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第16話:革新的な農具
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リズベットが仲間になってから、俺の農園はさらに活気づいた。
早朝から彼女の工房からは、カン、カン、とリズミカルな槌音と、炉の火がごうごうと燃える音が聞こえてくる。それは、この農園に新たな生命が吹き込まれたことを示す、力強い心音のようだった。
彼女はまず、俺たちが使っていた農具をすべて打ち直すと言い出した。
「お頭たちが使ってるこいつらは、街で売ってるただの量産品だ。素材も焼き入れもなってねえ。こんなもんじゃ、この神聖な大地を耕すには失礼ってもんよ」
リズベットはそう言うと、俺の鋼鉄製のクワをひょいと取り上げ、炉の中に放り込んだ。赤々と燃える炎が、クワを飲み込んでいく。
「何をするんだ! それ、この前買ったばかりの……」
「黙って見てな。アタシの手にかかれば、こいつが国宝級の逸品に生まれ変わるぜ」
リズベットは自信満々に言うと、赤熱したクワを金床の上に取り出し、巨大なハンマーを振り下ろし始めた。
カン! カン! カン!
火花が飛び散り、甲高い金属音が工房に響き渡る。
彼女の動きには一切の無駄がなかった。ハンマーを振り下ろす角度、力加減、金属を冷やすタイミング。そのすべてが、長年の経験によって培われた職人技そのものだ。俺とシルフィは、その力強くも美しい光景に、ただただ見入っていた。
数時間後。
「……できたぜ」
汗だくのリズベットが、満足そうな笑みを浮かべて差し出したのは、一本のクワだった。
それは、俺が最初に渡したものと、もはや別物としか言いようがない代物だった。
刃の部分は、まるで黒曜石のように深く、鈍い輝きを放っている。何度も叩かれ、鍛え上げられた鋼は、明らかに密度が増していた。全体のフォルムも、力学的に計算されたかのように洗練されており、ただの農具とは思えないほどの機能美を宿している。
「こいつは『黒鋼(くろがね)のクワ』とでも名付けるか。ほら、持ってみな」
リズベットに促され、俺は恐る恐るそのクワを手に取った。
「……軽い!」
思わず声が出た。見た目の重厚さとは裏腹に、驚くほど軽い。重心のバランスが完璧で、まるで自分の腕の一部になったかのようにしっくりと馴染む。
「農具ってのはな、ただ硬けりゃいいってもんじゃねえ。使い手が一日中振るっても疲れねえように、バランスが一番大事なんだ」
リズベットは得意げに胸を張る。
俺は逸る気持ちを抑えきれず、すぐに畑へと向かった。そして、まだ手つかずだった硬い地面に、新しいクワを振り下ろしてみた。
サクッ!
信じられないほど軽い手応え。
まるで、柔らかな豆腐でも切るかのように、クワの刃が抵抗なく地面に吸い込まれていった。俺はこれまで、【土いじり】のスキルで地面を柔らかくしてからでないと、ここまでスムーズに耕すことはできなかった。だが、このクワは、スキルを使わずとも、硬い大地をいともたやすく切り開いていく。
「す……すごい……」
俺は夢中でクワを振るった。面白いように土が掘り起こされ、畝ができていく。これまで半日かかっていた作業が、一時間もかからずに終わりそうだ。疲労感も全くない。
「どうだい、お頭。アタシの腕は」
いつの間にか隣に来ていたリズベットが、ニヤリと笑う。
「すごい……すごすぎるぞ、リズベット! これさえあれば、この土地を全部耕し尽くすのも夢じゃない!」
俺が手放しで絶賛すると、彼女は照れくさそうに頭をかいた。職人は、自分の仕事が認められるのが一番嬉しいのだろう。
勢いに乗ったリズベットは、その後、シャベルや鎌、斧といった農具を次々と打ち直してくれた。どれもこれも、元の物とは比べ物にならない、魔法のような切れ味と使いやすさを誇っていた。
俺の農園の開墾速度は、彼女の加入によって劇的に向上した。
そして、リズベットがここにきて一週間が経った頃。
彼女は、ついに『あれ』に手を出すことを決めた。
「お頭。そろそろ、あの『大根』を料理してみようと思う」
工房に呼ばれた俺の目の前で、リズベットは隠してあったミスリル大根を金床の上に置いた。その瞳は、これまで以上に真剣な光を宿している。
「本当に加工できるのか? あれは、このクワでも傷一つつけられなかったんだぞ」
「普通のやり方じゃ無理だろうな。だが、アタシに一つ、試してみたいことがある」
彼女はそう言うと、工房の奥から小さな革袋を取り出してきた。中から現れたのは、赤黒い砂鉄のような粉末だ。
「こいつは、火竜の鱗を削った粉だ。ドワーフの国でも門外不出の秘伝でな。こいつを燃料に混ぜて炉の温度を極限まで高めれば、あるいは……」
リズベットは慎重な手つきで、火竜の粉を炉に投入した。
ゴオオオオッ!
