隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第60話 屋上の呼び出し、あるいは宣戦布告

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天宮夏帆さんのメイド服姿が廊下にいた男子生徒たちの理性を根こそぎ奪い去っていく中、俺の耳には雪城冬花が残した地獄の宣告だけが響いていた。
『後で、屋上まで、来なさい』
その、あまりにも重い言葉。
陽平は、「うおー! 女神降臨!」と興奮状態で、俺が背負わされた巨大な十字架のことなど全く気づいていない。
天宮さんは恥ずかしそうにしながらもクラスメイトに促され、健気に「おかえりなさいませ、ご主人様……」と、か細い声で接客を始めていた。その姿は、確かに筆舌に尽くしがたいほどの破壊力を持っていた。
だが、今の俺にそれを愛でる余裕など一ミリもなかった。
俺の頭の中は、これから屋上で繰り広げられるであろう最終裁判のことだけでいっぱいだった。

雪城さんはその宣告を残すと、すっとその場から姿を消した。
きっと一人、先に屋上へと向かったのだろう。
俺は陽平に「ちょっと、トイレ」とバレバレの嘘をつき、その場から逃げ出した。
階段を上る一歩一歩が、断頭台へと向かう罪人のように重い。
屋上へと続く、あの古びた鉄の扉。
以前、彼女がいとも容易くその鍵を開けてみせた、あの扉だ。
俺は深呼吸を一つ、二つ、三つ。
そして覚悟を決めて、その扉に手をかけた。
意外にも、鍵はかかっていなかった。

ギィ、と重い音を立てて扉が開く。
そこに広がっていたのは、いつもと同じ、しかし、いつもとは全く違う緊張感に満ちた屋上の風景だった。
秋の空はどこまでも青く、澄み渡っている。
文化祭の喧騒が、嘘のように遠くに聞こえた。
彼女はフェンスの前に一人で立っていた。
背中をこちらに向けたまま。
その青いTシャツに身を包んだ華奢な背中が、今はどんな巨漢よりも大きく、そして恐ろしく見えた。

俺は、おそるおそる彼女の元へと歩み寄った。
「……雪城さん」
俺が声をかけると、彼女はゆっくりと、本当にゆっくりとこちらを振り返った。
その顔には、やはり何の表情もなかった。
怒りも、悲しみも、嫉妬すらない。
ただ、どこまでも静かでどこまでも冷たい、完璧な無。
その感情の欠落こそが、彼女が今、最大級に怒っていることの何よりの証拠だった。
「来ましたか、優斗さん」
その声も、平坦で抑揚がない。
「……ああ」
俺にできるのは、ただ頷くことだけだった。

彼女はしばらくの間何も言わずに、ただ俺の目をじっと見つめていた。
その、底なしの湖のような碧色の瞳に、俺の全てが見透かされていくようだった。
やがて彼女は静かに口を開いた。
その言葉は俺が予想していたような、詰問や非難の言葉ではなかった。

「天宮夏帆さんから、話があるそうです」

「…………は?」
俺は思わず間抜けな声を漏らした。
天宮さんから、話?
今、この一触即発の状況で、なぜ彼女の名前が出てくるんだ?
俺が混乱していると、雪城さんは淡々と続けた。
「彼女が、あなたに伝えたいことがある、と。今日の文化祭が終わった後、この場所で待っている、と」
「え、ちょ、なんで、それを、お前が……?」
「彼女に、頼まれましたから」
雪城さんは、こともなげに言う。
「先ほど私がここへ来る途中、彼女に呼び止められました。そして、『相沢くんに、伝えてほしい』と、真剣な顔でそう言われました」
信じられない話だった。
天宮さんが、雪城さんに俺への伝言を頼む?
一体どういう状況だ。
俺の頭はもはや、完全にキャパシティオーバーだった。

「それで、あなたはどうするのですか?」
俺の問いではない。
それは雪城さんからの、問いだった。
「彼女の呼び出しに、応じるのですか? それとも、断るのですか?」
彼女の瞳が、俺を真っ直ぐに射抜く。
これは、試されている。
俺の覚悟を。俺の気持ちを。
ここで、俺がどんな答えを出すのか。彼女はそれを見極めようとしている。
俺の脳裏に、様々なものが駆け巡る。
天宮さんの太陽のような笑顔。彼女の優しさ。そして、俺に向けてくれた純粋な好意。
それを無下にしていいのか。
いや、でも。
俺の心は、もう決まっている。
俺が、本当に向き合いたいのは誰なのか。
俺が、本当に大切にしたいのは誰なのか。
答えはたった一つしかない。

俺は一度大きく息を吸い込んだ。
そして、彼女の目を逸らさずに、はっきりと告げた。
「……行かない」
俺の、その一言。
それを聞いた瞬間、彼女の氷のように固まっていた表情が、ほんのわずかに揺らいだ気がした。
俺は続けた。
「俺には関係ない。誰が俺に何を伝えたいかなんて。俺が聞きたいのは、お前の言葉だけだ。俺が一緒にいたいのは、お前だけなんだから」
それは紛れもない、俺の本心だった。
もう迷いはない。
俺は雪城冬花を選ぶ。
どんな未来が待っていようと、俺は、この未来から来た不器用で嫉妬深くて、そしてどうしようもなく愛おしいこの少女と一緒にいたい。

俺の覚悟のこもった言葉。
それを聞いた彼女は、何も言わなかった。
ただじっと、俺の顔を見つめている。
その瞳の奥で、激しい感情の嵐が渦巻いているのが分かった。
やがて彼女は、ふっと息を吐いた。
そして、今まで見せたことのないような決意に満ちた力強い表情で、俺に言った。

「分かりました」
「では、私も彼女と話をします」

「え……?」
今度は俺が驚く番だった。
「あなたが行かないのであれば、私が行きます。そして、伝えます。私たちの、覚悟を」
それはもはや単なる嫉妬ではなかった。
一人の愛する男性(おとこ)を巡る、もう一人の女性(おんな)に対する正々堂々とした宣戦布告。
その、あまりにも凛々しく、あまりにも格好良い姿に、俺はただ圧倒されるしかなかった。
屋上の空は、どこまでも青く澄み渡っている。
これから、この場所で繰り広げられるであろう二人の女神による、静かで、しかし激しい魂のぶつかり合い。
その歴史的な瞬間の証人になることを、この時の俺はまだ想像することすらできなかった。
ただ、俺たちの文化祭がとんでもないクライマックスを迎えようとしていることだけは確かだった。
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