スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

文字の大きさ
16 / 75

第16話:革新的な農具

しおりを挟む
リズベットが仲間になってから、俺の農園はさらに活気づいた。
早朝から彼女の工房からは、カン、カン、とリズミカルな槌音と、炉の火がごうごうと燃える音が聞こえてくる。それは、この農園に新たな生命が吹き込まれたことを示す、力強い心音のようだった。

彼女はまず、俺たちが使っていた農具をすべて打ち直すと言い出した。
「お頭たちが使ってるこいつらは、街で売ってるただの量産品だ。素材も焼き入れもなってねえ。こんなもんじゃ、この神聖な大地を耕すには失礼ってもんよ」
リズベットはそう言うと、俺の鋼鉄製のクワをひょいと取り上げ、炉の中に放り込んだ。赤々と燃える炎が、クワを飲み込んでいく。

「何をするんだ! それ、この前買ったばかりの……」
「黙って見てな。アタシの手にかかれば、こいつが国宝級の逸品に生まれ変わるぜ」
リズベットは自信満々に言うと、赤熱したクワを金床の上に取り出し、巨大なハンマーを振り下ろし始めた。

カン! カン! カン!

火花が飛び散り、甲高い金属音が工房に響き渡る。
彼女の動きには一切の無駄がなかった。ハンマーを振り下ろす角度、力加減、金属を冷やすタイミング。そのすべてが、長年の経験によって培われた職人技そのものだ。俺とシルフィは、その力強くも美しい光景に、ただただ見入っていた。

数時間後。
「……できたぜ」
汗だくのリズベットが、満足そうな笑みを浮かべて差し出したのは、一本のクワだった。
それは、俺が最初に渡したものと、もはや別物としか言いようがない代物だった。

刃の部分は、まるで黒曜石のように深く、鈍い輝きを放っている。何度も叩かれ、鍛え上げられた鋼は、明らかに密度が増していた。全体のフォルムも、力学的に計算されたかのように洗練されており、ただの農具とは思えないほどの機能美を宿している。

「こいつは『黒鋼(くろがね)のクワ』とでも名付けるか。ほら、持ってみな」
リズベットに促され、俺は恐る恐るそのクワを手に取った。
「……軽い!」
思わず声が出た。見た目の重厚さとは裏腹に、驚くほど軽い。重心のバランスが完璧で、まるで自分の腕の一部になったかのようにしっくりと馴染む。

「農具ってのはな、ただ硬けりゃいいってもんじゃねえ。使い手が一日中振るっても疲れねえように、バランスが一番大事なんだ」
リズベットは得意げに胸を張る。
俺は逸る気持ちを抑えきれず、すぐに畑へと向かった。そして、まだ手つかずだった硬い地面に、新しいクワを振り下ろしてみた。

サクッ!

信じられないほど軽い手応え。
まるで、柔らかな豆腐でも切るかのように、クワの刃が抵抗なく地面に吸い込まれていった。俺はこれまで、【土いじり】のスキルで地面を柔らかくしてからでないと、ここまでスムーズに耕すことはできなかった。だが、このクワは、スキルを使わずとも、硬い大地をいともたやすく切り開いていく。

「す……すごい……」
俺は夢中でクワを振るった。面白いように土が掘り起こされ、畝ができていく。これまで半日かかっていた作業が、一時間もかからずに終わりそうだ。疲労感も全くない。

「どうだい、お頭。アタシの腕は」
いつの間にか隣に来ていたリズベットが、ニヤリと笑う。
「すごい……すごすぎるぞ、リズベット! これさえあれば、この土地を全部耕し尽くすのも夢じゃない!」
俺が手放しで絶賛すると、彼女は照れくさそうに頭をかいた。職人は、自分の仕事が認められるのが一番嬉しいのだろう。

勢いに乗ったリズベットは、その後、シャベルや鎌、斧といった農具を次々と打ち直してくれた。どれもこれも、元の物とは比べ物にならない、魔法のような切れ味と使いやすさを誇っていた。
俺の農園の開墾速度は、彼女の加入によって劇的に向上した。

