スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第3話:畑からダンジョン

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新しい朝が来た。
俺は小鳥のさえずりと共に目を覚ました。テントから這い出すと、ひんやりとした朝の空気が肌を刺す。思い切り伸びをすると、昨日の作業の疲れが嘘のように消えているのを感じた。むしろ、体が軽く、エネルギーに満ち溢れている。

「よし、やるか」

朝食もそこそこに、俺はすぐに作業に取り掛かった。昨日耕した畑の隣、まだ手つかずの荒野に向き合う。目標は、今日一日でこの土地の大半を開墾し終えることだ。

クワを握り、スキル【土いじり】を発動させる。土が俺の意志に応えるように柔らかくなり、石が浮き、雑草が枯れる。作業は昨日よりもさらにスムーズだった。まるでスキル自体が成長しているかのように、土との同調率が上がっている気がする。俺の手は止まることなく動き続け、黒々とした畑がみるみるうちに広がっていった。

太陽が中天に差し掛かる頃には、土地の半分以上が畑になっていた。
汗を拭い、一度手を止めて水分補給をする。小高い丘の上から見下ろすと、荒れ地だった場所が、整然とした畝(うね)が並ぶ農地に変わりつつあった。これだけの広さがあれば、自分一人が食べていくには十分すぎるほどの作物が採れるだろう。

「……ん?」

ふと、違和感を感じた。
今、開墾したばかりの畑の中央付近。そこに、何かが『ある』。
視覚的なものではない。【土いじり】を通して伝わってくる、土の感触の異変だ。そこだけ、土の質が違う。いや、土ではない何かが存在している。

俺は水筒を置き、違和感の元へと近づいていった。
場所は、この土地のちょうど中心。昨日、最初にクワを入れたあたりだ。
見た目は周囲と変わらない、きれいに耕された黒い土。だが、手をかざすと、微かな魔力の脈動が伝わってくる。

「これは……?」

俺は慎重に、その場所の土を手で払いのけた。
すると、土の下から現れたのは、石造りの『蓋』のようなものだった。直径一メートルほどの円形。表面には、見たこともない幾何学模様が刻まれている。植物の蔦のようにも、複雑な迷路のようにも見える意匠だ。

こんなもの、昨日ここを耕した時には絶対になかったはずだ。一晩で突然現れたとでもいうのか?

「古代の遺跡か……? いや、それにしては新しすぎる」

石の表面には苔も生えておらず、まるで作りたてのように滑らかだ。
俺は意を決して、蓋の端に手をかけ、力を込めて持ち上げてみた。
ズズズ……と重い音がして、蓋が動く。予想以上に重かったが、【土いじり】で石の周辺の土を操り、浮力を補助することで何とか脇にずらすことができた。

蓋の下には、真っ暗な闇が広がっていた。
そして、闇の中へと続く、下り階段が現れた。
冷たく湿った空気が、穴の奥から吹き上げてくる。それは、ただの地下室の空気ではない。もっと異質で、濃密な気配。

「……ダンジョン?」

冒険者として活動していれば、その気配は嫌というほど知っている。魔素が凝縮された空間特有の匂い。
まさか、こんな辺境の、しかも俺が開墾した畑のど真ん中にダンジョンが出現するなんて。

普通なら、すぐさまギルドに報告すべき事態だ。未確認のダンジョンは危険極まりない。どんな強力なモンスターが潜んでいるか分からないからだ。
だが、俺はすでにギルドを離れた身。それに、この土地は俺の私有地だ。報告すれば、ギルドの調査隊が乗り込んできて、せっかく手に入れた静かな生活が台無しになることは目に見えている。

「……見てみるか」

好奇心と、自分の土地で起きていることへの責任感が、恐怖を上回った。
俺は腰のショートソードを確認し、左手に松明代わりの魔光石(これも野営用に持っていたものだ)を持つと、恐る恐る階段へと足をかけた。

一段、また一段と降りていく。階段はきれいに切り出された石で作られており、埃一つない。壁も同じ素材でできていて、一定間隔でぼんやりと光る苔のようなものが生えている。おかげで魔光石がなくても足元は確認できた。

