隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第49話 突然の夕立、あるいは心と体の距離

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文化祭の準備が本格化し、俺たちの放課後は完全にそれに占領されていた。
雪城委員長の完璧すぎる指揮のもと、お化け屋敷の制作は驚くほど順調に進んでいた。クラスの雰囲気も、日に日に一体感を増していく。
その中心には常に彼女がいた。そして、その隣には常に俺がいた。
その日、俺たちは、お化け屋敷の装飾に使う大量の黒い布や小道具を買い出しに、町のホームセンターまで来ていた。
もちろん、二人きりだ。
「計画書によれば、この店が最もコストパフォーマンスに優れています。未来のデータがそう示していました」
カートを押しながら、彼女はいつものようにクールに解説する。
「お前、本当に何でも知ってるな……」
俺はもはや感心するしかなかった。

店内を回り、必要なものを次々とカートに入れていく。
「優斗さん、そこの段ボール箱、取ってください」
「おう」
二人で協力して大きな荷物を運ぶ。その共同作業が、なんだか新婚夫婦の買い物みたいで、俺は一人で勝手に照れていた。
会計を済ませると、外はいつの間にかどんよりとした灰色の雲に覆われていた。
「まずいな。降りそうだ」
「急ぎましょう。私の計算では、あと十五分は持ちます」
彼女のその言葉を信じ、俺たちは大きな荷物を抱えて学校への道を急いだ。

だが、天気というものは、未来から来た完璧超人の計算通りには動いてくれないらしい。
学校まであと少しというところで、ぽつり、ぽつりと冷たい滴が俺たちの頬を濡らし始めた。
そして、次の瞬間。
ザアアアアアッ、とまるで空に穴が開いたかのような猛烈な勢いで雨が降り出した。
夕立だった。
「うわっ、マジかよ!」
「……計算外、です」
彼女もさすがに少しだけ悔しそうな顔をしている。
俺たちは、ずぶ濡れになりながら必死に走った。
そして、近くにあった古いバス停の小さな屋根の下へと駆け込んだ。

「はあ……はあ……。びしょ濡れだ……」
俺は髪から滴る雫を拭いながら息を切らした。隣の彼女も、全身雨でぐっしょりと濡れている。
白いブラウスが肌にぴったりと張り付き、その下の華奢な体のラインがあらわになっていた。
俺はどこに目をやればいいのか分からず、慌てて視線を逸らした。顔が熱くなる。
「……風邪、ひきますよ」
彼女はそんな俺の葛藤など気にも留めず、ハンカチで俺の髪を優しく拭いてくれた。
そのあまりにも自然な仕草に、俺の心臓はまたしても大きく跳ねた。
「お、お前こそ……」
俺も自分のハンカチで、彼女の濡れた銀髪をおそるおそる拭いてやる。
彼女は少しだけ驚いた顔をしたが、抵抗はしなかった。ただ猫のように気持ちよさそうに目を細めている。
その無防備な表情が、たまらなく愛おしかった。

バス停の屋根を激しい雨音が絶え間なく叩きつける。
それはまるで、世界に俺たち二人だけしかいないかのような不思議な錯覚をもたらした。
外の世界の音は、全てこの雨音にかき消されてしまう。
聞こえるのは雨の音と、お互いの少しだけ速い呼吸の音だけ。
狭いバス停の屋根の下。
俺たちの肩が自然と触れ合うほどの近い距離。
身体中が雨で冷えているはずなのに、彼女と触れている部分だけが燃えるように熱かった。
気まずいような、でも心地よいような、不思議な沈黙。
その沈黙を破ったのは、彼女の小さな呟きだった。

「……こうしていると」
彼女は激しく地面を叩く雨を見つめながら、ぽつりと言った。
「なんだか、普通の高校生カップルみたいですね」

その言葉に、俺は息を呑んだ。
彼女の横顔は、いつもよりもずっと穏やかで柔らかい。
その表情は、未来の嫁でも完璧な委員長でもない。
ただ、好きな人と雨宿りをしている、一人の恋する女の子の顔だった。
「いつも、未来とか計画とか、そんなことばかりで……あなたのことを縛り付けてしまっていましたから」
彼女は少しだけ寂しそうに笑った。
「でも、本当は私も……。こういう、何でもない普通の時間を、あなたと過ごしてみたかったんです」
そのあまりにも健気で、純粋な願い。
俺は胸が、きゅっと締め付けられるのを感じた。
未来の悲劇を知っているからこそ、彼女は必死に計画を立て、俺を導こうとしてくれていた。
だが、その心の奥底では、ずっとこんなありふれた幸せを夢見ていたのだ。

「……俺もだよ」
俺は気づけばそう口にしていた。
「俺も、お前とこうしてる時間が一番好きだ」
未来とか、関係ない。
ただ今この瞬間、彼女と二人で同じ雨を見ている。
それだけで、俺はどうしようもなく幸せだった。
俺の言葉に、彼女は驚いたように目を丸くした。
そして次の瞬間、その白い頬をぽっと夕焼けのように赤く染めた。
彼女は何も言えずに俯いてしまう。
そのあまりにも初々しい反応に、俺の心臓はもう限界だった。

雨はまだ止む気配がない。
狭いバス停の下で寄り添う二つの影。
触れ合った肩から伝わるお互いの体温。
俺たちの心と体の距離が、この突然の夕立によって急速に縮まっていくのを感じていた。
もう、どちらからともなくあと一歩、踏み出してしまいそうだった。
そんな甘くも危険な空気が、雨音と共に俺たち二人を優しく包み込んでいた。
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