スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第2話:辺境での再出発

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「竜の牙」を追放されてから数日。俺は乗り合い馬車の荷台に揺られながら王都へと戻ってきた。城壁が見えてくると、街の喧騒が徐々に大きくなる。活気があるといえば聞こえはいいが、今の俺にはその喧騒がひどく耳障りだった。

冒険者ギルドに顔を出せば、誰かが俺の追放について何か噂しているかもしれない。「アルフォンスは役立たずだった」「聖女様を怒らせたらしい」そんな根も葉もない噂が飛び交っているのだろう。想像しただけでうんざりした。

俺はギルドには目もくれず、商業区の一角にある不動産屋の扉を叩いた。
「いらっしゃいませ。お部屋探しですか?」
人の良さそうな店主が笑顔で迎えてくれる。俺はフードを目深にかぶり直し、低い声で用件を告げた。

「土地を探しています。王都からできるだけ遠くて、誰も住んでいないような場所がいい。あと、安い土地を」
俺の奇妙な要望に、店主は少し眉をひそめた。冒険者風情の若者が、辺境の土地を欲しがるなど普通ではないのだろう。
「はあ……ずいぶんと変わったご希望で。農業でも始められるんですかい?」
「まあ、そんなところです」

俺が曖昧に答えると、店主は諦めたように分厚い台帳をめくり始めた。
「王都から遠くて安い土地ねえ……。ああ、ここなら一つありますな」
店主が指差した羊皮紙には、見慣れない地名と大雑把な地図が描かれていた。

「『竜の顎門(りゅうのあぎと)』と呼ばれる地域です。王都から馬車で五日、そこからさらに丸一日歩いた先にある渓谷地帯でしてね。昔は砦があったそうですが、今はもう誰も住んでいません」
「どうして誰も?」
「土地が痩せているのと、少し先に『嘆きの森』っていう魔物の巣窟がありましてね。好き好んで住む人間はいないんですよ。おかげで土地の値段は破格ですが」

土地が痩せている。魔物の森が近い。普通なら誰もが敬遠する条件だ。だが、今の俺にはむしろ好都合だった。人が寄り付かないからこそ、静かに暮らせる。土地が痩せているという点も、【土いじり】のスキルがあれば何とかなるかもしれない。

「そこにします。その土地をください」
俺の即決に、店主は驚いた顔をしたが、すぐに商売用の笑顔に戻った。
「毎度あり。ではこちらにサインを」

なけなしの金貨と銀貨を支払い、俺は一枚の権利書を手に入れた。薄っぺらい羊皮紙。だが、これがあの広大な土地が自分のものだと証明してくれる唯一の証だ。ずしりとした重みを感じた。

その日のうちに王都を出発し、俺は再び乗り合い馬車に乗った。今度の行き先は、辺境の街「テルマ」。竜の顎門に最も近い街だ。

馬車に揺られること五日。王都のきらびやかな石造りの街並みは、いつしか素朴なレンガと木の家々に変わっていた。テルマの街は、王都に比べればずいぶんと小さい。だが、市場には新鮮な野菜や活きのいい魚が並び、道行く人々の表情もどこかのんびりしているように見えた。俺はここで、これからの生活に必要なものを買い揃えることにした。

頑丈なクワとシャベル。当面の食料となる干し肉と黒パン。種芋と、いくつかの野菜の種。そして、夜露をしのぐための寝袋と小さな鍋。荷物はあっという間に膨れ上がったが、その一つ一つがこれからの生活を支えてくれる相棒だと思うと、不思議と重さは感じなかった。

「兄ちゃん、見ない顔だね。旅人かい?」
農具店の親父が、俺の背負った荷物を見て話しかけてきた。
「ええ、まあ。少し先の土地で暮らそうかと」
「ほう、この先に。竜の顎門かい?」
「よく分かりましたね」
「この先に土地なんて、そこくらいしかないからな。物好きな人もいたもんだ。まあ、頑張りなよ。何か困ったことがあったら、いつでも来な」
親父はそう言うと、おまけだと言って小さな砥石を袋に突っ込んでくれた。王都の人間とは違う、素朴な優しさが少しだけ心に染みた。