炉の火が、一瞬で青白い炎に変わった。工房内の温度が急激に上昇し、肌が焼けるように熱い。
彼女はその中に、ミスリル大根を放り込んだ。
俺たちは固唾を飲んで、炉の中を見守った。
一時間、二時間……。時間が経つのも忘れ、ただひたすらに。
そして、ついにその時が来た。
「……溶けた」
リズベットの呟き。
炉の中のミスリル大根が、その形を失い、ゆっくりと銀色の液体へと変わっていくのが見えた。まるで、月の光を溶かしたかのような、幻想的で美しい光景だった。
「やった……やったぞおおおお!」
リズベットが、子供のようにはしゃいで拳を突き上げた。
彼女は慎重に、溶けたミスリルを鋳型へと流し込んでいく。ジュウッという音と共に、白い湯気が立ち上った。
それからさらに数時間。
冷却と焼き入れ、そして無数の槌打ちを経て、一本のインゴット(金属塊)が完成した。
それは、これまでに見たどんな金属とも違う、神々しいまでの輝きを放っていた。軽く、硬く、そして魔力を帯びている。
「こいつで、まずはお頭専用の『万能農具』を打ってやる。最高の使い手には、最高の道具が必要だからな」
リズベットは、完成したばかりのミスリルインゴットを愛おしそうに撫でながら、そう宣言した。
俺のスキル【土いじり】と、リズベットの鍛冶の技術。
そして、このダンジョンが生み出す規格外の素材。
この三つが合わさった時、俺たちの農園は、ただの食料生産地ではない、何かとてつもないものを生み出す場所へと進化を遂げようとしていた。
リズベットが工房で槌を振るう音を聞きながら、俺は自分の農園の未来に、胸の高鳴りを禁じ得なかった。
この場所でなら、何でもできる。どんな夢でも、叶えられる。
そんな確信が、俺の心の中に芽生え始めていた。
早朝から彼女の工房からは、カン、カン、とリズミカルな槌音と、炉の火がごうごうと燃える音が聞こえてくる。それは、この農園に新たな生命が吹き込まれたことを示す、力強い心音のようだった。
彼女はまず、俺たちが使っていた農具をすべて打ち直すと言い出した。
「お頭たちが使ってるこいつらは、街で売ってるただの量産品だ。素材も焼き入れもなってねえ。こんなもんじゃ、この神聖な大地を耕すには失礼ってもんよ」
リズベットはそう言うと、俺の鋼鉄製のクワをひょいと取り上げ、炉の中に放り込んだ。赤々と燃える炎が、クワを飲み込んでいく。
「何をするんだ! それ、この前買ったばかりの……」
「黙って見てな。アタシの手にかかれば、こいつが国宝級の逸品に生まれ変わるぜ」
リズベットは自信満々に言うと、赤熱したクワを金床の上に取り出し、巨大なハンマーを振り下ろし始めた。
カン! カン! カン!
火花が飛び散り、甲高い金属音が工房に響き渡る。
彼女の動きには一切の無駄がなかった。ハンマーを振り下ろす角度、力加減、金属を冷やすタイミング。そのすべてが、長年の経験によって培われた職人技そのものだ。俺とシルフィは、その力強くも美しい光景に、ただただ見入っていた。
数時間後。
「……できたぜ」
汗だくのリズベットが、満足そうな笑みを浮かべて差し出したのは、一本のクワだった。
それは、俺が最初に渡したものと、もはや別物としか言いようがない代物だった。
刃の部分は、まるで黒曜石のように深く、鈍い輝きを放っている。何度も叩かれ、鍛え上げられた鋼は、明らかに密度が増していた。全体のフォルムも、力学的に計算されたかのように洗練されており、ただの農具とは思えないほどの機能美を宿している。
「こいつは『黒鋼(くろがね)のクワ』とでも名付けるか。ほら、持ってみな」
リズベットに促され、俺は恐る恐るそのクワを手に取った。
「……軽い!」
思わず声が出た。見た目の重厚さとは裏腹に、驚くほど軽い。重心のバランスが完璧で、まるで自分の腕の一部になったかのようにしっくりと馴染む。
「農具ってのはな、ただ硬けりゃいいってもんじゃねえ。使い手が一日中振るっても疲れねえように、バランスが一番大事なんだ」
リズベットは得意げに胸を張る。
俺は逸る気持ちを抑えきれず、すぐに畑へと向かった。そして、まだ手つかずだった硬い地面に、新しいクワを振り下ろしてみた。
サクッ!