そして、リズベットがここにきて一週間が経った頃。
彼女は、ついに『あれ』に手を出すことを決めた。

「お頭。そろそろ、あの『大根』を料理してみようと思う」
工房に呼ばれた俺の目の前で、リズベットは隠してあったミスリル大根を金床の上に置いた。その瞳は、これまで以上に真剣な光を宿している。
「本当に加工できるのか? あれは、このクワでも傷一つつけられなかったんだぞ」
「普通のやり方じゃ無理だろうな。だが、アタシに一つ、試してみたいことがある」

彼女はそう言うと、工房の奥から小さな革袋を取り出してきた。中から現れたのは、赤黒い砂鉄のような粉末だ。
「こいつは、火竜の鱗を削った粉だ。ドワーフの国でも門外不出の秘伝でな。こいつを燃料に混ぜて炉の温度を極限まで高めれば、あるいは……」

リズベットは慎重な手つきで、火竜の粉を炉に投入した。
ゴオオオオッ!
炉の火が、一瞬で青白い炎に変わった。工房内の温度が急激に上昇し、肌が焼けるように熱い。
彼女はその中に、ミスリル大根を放り込んだ。

俺たちは固唾を飲んで、炉の中を見守った。
一時間、二時間……。時間が経つのも忘れ、ただひたすらに。
そして、ついにその時が来た。

「……溶けた」

リズベットの呟き。
炉の中のミスリル大根が、その形を失い、ゆっくりと銀色の液体へと変わっていくのが見えた。まるで、月の光を溶かしたかのような、幻想的で美しい光景だった。

「やった……やったぞおおおお!」
リズベットが、子供のようにはしゃいで拳を突き上げた。
彼女は慎重に、溶けたミスリルを鋳型へと流し込んでいく。ジュウッという音と共に、白い湯気が立ち上った。

それからさらに数時間。
冷却と焼き入れ、そして無数の槌打ちを経て、一本のインゴット(金属塊)が完成した。
それは、これまでに見たどんな金属とも違う、神々しいまでの輝きを放っていた。軽く、硬く、そして魔力を帯びている。

「こいつで、まずはお頭専用の『万能農具』を打ってやる。最高の使い手には、最高の道具が必要だからな」
リズベットは、完成したばかりのミスリルインゴットを愛おしそうに撫でながら、そう宣言した。

俺のスキル【土いじり】と、リズベットの鍛冶の技術。
そして、このダンジョンが生み出す規格外の素材。
この三つが合わさった時、俺たちの農園は、ただの食料生産地ではない、何かとてつもないものを生み出す場所へと進化を遂げようとしていた。

リズベットが工房で槌を振るう音を聞きながら、俺は自分の農園の未来に、胸の高鳴りを禁じ得なかった。
この場所でなら、何でもできる。どんな夢でも、叶えられる。
そんな確信が、俺の心の中に芽生え始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱スキル《リサイクル》で世界を覆す ~クラス追放された俺は仲間と共に成り上がる~

KABU.
ファンタジー
平凡な高校生・篠原蓮は、クラスメイトと共に突如異世界へ召喚される。 女神から与えられた使命は「魔王討伐」。 しかし、蓮に与えられたスキルは――《リサイクル》。 戦闘にも回復にも使えない「ゴミスキル」と嘲笑され、勇者候補であるクラスメイトから追放されてしまう。 だが《リサイクル》には、誰も知らない世界の理を覆す秘密が隠されていた……。 獣人、エルフ、精霊など異種族の仲間を集め、蓮は虐げられた者たちと共に逆襲を開始する。

勇者パーティを追放された地味な器用貧乏は、 魔王軍の女騎士とスローライフを送る

ちくわ食べます
ファンタジー
勇者パーティから「地味、英雄譚の汚点」と揶揄され追放された器用貧乏な裏方の僕。 帰る場所もなく死の森を彷徨っていたところ、偶然にも重傷を負った魔王軍四天王で最強の女騎士「黒鉄剣のリューシア」と遭遇する。 敵同士のはずなのに、なぜか彼女を放っておけなくて。治療し、世話をし、一緒に暮らすことになった僕。 これは追放された男と、敗北を重ね居場所を失った女の物語。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~

わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」 現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。 渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。 私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル! 「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」 提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。 家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。 裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。 錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。 主人公無双×のんびり錬金スローライフ!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
*読者のみなさま  この作品をお読みいただきありがとうございました。こちらの作品は1月10日12時をもって非公開とさせていただきます。 『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

処理中です...