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第15話:二人目の仲間
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だから! なんで弟子入りなんだよ!?」
俺の叫びに、地面に額をこすりつけたままのリズベットが顔を上げた。その瞳は、先ほどまでの興奮とは違う、真剣で純粋な輝きに満ちていた。
「決まってるじゃねえか! 畑からミスリルを収穫するなんざ、神の御業だ! あんたは、ただの農夫じゃねえ。土の神様に愛された、選ばれし『大地の導師』様に違いねえ!」
「導師様って……俺はただのアルフォンスだ」
勝手に付けられた大層な二つ名に、俺は頭を抱えた。
「謙遜なさらずとも! このリズベット、ドワーフの鍛冶師として、最高の金属で最高の武具を打つのが生涯の夢! そのためには、最高の素材が必要不可欠! お頭の元で働けば、アタシは最高の素材を、腹一杯食える……いや、手に入れられる!」
どうやら本音が少し漏れたようだが、彼女の熱意は本物らしかった。
「どうか! この通りだ! 追い払わねえでくれ!」
リズベットは再び頭を地面にこすりつけた。その勢いで、畑の土が少し掘れている。
俺はシルフィと顔を見合わせた。
シルフィは、やれやれといった表情で肩をすくめている。だが、その目には面白がるような光が宿っていた。彼女は、この豪快なドワーフを気に入ったのかもしれない。
「……どうしますか、アルフォンス。随分と、情熱的な方のようですが」
「どうするも何も……」
俺だって困惑している。
エルフが一人増えただけでも驚きだったのに、今度はドワーフだ。しかも、弟子入り志願。俺の農園は、いつからそんな怪しげな宗教施設になったというのか。
だが、リズベットの言葉は、俺の心に一つの可能性を投げかけてもいた。
『最高の金属で最高の武具を打つ』
俺たちの手には、どうすることもできないミスリル大根がある。だが、もし彼女がシルフィの言う『王家の鍛冶師』に連なるほどの腕を持つ者ならば、話は別だ。
あの硬い石ころを、本当の『宝』に変えることができるかもしれない。
「……あんた、鍛冶師としての腕は確かなのか?」
俺が尋ねると、リズベットはガバッと顔を上げた。
「ったりめえよ! アタシは、ドワーフの国でも五指に入ると謳われた名門、アイアンハンマー家の直系だい! 訳あって国を出たが、この腕は国宝級だぜ!」
彼女はそう言うと、自分の胸をドンと叩いた。その自信に満ちた姿に、嘘は感じられない。
「……分かった。弟子は断る。だが、あんたがここに住むことを許可しよう」
俺がそう告げると、リズベットの顔がぱあっと輝いた。
「ほ、本当かい!? お頭!」
「だからお頭はやめろ。アルフォンスだ」
「へい! アルフォンスのお頭!」
ダメだ、全く聞いていない。
「その代わり、条件がある」俺は続けた。「俺たちの農園で採れた鉱物……そのミスリル大根を、あんたに加工してもらう。もちろん、素材は提供するが、あんた自身の生活に必要なものは、農園の仕事を手伝うことで賄ってもらう。それでいいか?」
これは、対等な取引の提案だ。シルフィの時と同じように。
俺は、誰かに一方的に依存される関係は望んでいない。共に働き、共に暮らす。仲間とは、そういうものであるべきだ。
俺の提案に、リズベットは一瞬きょとんとした後、ニカッと歯を見せて笑った。
「おうよ! 望むところだ! アタシに任せときな! あんたたちのために、最高の武具でも農具でも、何でも打ってやるぜ!」
彼女はそう言うと、俺に向かって大きな右手を差し出してきた。その手は、タコだらけで、煤に汚れ、まさしく職人の手だった。
俺もその手を、固く握り返した。
「よろしくな、リズベット」
「おう! よろしくな、お頭!」
……まあ、呼び方はもう諦めるしかないらしい。
こうして、ドワーフの女鍛冶師リズベットが、俺の農園の三人目の住人となった。
彼女の行動力は凄まじかった。
仲間になることが決まったその日のうちに、彼女は農園の隅の、少し開けた場所に自分の工房を建てると言い出した。
「工房には、まず炉が必要だな。それから金床と、水槽と……。よし、お頭! ちょっとそこの森の木を何本かもらってくらあ!」
言うが早いか、彼女は放り出していた巨大なハンマーを担ぐと、森の中へと消えていった。