信じられないほど軽い手応え。
まるで、柔らかな豆腐でも切るかのように、クワの刃が抵抗なく地面に吸い込まれていった。俺はこれまで、【土いじり】のスキルで地面を柔らかくしてからでないと、ここまでスムーズに耕すことはできなかった。だが、このクワは、スキルを使わずとも、硬い大地をいともたやすく切り開いていく。
「す……すごい……」
俺は夢中でクワを振るった。面白いように土が掘り起こされ、畝ができていく。これまで半日かかっていた作業が、一時間もかからずに終わりそうだ。疲労感も全くない。
「どうだい、お頭。アタシの腕は」
いつの間にか隣に来ていたリズベットが、ニヤリと笑う。
「すごい……すごすぎるぞ、リズベット! これさえあれば、この土地を全部耕し尽くすのも夢じゃない!」
俺が手放しで絶賛すると、彼女は照れくさそうに頭をかいた。職人は、自分の仕事が認められるのが一番嬉しいのだろう。
勢いに乗ったリズベットは、その後、シャベルや鎌、斧といった農具を次々と打ち直してくれた。どれもこれも、元の物とは比べ物にならない、魔法のような切れ味と使いやすさを誇っていた。
俺の農園の開墾速度は、彼女の加入によって劇的に向上した。
そして、リズベットがここにきて一週間が経った頃。
彼女は、ついに『あれ』に手を出すことを決めた。
「お頭。そろそろ、あの『大根』を料理してみようと思う」
工房に呼ばれた俺の目の前で、リズベットは隠してあったミスリル大根を金床の上に置いた。その瞳は、これまで以上に真剣な光を宿している。
「本当に加工できるのか? あれは、このクワでも傷一つつけられなかったんだぞ」
「普通のやり方じゃ無理だろうな。だが、アタシに一つ、試してみたいことがある」
彼女はそう言うと、工房の奥から小さな革袋を取り出してきた。中から現れたのは、赤黒い砂鉄のような粉末だ。
「こいつは、火竜の鱗を削った粉だ。ドワーフの国でも門外不出の秘伝でな。こいつを燃料に混ぜて炉の温度を極限まで高めれば、あるいは……」
リズベットは慎重な手つきで、火竜の粉を炉に投入した。
ゴオオオオッ!
炉の火が、一瞬で青白い炎に変わった。工房内の温度が急激に上昇し、肌が焼けるように熱い。
彼女はその中に、ミスリル大根を放り込んだ。
俺たちは固唾を飲んで、炉の中を見守った。
一時間、二時間……。時間が経つのも忘れ、ただひたすらに。
そして、ついにその時が来た。
「……溶けた」
リズベットの呟き。
炉の中のミスリル大根が、その形を失い、ゆっくりと銀色の液体へと変わっていくのが見えた。まるで、月の光を溶かしたかのような、幻想的で美しい光景だった。
「やった……やったぞおおおお!」
リズベットが、子供のようにはしゃいで拳を突き上げた。
彼女は慎重に、溶けたミスリルを鋳型へと流し込んでいく。ジュウッという音と共に、白い湯気が立ち上った。
それからさらに数時間。
冷却と焼き入れ、そして無数の槌打ちを経て、一本のインゴット(金属塊)が完成した。
それは、これまでに見たどんな金属とも違う、神々しいまでの輝きを放っていた。軽く、硬く、そして魔力を帯びている。
「こいつで、まずはお頭専用の『万能農具』を打ってやる。最高の使い手には、最高の道具が必要だからな」
リズベットは、完成したばかりのミスリルインゴットを愛おしそうに撫でながら、そう宣言した。
俺のスキル【土いじり】と、リズベットの鍛冶の技術。
そして、このダンジョンが生み出す規格外の素材。
この三つが合わさった時、俺たちの農園は、ただの食料生産地ではない、何かとてつもないものを生み出す場所へと進化を遂げようとしていた。
リズベットが工房で槌を振るう音を聞きながら、俺は自分の農園の未来に、胸の高鳴りを禁じ得なかった。
この場所でなら、何でもできる。どんな夢でも、叶えられる。
そんな確信が、俺の心の中に芽生え始めていた。
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