翌朝、俺はテルマの街を後にして、自分の土地へと向かった。
地図を頼りに、舗装もされていない獣道を進む。鳥のさえずりと風が木々の葉を揺らす音だけが聞こえる。誰の目も、誰の声も気にしなくていい。その事実が、こんなにも心を軽くしてくれるとは思わなかった。

歩き続けて半日。視界が開け、だだっ広い荒れ地が目の前に現れた。
ここが、俺の土地。俺の城だ。

広さはざっと東京ドーム一個分くらいだろうか。しかし、そのほとんどが腰の高さまである雑草に覆われ、大小様々な石がそこら中に転がっていた。土は乾いてひび割れ、お世辞にも作物が育つようには見えない。まさに、誰も見向きもしない荒れ地。

だが、俺は失望しなかった。むしろ、胸が高鳴っていた。
靴を脱ぎ、裸足で大地に立つ。そして、ゆっくりと地面に手のひらをつけた。

スキル【土いじり】発動。

温かい何かが、手のひらから体の中を駆け巡る。大地の声が聞こえるような感覚。この土地は、ただ痩せているわけじゃない。長い間人の手が加わらず、深く眠っているだけだ。地中深くには、豊かな養分と清らかな水脈が流れている。

「ここなら、やれる」

俺は確信した。
まずは拠点の確保だ。少し小高い丘の上に荷物を置き、寝床となるテントを設営する。次に、焚き火の場所を確保し、近くの小川で水を汲んできた。生活の基盤が整うと、いよいよ今日の主目的である開墾作業に取り掛かった。

俺は買ってきたばかりのクワを握りしめ、畑にしようと決めた一角に立つ。
「ふぅ……」
一つ深呼吸をして、スキルに意識を集中した。

『土よ、柔らかくなれ』

クワを振り下ろす。ズブリ、と小気味よい音がして、刃が深く土に食い込んだ。まるでバターを切るかのように、抵抗なく土が掘り起こされる。これまでパーティの野営地設営で使っていた時は、こんなに滑らかではなかった。あの時は、無意識に力をセーブしていたのかもしれない。だが、今は違う。自分のためだけに、この力を使うことができる。

次に、地面にゴロゴロしている石に手を触れる。
『浮き上がれ』
念じると、俺の腰ほどもある巨大な岩が、ふわりと地面から数センチ浮き上がった。まるで重さがないかのように、軽々と脇にどかすことができる。これも【土いじり】の応用だ。

さらに、雑草が生い茂る地面に手をかざす。
『根よ、枯れろ』
すると、あれほどしぶとく生えていた雑草たちが、根から水分を失って萎れていく。あとは手で軽く引き抜くだけで、面白いように除去できた。

常人なら何日、いや、何週間とかかるであろう作業が、驚異的な速度で進んでいく。
夢中だった。ガイウスに罵倒されたことも、セレスティアに蔑まれたことも、今はもうどうでもよかった。ただひたすらに、土と向き合う時間が楽しかった。自分の力が、目に見える形で荒れ地を豊かな畑に変えていく。その過程が、たまらなく嬉しかった。

日が傾き、空が茜色に染まる頃には、俺の目の前には二十メートル四方ほどの、見事な畑が広がっていた。石ころ一つない、黒々とした土。まるで長年手入れされてきたかのような、生命力に満ちた大地だ。

俺はその場に大の字になって寝転んだ。ひんやりとした土の匂いが心地いい。
焚き火に鍋をかけ、干し肉と街で買ってきた野菜を放り込んで簡単なスープを作る。パーティにいた頃に作っていたものよりずっと質素だが、味は格別に感じられた。

自分が耕した畑を眺めながら、スープをすする。
理不尽な追放だった。悔しい思いもした。だが、そのおかげで俺は、この場所にたどり着くことができた。自分の力だけで生きていく自由を手に入れたのだ。

「明日には、この一帯を全部耕し終えられそうだ」

誰に言うでもなく呟く。夜の帳が下り、空には満天の星が輝いていた。
静かな夜。ここには俺と、この大地しかない。
途方もない満足感と、明日への期待に胸を膨らませながら、俺はゆっくりと目を閉じた。新しい人生の、確かな一歩を踏み出した夜だった。
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