しばらくすると、ズガガガガッという凄まじい音と共に、大木が何本も倒れる音が聞こえてきた。シルフィが「森が……」と少し悲しそうな顔をしていたが、リズベットはすぐに丸太を引きずって戻ってきた。
彼女は倒した木を、まるで薪でも割るかのように手斧で器用に加工し、あっという間に工房の骨組みを組み上げていく。さらに、俺のスキル【土い-じり】で地面から粘土質の土を掘り出させると、それで耐火レンガを作り、見事な石窯のような炉をものの半日で完成させてしまった。
その手際の良さと力強さに、俺とシルフィはただただ圧倒されるばかりだった。
「ふぅ、こんなもんかね」
夕方になる頃には、そこにはもう立派な鍛冶工房が出現していた。小さいながらも、機能的に作られた職人の城だ。
「あとは、最高の金床があればなあ。まあ、それは追々探すとするか」
リズベットは汗を拭い、満足そうに自分の仕事を見上げている。
その夜。
焚き火を囲む輪は、三人になった。
リズベットは、俺が作ったキノコのスープを豪快に飲み干すと、持参していた酒瓶を取り出した。ドワーフ族が作る、火を噴くように強い蒸留酒だ。
「さあ、新しい門出に乾杯しようじゃねえか!」
彼女はシルフィにも酒を勧めたが、シルフィは「エルフは果実酒しか飲みませんので」と優雅に断っていた。俺も少しだけ付き合ったが、一口飲んだだけで喉が焼けるかと思った。
リズベットはそんな酒を、まるで水のように呷っている。
酒が進むと、リズベットは上機嫌で自分の身の上を語り始めた。
彼女はやはり、ドワーフの国でも名門の鍛冶師の家系だったらしい。だが、伝統ばかりを重んじ、新しい挑戦を許さない国のやり方に嫌気がさし、最高の素材と自由な物作りを求めて飛び出してきたのだという。
「アタシは打ちてえんだよ。誰も見たことがねえような、伝説の武具をな!」
彼女は熱く語る。その瞳は、職人としての純粋な夢に輝いていた。
エルフの薬師に、ドワーフの鍛冶師。
二人とも、故郷を離れ、自分の夢や使命を追い求めて旅をしている。そんな彼女たちが、偶然にもこの辺境の農園にたどり着いた。
そして、元Aランクパーティの雑用係だった俺。
不思議な巡り合わせだ、と俺は思った。
追放された時には、俺の人生は終わったと感じた。
だが、今は違う。
新たな仲間と共に、新たな物語が始まろうとしている。
ミスリル大根は、まだ加工できずに工房の隅に転がっている。だが、リズベットという最高の職人を得た今、それが本当の輝きを放つ日も、そう遠くはないだろう。
焚き火の炎が、三人の顔を明るく照らし出す。
俺の農園に、また一つ、温かい光が灯った夜だった。
俺の叫びに、地面に額をこすりつけたままのリズベットが顔を上げた。その瞳は、先ほどまでの興奮とは違う、真剣で純粋な輝きに満ちていた。
「決まってるじゃねえか! 畑からミスリルを収穫するなんざ、神の御業だ! あんたは、ただの農夫じゃねえ。土の神様に愛された、選ばれし『大地の導師』様に違いねえ!」
「導師様って……俺はただのアルフォンスだ」
勝手に付けられた大層な二つ名に、俺は頭を抱えた。
「謙遜なさらずとも! このリズベット、ドワーフの鍛冶師として、最高の金属で最高の武具を打つのが生涯の夢! そのためには、最高の素材が必要不可欠! お頭の元で働けば、アタシは最高の素材を、腹一杯食える……いや、手に入れられる!」
どうやら本音が少し漏れたようだが、彼女の熱意は本物らしかった。
「どうか! この通りだ! 追い払わねえでくれ!」
リズベットは再び頭を地面にこすりつけた。その勢いで、畑の土が少し掘れている。
俺はシルフィと顔を見合わせた。
シルフィは、やれやれといった表情で肩をすくめている。だが、その目には面白がるような光が宿っていた。彼女は、この豪快なドワーフを気に入ったのかもしれない。
「……どうしますか、アルフォンス。随分と、情熱的な方のようですが」
「どうするも何も……」
俺だって困惑している。
エルフが一人増えただけでも驚きだったのに、今度はドワーフだ。しかも、弟子入り志願。俺の農園は、いつからそんな怪しげな宗教施設になったというのか。
だが、リズベットの言葉は、俺の心に一つの可能性を投げかけてもいた。
『最高の金属で最高の武具を打つ』
俺たちの手には、どうすることもできないミスリル大根がある。だが、もし彼女がシルフィの言う『王家の鍛冶師』に連なるほどの腕を持つ者ならば、話は別だ。
あの硬い石ころを、本当の『宝』に変えることができるかもしれない。
「……あんた、鍛冶師としての腕は確かなのか?」
