スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第14話:ドワーフの鍛冶師、リズベット

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俺の農園にフェンリルが加わってから、数日が過ぎた。
神狼の子は驚異的な速度で成長し、もうすっかり子犬の面影はなくなって、体つきも引き締まった若狼といった風貌になっている。その成長速度は、ダンジョン産の栄養満点な食事とマナウォーターのおかげだろう。

フェンリルは非常に賢く、すぐに農園の番犬としての役割を理解した。俺が畑仕事をしている間は少し離れた場所で見守り、シルフィが薬草を干している時はその周りをうろついて森の獣を追い払う。夜は俺のテントの入り口で丸くなって眠り、かすかな物音にも鋭く耳を立てる。その姿は、頼もしいの一言に尽きた。

「本当に、良い子ですね。フェンリルは」
シルフィが、フェンリルの銀色の毛並みを優しく撫でながら言う。フェンリルは彼女にもすっかり懐き、喉を鳴らして甘えている。
一人と一匹と、もう一人。
俺の農園は、静かだが温かい、家族のような空気に満ちていた。この平穏がずっと続けばいい。俺は心からそう願っていた。

だが、そんな平穏は、ある日突然、地響きと共に破られることになる。

ドッゴォォォン!

その日、俺たちが昼食を摂っていると、遠くから、しかし明らかに異常な轟音が鳴り響いた。地面がわずかに揺れ、驚いた鳥が一斉に飛び立つ。
「な、なんだ今の音は!?」
俺は立ち上がり、音がした南の方角を見据える。地平線の彼方で、土煙が上がっているのが見えた。

「アルフォンス! あれを!」
シルフィが指差す先。土煙の中心から、何かが猛烈なスピードでこちらに向かってくる。それはまるで、猪か何かの猛進のようだ。だが、その速度は尋常ではない。

「フェンリル!」
俺が叫ぶと、フェンリルは即座に臨戦態勢に入った。唸り声を上げ、牙を剥き出しにして、迫り来る脅威を睨みつける。シルフィも背中の弓を手に取った。

土煙の正体は、あっという間に俺たちの農園のすぐ近くまで迫ってきた。
そして、俺たちはその姿をはっきりと捉え、唖然とした。

猪ではない。人間だ。
いや、人間よりはずっと背が低く、ずんぐりむっくりとした体躯。だが、その足は異常に太くたくましく、全身が筋肉の鎧で覆われているかのようだ。燃えるような赤い髪を三つ編みにし、肩には巨大なハンマーを担いでいる。
その人物は、俺たちの農園の境界線でピタリと足を止めると、荒い息をつきながら、地面をクンクンと嗅ぎ始めた。

「……ドワーフ?」
シルフィが、信じられないという顔で呟いた。
間違いない。その体躯、その豪快な雰囲気は、まさしくドワーフ族の特徴そのものだった。
だが、なぜドワーフがこんな辺境の地に? それも、あんな猛スピードで一直線に。

ドワーフの女は、しばらく地面の匂いを嗅いでいたが、やがて顔を上げると、その視線を一直線に、俺たちの足元……いや、俺たちの農園の『土』に向けた。
そして、次の瞬間。
彼女の目はカッと見開かれ、歓喜とも驚愕ともつかない表情を浮かべた。

「み、見つけたぞおおおおおおおっ!」

腹の底から響くような、凄まじい大声だった。
彼女は担いでいた巨大ハンマーを放り出すと、再び猛ダッシュを開始し、一直線に俺たちの元へと突っ込んできた。

「うわっ!?」
俺たちは慌てて身構える。フェンリルが前に出て、侵入者を威嚇するように吠え立てた。
だが、ドワーフの女はフェンリルなど目にも入っていないようだった。彼女は俺たちのすぐ手前で急停止すると、そのまま地面に膝をつき、両手で畑の土をわしづかみにした。

そして、恍惚とした表情で、その土の匂いを深く、深く吸い込んだ。
「はああああ……なんという芳醇な香り……! 間違いない、こいつは極上の『金属鉱脈』の匂いだ!」
「はあ!? 鉱脈!?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。何を言っているんだこのドワーフは。ここは畑だぞ。

