スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

文字の大きさ
4 / 95

第4話:第一階層・恵みの草原

しおりを挟む
指先の傷を一瞬で癒やした緑色の液体。俺は、手のひらに残ったポーション草の香りを嗅いだ。爽やかで、どこか甘い香り。これが、この不思議な地下空間で最初に見つけた宝物だった。

「すごいな……本当に」

独り言が、静かな草原に吸い込まれていく。
ここは間違いなくダンジョンだ。だが、俺が知っているどのダンジョンとも違う。危険なモンスターの気配はなく、ただ穏やかで清浄な空気が満ちている。まるで、世界から切り離された楽園のようだった。

俺はもっとこの場所を知りたくなった。ショートソードの柄を握り直し、ゆっくりと草原を歩き始める。
足元の草は、踏みしめてもすぐに起き上がるほどの生命力を持っていた。少し歩くと、キラキラと輝く小さな小川が流れているのを見つけた。水は驚くほど透明で、川底の白い砂利まではっきりと見える。

屈んで水をすくってみる。冷たくて、口に含むと微かな甘みを感じた。
その瞬間、またしても頭の中に情報が流れ込んできた。

【マナウォーター:鑑定結果】
【効果:生命力を活性化させ、魔力をわずかに回復させる清浄な水。植物の成長を著しく促進する。】
【状態:極めて良質。飲用可能。】

「マナウォーター……」

なるほど。この草原の植物がこれほど瑞々しく育っているのは、この水のおかげらしい。ただの水ではない。魔力を含んだ特別な水だ。これを地上の畑に撒いたらどうなるだろうか。想像しただけで、期待に胸が膨らんだ。

小川に沿ってさらに進むと、少し開けた場所に様々な植物が群生しているのを発見した。そのどれもが、地上では見たことのないものばかりだ。俺は一つ一つに触れ、鑑定能力でその正体を確認していく。

【スタミナベリー:鑑定結果】
【効果:摂取すると疲労が回復し、活力が湧き上がる。甘酸っぱく美味。】
【状態:完熟。収穫可能。】

小指の先ほどの大きさの、真っ赤な実。試しに一粒口に放り込んでみると、ベリー特有の甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。そして、数秒もしないうちに、歩き回っていた疲れがすっと引いていくのを感じた。体が軽くなり、力がみなぎってくる。これはすごい。冒険者が携帯するレーション(非常食)とは比べ物にならない。

【グロウマッシュルーム:鑑定結果】
【効果:非常に栄養価が高く、濃厚な旨味を持つキノコ。あらゆる料理に適する。】
【状態:成長中。あと半日で収穫可能。】

傘が手のひらほどもある、立派なキノコ。鑑定結果によればまだ収穫には早かったが、その芳醇な香りは隠しきれていなかった。これを使えば、さぞ美味いスープが作れるだろう。

次から次へと見つかる有用な植物たち。
ここは、まるで宝の山だ。いや、宝を生み出し続ける魔法の畑そのものだ。

俺は夢中で収穫した。ポーション草を数十本。スタミナベリーを一袋分。幸い、少し成長したグロウマッシュルームもいくつか見つかったので、それも採取する。腰の袋はあっという間にパンパンになった。

一通り探索を終え、俺は最初の階段の場所まで戻ってきた。
この第一階層は、見渡す限り穏やかな草原と小さな森、そして清らかな小川が流れる空間のようだ。広さは、地上で俺が開墾した畑の二倍くらいだろうか。一人で管理するには広すぎるほどだ。

しかし、なぜこんな場所が俺の畑の下に?
俺は自分の手のひらを見つめた。スキル【土いじり】。
このダンジョンにいると、スキルとの結びつきがより強固になっている気がする。鑑定能力が使えたのも、マナウォーターや植物たちが俺の呼びかけに応えるように情報を開示してくれたのも、全て【土いじり】がこの空間と共鳴しているからではないだろうか。

もしかしたら、このダンジョンは俺のスキルによって『生まれた』のかもしれない。荒れ地を開墾したあの時、俺のスキルがこの土地の深くに眠っていた何らかの力を呼び覚ましてしまった……。
考えすぎかもしれない。だが、そうとしか思えなかった。

「……そろそろ地上に戻るか」

名残惜しいが、長居は禁物だ。ダンジョンの中は時間の感覚が狂いやすい。何時間もいたつもりで、地上では数日経っていた、なんて話もよく聞く。
俺は収穫物で膨らんだ袋をしっかりと背負い、石の階段を上った。