俺が尋ねると、リズベットはガバッと顔を上げた。
「ったりめえよ! アタシは、ドワーフの国でも五指に入ると謳われた名門、アイアンハンマー家の直系だい! 訳あって国を出たが、この腕は国宝級だぜ!」
彼女はそう言うと、自分の胸をドンと叩いた。その自信に満ちた姿に、嘘は感じられない。
「……分かった。弟子は断る。だが、あんたがここに住むことを許可しよう」
俺がそう告げると、リズベットの顔がぱあっと輝いた。
「ほ、本当かい!? お頭!」
「だからお頭はやめろ。アルフォンスだ」
「へい! アルフォンスのお頭!」
ダメだ、全く聞いていない。
「その代わり、条件がある」俺は続けた。「俺たちの農園で採れた鉱物……そのミスリル大根を、あんたに加工してもらう。もちろん、素材は提供するが、あんた自身の生活に必要なものは、農園の仕事を手伝うことで賄ってもらう。それでいいか?」
これは、対等な取引の提案だ。シルフィの時と同じように。
俺は、誰かに一方的に依存される関係は望んでいない。共に働き、共に暮らす。仲間とは、そういうものであるべきだ。
俺の提案に、リズベットは一瞬きょとんとした後、ニカッと歯を見せて笑った。
「おうよ! 望むところだ! アタシに任せときな! あんたたちのために、最高の武具でも農具でも、何でも打ってやるぜ!」
彼女はそう言うと、俺に向かって大きな右手を差し出してきた。その手は、タコだらけで、煤に汚れ、まさしく職人の手だった。
俺もその手を、固く握り返した。
「よろしくな、リズベット」
「おう! よろしくな、お頭!」
……まあ、呼び方はもう諦めるしかないらしい。
こうして、ドワーフの女鍛冶師リズベットが、俺の農園の三人目の住人となった。
彼女の行動力は凄まじかった。
仲間になることが決まったその日のうちに、彼女は農園の隅の、少し開けた場所に自分の工房を建てると言い出した。
「工房には、まず炉が必要だな。それから金床と、水槽と……。よし、お頭! ちょっとそこの森の木を何本かもらってくらあ!」
言うが早いか、彼女は放り出していた巨大なハンマーを担ぐと、森の中へと消えていった。
しばらくすると、ズガガガガッという凄まじい音と共に、大木が何本も倒れる音が聞こえてきた。シルフィが「森が……」と少し悲しそうな顔をしていたが、リズベットはすぐに丸太を引きずって戻ってきた。
彼女は倒した木を、まるで薪でも割るかのように手斧で器用に加工し、あっという間に工房の骨組みを組み上げていく。さらに、俺のスキル【土い-じり】で地面から粘土質の土を掘り出させると、それで耐火レンガを作り、見事な石窯のような炉をものの半日で完成させてしまった。
その手際の良さと力強さに、俺とシルフィはただただ圧倒されるばかりだった。
「ふぅ、こんなもんかね」
夕方になる頃には、そこにはもう立派な鍛冶工房が出現していた。小さいながらも、機能的に作られた職人の城だ。
「あとは、最高の金床があればなあ。まあ、それは追々探すとするか」
リズベットは汗を拭い、満足そうに自分の仕事を見上げている。
その夜。
焚き火を囲む輪は、三人になった。
リズベットは、俺が作ったキノコのスープを豪快に飲み干すと、持参していた酒瓶を取り出した。ドワーフ族が作る、火を噴くように強い蒸留酒だ。
「さあ、新しい門出に乾杯しようじゃねえか!」
彼女はシルフィにも酒を勧めたが、シルフィは「エルフは果実酒しか飲みませんので」と優雅に断っていた。俺も少しだけ付き合ったが、一口飲んだだけで喉が焼けるかと思った。
リズベットはそんな酒を、まるで水のように呷っている。
酒が進むと、リズベットは上機嫌で自分の身の上を語り始めた。
彼女はやはり、ドワーフの国でも名門の鍛冶師の家系だったらしい。だが、伝統ばかりを重んじ、新しい挑戦を許さない国のやり方に嫌気がさし、最高の素材と自由な物作りを求めて飛び出してきたのだという。
「アタシは打ちてえんだよ。誰も見たことがねえような、伝説の武具をな!」
彼女は熱く語る。その瞳は、職人としての純粋な夢に輝いていた。
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追放された時には、俺の人生は終わったと感じた。
だが、今は違う。
新たな仲間と共に、新たな物語が始まろうとしている。
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