「おいあんた、いきなり来て何を……」
俺が問い詰めようとすると、彼女はガバッと顔を上げた。その瞳は興奮で爛々と輝いている。
「あんたかい!? このとんでもねえ土地の主は!」
「そ、そうだが……」
「アタシはリズベット! 流れの鍛冶師さ! 三日三晩、この極上の金属の気配を追いかけて、ここまで走ってきたんだ!」
リズベットと名乗るドワーフは、そう言うと、勢いよく立ち上がって俺の目の前に立った。背は低いが、その迫力は凄まじい。

「単刀直入に聞く! ここに眠ってるお宝を、アタシに掘らせちゃくれねえか!? いや、掘らせてくださいお願いします!」
先ほどの威勢はどこへやら、彼女はガバッと深々と頭を下げた。その切り替えの早さに、俺は完全に戸惑ってしまった。

「お、宝って……ここには、野菜しか植えてないぞ」
「嘘をつくんじゃねえ!」
リズベットは再び顔を上げると、俺の胸ぐらを掴まんばかりの勢いで詰め寄ってきた。「この土に染み付いた、高純度の魔力の匂い! 間違いなく、ミスリル級の金属鉱脈がこの地下に眠ってる証拠だ! ドワーフの鼻はごまかせねえよ!」

ミスリル。
その単語が出た瞬間、俺とシルフィの間に緊張が走った。
このドワーフは、どうやら本物らしい。地下に隠したミスリル大根の、ごく微かな気配を辿って、ここまで来たというのか。
恐るべき嗅覚だ。

どうする? ここでしらを切るか?
いや、この様子では無駄だろう。納得するまで、この農園に居座るに違いない。
俺はシルフィと目配せをした。彼女は小さく頷き、俺の判断に任せるという意思を示してくれた。

俺は覚悟を決めた。
「……鉱脈じゃない。あんたが探してるのは、これか?」
俺は懐から、布に包んでお守り代わりに持っていた、あの小さなミスリル大根を取り出した。

リズベットは、俺が差し出した灰色の塊を見て、最初は怪訝な顔をしていた。
「なんだいこりゃ。ただの石っころじゃねえか」
だが、その断面から覗く鈍い銀色の輝きに気づいた瞬間、彼女の動きがピタリと止まった。
その目は、信じられないものを見るかのように大きく見開かれ、やがてわなわなと震え始めた。

彼女は震える手でミスリル大根を受け取ると、それを目の前に掲げ、あらゆる角度から食い入るように見つめている。
「この輝き……この魔力の密度……そして、このありえないほどの質量……。ま、間違いねえ……本物の、ミスリルだ……」

その声は、感動でかすれていた。
そして、彼女はとんでもない行動に出た。
あろうことか、その硬いミスリル大根に、ガブリと噛みついたのだ。
ゴリッ、と嫌な音がする。

「……うんめええええええええっ!」

リズベットは、至福の表情で絶叫した。
「な、なにを……!?」
俺とシルフィは、その奇行に完全に度肝を抜かれていた。
「この歯ごたえ! この鉄の味! 大地のミネラルを凝縮した、至高の風味だ! こいつは食えるぞ!」
「いや、食えねえよ!?」
俺は思わず全力で突っ込んだ。

「それで? これが、どうしてあんたの手元にあるんだい?」
ひとしきり興奮した後、リズベットはようやく冷静さを取り戻して尋ねてきた。
「……畑で、採れた」
俺が正直に言うと、彼女は一瞬きょとんとした後、腹を抱えて大笑いし始めた。
「ひゃはははは! 畑でミスリルが採れただと!? そりゃ傑作だ! 今まで聞いた中で一番面白い冗談だよ!」

だが、俺とシルフィが真顔のままでいるのを見て、彼女の笑い声は次第に小さくなっていった。
「……ん? まさか、本気で言ってるのかい?」
俺は無言で頷いた。
リズベットの顔から、笑みが消える。彼女はもう一度、手の中のミスリル大根と、俺の農園の黒々とした土を、信じられないという顔で見比べた。

そして、数秒の沈黙の後。
彼女は、再び俺に向き直ると、今度は先ほどよりもずっと深く、地面に額をこすりつけるほどの勢いで土下座をした。

「……お頭(かしら)! どうか、このリズベットを! あなた様の弟子にしてください!」

「だから、なんでそうなるんだ!?」
俺のツッコミが、穏やかだった農園に虚しく響き渡った。
こうして、エルフに続き、今度はドワーフまで俺の農園にやってきた。
俺の望むスローライフは、ますます賑やかで、そして予測不能な方向へと舵を切っていくのだった。
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