階段はそれほど長くはなかった。二十段ほど降りると、平坦な通路に出た。
そこは、もはやただの地下空間ではなかった。

「な、なんだここは……」

俺は息を呑んだ。
通路の先には、広大な空間が広がっていた。天井は遥か高く、見上げても闇に溶けて見えない。そして、何より驚くべきは、その光景だ。

そこには、青々とした草原が広がっていたのだ。

地下なのに、まるで地上のような明るさがある。光源は見当たらないが、空間全体が柔らかな光で満たされている。足元には柔らかそうな草が一面に生い茂り、ところどころに色とりどりの花が咲いている。さらさらと心地よい風さえ吹いている。

「まるで……楽園じゃないか」

ダンジョンといえば、薄暗く湿っぽく、危険な魔物が徘徊する場所というのが常識だ。「竜の牙」時代に潜ったダンジョンはすべてそうだった。だが、ここは違う。危険な気配は全く感じられない。むしろ、この場にいるだけで心が安らぎ、体力が回復していくような感覚すらある。

俺は草原に一歩踏み出した。
土の感触を確かめる。地上よりもさらに肥沃で、生命力に満ちた土壌だ。
ここでなら、どんな作物でも恐ろしいほどよく育つだろう。直感的にそう感じた。

と、その時。
足元に見慣れない植物が生えているのに気づいた。
エメラルドグリーンの葉を持ち、先端に小さな赤い実をつけている。見た目は薬草のようだが、今まで図鑑で見たどの種類とも一致しない。

俺は何気なく、その植物に手を触れた。
その瞬間、頭の中に不思議な情報が流れ込んできた。

【ポーション草(下級):鑑定結果】
【効果:葉をすり潰すと、傷や疲労を癒やす液体になる。即効性あり。】
【状態:収穫可能。良質。】

「……鑑定?」

俺は驚いた。俺のスキルは【土いじり】だ。鑑定スキルなど持っていないはずだ。
だが、この植物の情報が、まるで自分の知識のように頭に浮かび上がってきたのだ。

もう一度、別の草に触れてみる。

【雑草(ダンジョン産):鑑定結果】
【効果:特になし。家畜の餌にはなる。】
【状態:繁茂。】

やはり情報が表示される。どうやら、この空間内にある植物に限り、その性質を理解できる能力が発現しているようだ。これも【土いじり】の、あるいはこのダンジョンの特性なのだろうか。

俺は先ほどの『ポーション草』を数本引き抜いてみた。抵抗なくスポンと抜ける。
試しに葉を一枚ちぎり、手のひらですり潰してみる。すると、葉から鮮やかな緑色の液体が染み出してきた。爽やかな香りが鼻をくすぐる。

ちょうど指先に、昨日の開墾作業でできた小さな切り傷があった。そこに液体を塗ってみる。
「……!」
塗った瞬間、ピリッとした軽い痛みが走り、その直後に傷口が塞がっていった。痛みも消え、跡形もなくなっている。
「すごい……。市販のポーションより、ずっと効き目が早いぞ」

冒険者ギルドで売られている安物のポーションは、傷を塞ぐのに数分はかかるし、独特の苦味と臭みがある。だが、これは一瞬だ。しかも香りもいい。

「これが、このダンジョンの恵み……」

俺はポーション草を見つめた。
もし、これが大量に手に入るとしたら? これを育てることができたら?
俺の頭の中で、静かな生活の計画が、大きく書き換わろうとしていた。

ただの農業だけじゃない。この不思議なダンジョンを利用すれば、もっと何かすごいことができるかもしれない。

俺はポーション草を大事に腰の袋にしまい、さらに奥へと進んでいった。この『第一階層』の探索は、まだ始まったばかりだ。不安よりも、これから何が見つかるのかという期待の方が、遥かに大きくなっていた。

追放された俺の前に現れた、未知の可能性。
俺の農園生活は、予想もしない方向へと転がり始めていた。
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