隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第61話 最後の告白、あるいは太陽の涙

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文化祭は、大成功のうちに幕を閉じた。
俺たちのクラスのお化け屋敷は、最終的に『最優秀クラス企画賞』を受賞し、教室は歓喜の渦に包まれた。功労者である雪城委員長はクラスメイトたちから胴上げされそうになり、「やめなさい。非合理的です」とクールに一蹴していたが、その横顔は紛れもなく誇らしげだった。
祭りの後の、心地よい疲労感と一抹の寂しさ。
後片付けが始まり、俺たちは三日三晩かけて創り上げた夢の跡を、自分たちの手で解体していく。
その喧騒の中で、俺の心は一つのことだけで占められていた。
雪城さんと、天宮さんのことだ。

屋上での、あの宣戦布告。
『私が、彼女と、話をします』
そう宣言した雪城さんは、後片付けが始まると俺に「あなたは、ここで全体の指揮を」とだけ言い残し、ふっとその場から姿を消した。
きっと、天宮さんを探しに行ったのだろう。
俺は居ても立ってもいられなかった。
二人がどんな話をするのか。想像もつかない。だが、どちらにも傷ついてほしくなかった。
「……陽平、悪い。あと、頼む」
俺は後片付けの指揮権を、半ば強引に陽平に押し付けると教室を飛び出した。

二人がいそうな場所。
心当たりは、一つしかなかった。
あの、屋上だ。
俺は階段を二段飛ばしで駆け上がり、錆びついた鉄の扉を勢いよく開けた。
そこに広がっていたのは、俺が予想した通りの光景だった。

夕日が、世界を燃えるようなオレンジ色に染め上げている。
その光の中で、二人の少女が対峙していた。
氷のように静かな、雪城冬花。
太陽のように明るい、天宮夏帆。
その間には、張り詰めた、しかし不思議と清浄な空気が流れていた。
「……邪魔、しちまったか」
俺の出現に、二人は同時にこちらを振り返った。
天宮さんは、少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの優しい笑顔に戻った。
「ううん。ちょうど、良かったかも」
彼女はそう言って、雪城さんに一度視線を送る。
雪城さんも、静かにこくりと頷いた。二人の間では、もう話はついていたのかもしれない。
そして、天宮さんはゆっくりと俺の前に歩み寄ってきた。

「相沢くん」
彼女は俺の名前を呼んだ。その声はいつもよりも、少しだけ大人びて聞こえた。
「私ね、ずっと中学の時から、あなたのことが好きでした」

それは、あまりにも真っ直ぐで、あまりにも突然の告白だった。
俺は何も言えず、ただ息を呑んだ。
彼女は続ける。その瞳は夕日を映して、きらきらと潤んでいた。
「いつも誰にでも優しくて、困っている人がいたら損得考えずに助けてあげてて。そういう、ちょっと不器用で、でもすごく温かいところが大好きだった」
「球技大会の時、勇気を出して同じチームになろうって言ったの。文化祭でメイド服着る羽目になった時、あなたがすごく心配そうな顔で見ててくれたのも、本当はすごく嬉しかったんだよ」
彼女の言葉の一つ一つが、俺の知らなかった彼女の想いを、俺の胸に優しく、しかし切なく刻み込んでいく。
「でも、分かってた」
彼女は一度言葉を切り、俺の後ろに立つ雪城さんに視線を送った。
その視線には、嫉ゆえにも敵意もなかった。あるのはただ、清々しいほどの敬意と、そしてほんの少しの羨望。
「雪城さんが、あなたの特別なんだって。あなたたちが、お互いを誰よりも大切に想ってるんだってこと。見てれば、すぐに分かったよ」
彼女はそう言って、ふわりと笑った。
その笑顔は、少しだけ泣きそうに歪んでいた。

「だからね、これは私のわがまま」
彼女は再び、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「勝ち目がないって分かってる。でも、この気持ちを伝えないまま終わりたくなかった。ちゃんと、あなたに好きだって言って、ちゃんとフラれたかったの」
「だから、聞いてくれてありがとう」
彼女の瞳から、ついに一筋の涙がこぼれ落ちた。
だが、それは悲しい涙ではなかった。
自分の恋に最後まで誠実であろうとした、強い、強い太陽の涙だった。

俺は、どうすればいいのか分からなかった。
こんなにも真っ直ぐな想いを、俺はどう受け止めればいい?
俺が言葉を探して狼狽えていると、俺の背後から静かな声がした。
「……優斗さん」
雪城さんの声だった。
彼女は俺の隣に、いつの間にか立っていた。
そして、俺の代わりにというように、天宮さんに深く、深く頭を下げた。
「……ごめんなさい」
その意外な行動に驚いたのは、俺だけではなかった。天宮さんも目を丸くしている。
「私の夫が、あなたに辛い思いをさせました。妻として、代わりに謝罪します」
その、あまりにも真摯で、あまりにも誠実な態度。
天宮さんはしばらく呆然としていたが、やがてぷっと吹き出した。
そして、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま声を上げて笑った。
「あははっ! 何それ! 雪城さんて、やっぱり面白い人だね!」
彼女は涙を拭うと、すっきりとした吹っ切れた笑顔で言った。
「謝らないで。私、雪城さんのこと嫌いじゃないよ。むしろ、好きになっちゃったかも。あなたの、そういう真っ直ぐなところ」
そして彼女は、俺に最後の笑顔を向けた。
「相沢くん、雪城さんのこと、絶対幸せにしてあげてね。約束だよ」

それが、俺の初めての失恋だった。
そして、俺の初めての恋が本当の意味で祝福された瞬間でもあった。
夕日が三人の影を、長く、長く地面に映し出していた。
一つの恋が終わり、そして一つの恋がまた深く始まっていく。
文化祭の終わりは、俺たちの青春の一つの大きな、大きなターニングポイントとなったのだった。
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