かった。
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