隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第62話 向き合う覚悟、あるいは自分の言葉で

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天宮さんの太陽のような涙と笑顔。
その、あまりにも潔く、そしてあまりにも優しい「さよなら」は、俺の胸に甘くも切ない深い余韻を残した。
彼女は「じゃあね!」と最後まで明るく手を振って、屋上から去っていった。その小さな背中を見送りながら、俺は柄にもなく少しだけ感傷的な気持ちになっていた。
彼女の真っ直ぐな想いに、俺は何も返してあげることができなかった。
その申し訳なさと、自分の不甲斐なさがずしりと心にのしかかる。

「……行かなくて、よかったのですか」
静寂を破ったのは、隣に立つ雪城さんの声だった。
彼女は天宮さんが去っていった扉をじっと見つめている。
「彼女の最後の言葉に、あなたは何も答えなくてよかったのですか」
その問いかけには棘がなかった。
ただ、純粋な気遣いだけが込められていた。
俺はゆっくりと首を横に振った。
「……ああ。よかったんだ」
俺は夕日に染まる街並みを見下ろしながら言った。
「俺が何か言ったって、それは彼女を傷つけるだけだ。俺にできるのは、ただ彼女の気持ちを受け止めることだけだったんだよ」
誠実でいること。
それが俺が彼女にできる、唯一の、そして最後の礼儀だった。

俺の言葉に、彼女は何も言わなかった。
ただ静かに、俺の横顔を見つめている。
しばらくして、俺は意を決して彼女の方に向き直った。
今度は俺の番だ。
俺も自分の気持ちに誠実に向き合わなければならない。
逃げるのは、もう終わりだ。

「……なあ、雪城さん」
俺は彼女の、その深い碧色の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
「俺、天宮さんのこと、断ったけどさ」
心臓が、ドクン、ドクンと大きく、そして速く脈打つのを感じる。
顔が熱い。指先が少しだけ震えている。
でも、もう怖くはなかった。
「あれは、お前のために断ったんじゃないんだ」

その俺の言葉に、彼女の瞳がわずかに揺れた。
驚きと戸惑いと、そしてほんの少しの不安の色。
俺は続ける。
自分の本当の心の声を、ありのままに紡ぎ出す。

「お前が未来の嫁だから、とか。お前と約束したから、とか。そんな理由じゃない」
「俺が、俺自身の気持ちでそうしたいって思ったから、断ったんだ」
「俺には気になる人がいる、って。天宮さんにはそう言った。ごまかしじゃない。本心だ」
俺は一度言葉を切った。
そして今、この瞬間に世界で一番伝えたかった言葉を口にする。

「俺が気になってるのは、雪城冬花。お前のことなんだ」

それは、告白だった。
不器用で、回りくどくて、格好悪いかもしれない。
でも、今の俺にできる精一杯の、正直な告白。
未来とか、運命とか、そんな大きな物語じゃない。
ただ、俺、相沢優斗が今、目の前にいる雪城冬花という一人の女の子に惹かれている。
そのたった一つの、シンプルな真実。

俺の、そのあまりにも突然の告白。
それを聞いた彼女は、完全に固まっていた。
大きな瞳を、これ以上ないくらいに大きく見開いて。
そのいつも冷静な唇が、わずかに震えている。
彼女の完璧なポーカーフェイスが、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていくのを俺は見た。
その反応が答えだった。
彼女もまた、俺が自分をどう思っているのか、ずっと不安だったのだ。
未来で結ばれると知っていても。
今の俺の気持ちだけは、彼女にも分からなかったのだ。

やがて彼女の、その大きな瞳からぽろりと、また涙がこぼれ落ちた。
だが、それは夏祭りの夜の悲しい涙ではない。
天宮さんが見せた、切ない涙でもない。
ただひたすらに、嬉しくて、愛おしくてたまらないという温かい、温かい喜びの涙だった。
彼女は何も言えない。
ただ何度も、何度も、こくり、こくりと頷くだけ。
その姿を見て、俺はようやく心から安堵のため息をついた。
伝わった。
俺の本当の気持ちが、ようやく彼女に伝わったのだ。

俺はそっと手を伸ばした。
そして彼女の涙で濡れた頬を、優しく包み込む。
「だから、もう不安になるな」
俺は微笑みながら言った。
「俺が好きなのは、お前だけだ」
その言葉に、彼女はついに堪えきれなくなったように、わっと俺の胸に飛び込んできた。
俺は、その小さな体を力強く、そして優しく抱きしめ返した。
夕日が俺たち二人を、温かく包み込んでいく。

まだ、「好きだ、付き合ってくれ」とは言えていない。
俺たちはまだ、恋人同士ではないのかもしれない。
でも、俺たちの心はこの瞬間、確かに一つになった。
未来とか、過去とか、そんなものに縛られない、今の俺と彼女の、ありのままで。
自分の気持ちを、自分の言葉で伝えること。
それが俺がようやく手に入れた、彼女と向き合うための本当の覚悟だった。
文化祭の終わりは、俺たちの新しい物語の、本当の始まりを告げていた。
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