蓋を押し開け、外に出る。
眩しい光に一瞬目がくらんだが、すぐに慣れた。
太陽の位置を確認する。まだ真上だ。俺がダンジョンに入ったのは朝の作業が終わった直後だったから、体感では二、三時間ほど探索していたつもりだったが、地上では三十分も経っていなかったらしい。

このダンジョンは、地上と時間の流れが違う。それも、中の方がずっと速く進むようだ。
これは、とんでもない発見だった。
つまり、ダンジョンの中で一日かけて作物を育てても、地上ではほんの数時間しか経過しないということだ。作物の高速栽培が可能になる。

「はは……なんだか、すごすぎて笑えてくるな」

俺は乾いた笑いを漏らした。
追放された時は絶望の淵にいたはずなのに、今ではとてつもない可能性を手にしている。人生とは分からないものだ。

俺は小高い丘の上の拠点に戻ると、早速夕食の準備に取り掛かった。
今日のメニューは、ダンジョンから持ち帰ったばかりのグロウマッシュルームを使ったスープだ。鍋に小川で汲んできたマナウォーターを注ぎ、火にかける。そこに干し肉と、手で裂いたグロウマッシュルームを入れた。

ぐつぐつと煮えてくると、信じられないほど豊かで香ばしい香りが立ち上ってきた。思わずごくりと喉が鳴る。
塩で軽く味を調え、木の器によそって一口すする。

「……美味い!」

思わず声が出た。
なんだこの味は。濃厚なキノコの旨味が舌の上でとろける。干し肉の塩気と合わさり、今まで食べたどんな高級料理よりも深く、滋味深い味わいを生み出していた。マナウォーターを使ったせいか、体の中からじんわりと温まり、力が回復していくのが分かる。

夢中でスープを飲み干し、俺は満足のため息をついた。
食料は、もはや心配する必要はないだろう。スタミナベリーもある。回復薬になるポーション草もある。生活の基盤は、たった一日で盤石なものになった。

日が沈み、空が星々で埋め尽くされる。
俺は焚き火の炎を見つめながら、これからの計画を練っていた。

まず、ポーション草を安定して供給できるようにしたい。そのためには、ダンジョン内で栽培するのが一番だろう。第一階層の肥沃な土とマナウォーターを使えば、きっとすぐに増えるはずだ。
次に、このダンジョンのさらなる探索。まだ見ぬ植物や、鉱石のような資源が見つかるかもしれない。もしかしたら、下の階層へ続く道もあるかもしれない。

そして、このダンジョンの秘密を解き明かすこと。なぜ生まれたのか、俺のスキルとどう関係しているのか。それを知ることは、俺自身の力を知ることに繋がるはずだ。

追放された時は、ただ静かに、目立たずに暮らしていければいいと思っていた。
だが、今は違う。
この手にある力を、試してみたい。この農園とダンジョンを、最高の楽園に育て上げてみたい。

「新しい始まりだ」

俺は立ち上がると、昼間に汲んできたマナウォーターの残りを水差しに入れ、地上の畑へと向かった。
昨日耕したばかりの黒い土。そこに、種芋を植えるために掘った溝があった。
俺は祈るように、その溝にマナウォーターをゆっくりと注いだ。

水が土に染み込んでいく。
その瞬間、土が本当に、一瞬だけ淡い光を放ったように見えた。

気のせいかもしれない。
だが、俺の心には確かな手応えが残っていた。
明日、この畑がどうなっているか。それを確かめるのが楽しみで仕方がなかった。
俺は希望に満ちた心で、自分の寝床へと戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

『ゴミ掃除』が役立たずと追放されたが、実は『存在抹消』級のチートだった。勇者一行がゴミで溺れているが、俺は辺境で美少女と温泉宿を経営中なので

eringi
ファンタジー
「悪いが、お前のスキル『ゴミ掃除』は魔王討伐の役には立たない。クビだ」 勇者パーティの雑用係だったアレクは、戦闘の役に立たないという理由で、ダンジョンの最深部手前で追放されてしまう。 しかし、勇者たちは気づいていなかった。 彼らの装備が常に新品同様だったのも、野営地が快適だったのも、襲い来る高レベルモンスターの死体が跡形もなく消えていたのも、すべてアレクが『掃除』していたからだということに。 アレクのスキルは単なる掃除ではない。対象を空間ごと削り取る『存在抹消』レベルの規格外チートだったのだ。 一人になったアレクは、気ままに生こうと辺境の廃村にたどり着く。 そこでボロボロになっていた伝説のフェンリル(美少女化)を『洗浄』して懐かれたり、呪われたエルフの姫君を『シミ抜き』して救ったりしているうちに、いつの間にかそこは世界最高峰の温泉宿になっていて……? 一方、アレクを失った勇者パーティは、武器は錆びつき、悪臭にまみれ、雑魚モンスターの処理すら追いつかず破滅の一途をたどっていた。 「今さら戻ってきてくれと言われても、俺はお客さん(美少女)の背中を流すのに忙しいんで」 これは、掃除屋の少年が無自覚に最強の座に君臨し、幸せなスローライフを送る物語。

借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~

わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」 現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。 渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。 私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル! 「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」 提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。 家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。 裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。 錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。 主人公無双×のんびり錬金スローライフ!

72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める

月神世一
ファンタジー
「剣? 魔法? いいえ、俺の武器は『鈍器になるノートPC』と『時速160kmの剛速球』です」 ​あらすじ ブラックコンビニで72時間連続勤務の末、過労死した元甲子園優勝投手・赤木大地。 目覚めた彼を待っていたのは、コタツでソシャゲ三昧のダメ女神・ルチアナだった。 ​「手違いで死なせちゃった☆ 詫び石代わりにこれあげる」 ​渡されたのは、地球のAmazonもGoogleも使える『絶対破壊不能』のノートPC。 ただし、購入レートは定価の10倍という超ボッタクリ仕様!? ​「ふざけんな! 俺は静かに暮らしたいんだよ!」 ​ブラック労働はもうこりごり。大地は異世界の緩衝地帯「ポポロ村」で、地球の物資とコンビニ知識、そして「うなる右腕(ジャイロボール)」を武器に、悠々自適なスローライフを目指す! ​……はずが、可愛い月兎族の村長を助けたり、腹ペコのエルフ王女を餌付けしたり、気づけば村の英雄に!? ​元球児が投げる「紅蓮の魔球」が唸り、女神の「ボッタクリ通販」が世界を変える! 異世界コンビニ・コメディ、開店ガラガラ!

​『追放された底辺付与術師、実は【全自動化】のチートスキル持ちでした〜ブラックギルドを追い出されたので、辺境で商会を立ち上げたら勝手に世界規

NagiKurou
ファンタジー
​「お前のような、一日中デスクに座って何もしない無能はクビだ!」 国内最大のギルド『栄光の剣』で、底辺の付与術師として働いていたアルスは、ある日突然、強欲なギルドマスターから追放を言い渡される。 しかし、彼らは知らなかった。ギルドの武器の自動修復、物流の最適化、資金管理に至るまで、すべてアルスの固有スキル【全自動化(ワークフロー構築)】によって完璧にシステム化され、回っていたことを。 「俺がいなくなったら、あの自動化システム、全部止まるけど……まあいいか」 管理権限を解除し、辺境へと旅立ったアルス。彼は自身のスキルを使って、圧倒的な耐久力を誇る銀色の四輪型重装ゴーレムを作り出し、気ままな行商を始める。 一度構築すれば無限に富を生み出す「全自動」のチートスキルで、アルスの商会は瞬く間に世界規模へとスケールしていく! 一方、すべてを失ったギルドは、生産ラインが崩壊し、絶望のどん底へと突き落とされていくのだった……。

「雑草係」と追放された俺、スキル『草むしり』でドラゴンも魔王も引っこ抜く~極めた園芸スキルは、世界樹すら苗木扱いする神の力でした~

eringi
ファンタジー
「たかが雑草を抜くだけのスキルなんて、勇者パーティには不要だ!」 王立アカデミーを首席で卒業したものの、発現したスキルが『草むしり』だった少年・ノエル。 彼は幼馴染の勇者に見下され、パーティから追放されてしまう。 失意のノエルは、人里離れた「魔の森」で静かに暮らすことを決意する。 しかし彼は知らなかった。彼のスキル『草むしり』は、対象を「不要な雑草」と認識すれば、たとえドラゴンであろうと古代兵器であろうと、根こそぎ引っこ抜いて消滅させる即死チートだったのだ。 「あれ? この森の雑草、ずいぶん頑丈だな(ドラゴンを引っこ抜きながら)」 ノエルが庭の手入れをするだけで、Sランク魔物が次々と「除草」され、やがて森は伝説の聖域へと生まれ変わっていく。 その実力に惹かれ、森の精霊(美女)や、亡国の女騎士、魔王の娘までもが彼の「庭」に集まり、いつしかハーレム状態に。 一方、ノエルを追放した勇者たちは、ダンジョンの茨や毒草の処理ができずに進行不能となり、さらにはノエルが密かに「除草」していた強力な魔物たちに囲まれ、絶望の淵に立たされていた。 「ノエル! 戻ってきてくれ!」 「いや、いま家庭菜園が忙しいんで」 これは、ただ庭いじりをしているだけの少年が、無自覚に世界最強に至る物語。

処理中です...