スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第13話:【幕間】竜の牙① -綻び-

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薄暗い洞窟の奥で、剣戟の音が反響していた。
「そこだ! 囲んで叩け!」
リーダーであるガイウスの怒声が響く。彼の自慢の大剣が閃き、一体のホブゴブリンを薙ぎ払った。だが、すぐに別の個体が忌々しい雄叫びを上げて襲いかかってくる。

Aランクパーティ「竜の牙」は、ゴブリンの亜種であるホブゴブリンの巣穴掃討依頼を受けていた。Bランク相当の、彼らにとってはウォームアップにもならないはずの簡単な仕事。そのはずだった。

「ガイウス! 右翼が崩れるぞ!」
盾役のドワーフ、ボルガンが叫ぶ。彼の構える大盾には、すでに無数の傷が刻まれていた。
「セレスティア様! 回復を!」
後衛の魔術師が悲鳴に近い声を上げる。彼のローブは泥に汚れ、肩からは血が滲んでいた。

「聖なる光よ、その傷を癒やしたまえ……ヒール!」
聖女セレスティアの詠唱と共に、柔らかな光がパーティを包む。だが、その光は以前よりもどこか弱々しく、傷の回復も鈍い。彼女の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。

戦闘は、辛くも勝利に終わった。
洞窟に満ちていた熱気と殺意が引き、残されたのはモンスターの死骸と、荒い息をつくパーティメンバーたちだけだった。
「はぁ……はぁ……。なんて数だ。報告よりずっと多かったじゃないか」
ボルガンが盾を下ろし、悪態をつく。
「油断したな。だが、この程度で手こずるようではAランクの名が廃るぞ」
ガイウスは血振りをしながら言ったが、その声には隠しきれない疲労が滲んでいた。

洞窟の外に出て、彼らは野営の準備を始めた。
だが、その手際は驚くほど悪かった。
テントを張るのに手間取り、風下に設営してしまったせいで焚き火の煙がすべてテントに流れ込んでくる。火の番をしていた若手の弓使いは、火力を調整できずに鍋のスープを焦がしてしまった。

「ちっ……使えない奴らだ」
ガイウスは舌打ちし、自分の大剣の手入れを始めた。だが、手入れをしようにも、砥石が見当たらない。いつも雑具袋の定位置に入っていたはずの道具が、どこを探してもなかった。
「おい、誰か砥石を知らないか」
彼の問いに、誰も答えられない。皆、自分のことで手一杯だった。

結局、ガイウスは血脂を布で拭うだけで手入れを諦めた。よく見れば、自慢の剣の刃は、ホブゴブリンの骨を断った際にできたのであろう、小さな刃こぼれがいくつもできていた。
ボルガンの盾も、留め具の革が緩み、構えるたびにガタガタと嫌な音を立てている。それを直すための工具も、予備の革も見当たらなかった。

「夕食だ。各自で取れ」
焦げ付いたスープもどきが配られる。味は言うまでもなく最悪だった。水で戻しただけの干し肉はゴムのように硬く、噛み切れない。
誰もが黙々と、その味気ない食事を口に運んでいた。かつて、あの男がいた頃は、どんな状況でも温かく、滋味深いスープが疲れた体を癒やしてくれた。焚き火を囲む食事の時間は、数少ない安らぎのひとときだった。
だが、今やその時間は、ただの苦痛な作業に成り下がっていた。

「……前のレーションの方が、まだマシだったな」
誰かが、ぽつりと呟いた。
その言葉に、他のメンバーも無言で頷く。パーティ内に、重く、気まずい空気が流れた。
誰もが、いなくなった雑用係の男、アルフォンスのことを頭に思い浮かべていた。だが、その名を口に出す者はいない。彼を追放したのはリーダーであるガイウスと、聖女セレスティアなのだから。

食事の後、メンバーたちは各自で傷の手当てを始めた。
「痛っ……! なんだこのポーションは、染みるだけじゃないか!」
若い弓使いが、腕の切り傷に市販のポーションを振りかけて顔を歪めた。傷は赤く腫れ上がったままで、血も完全に止まっていない。
「文句を言うな。ギルドで買える中で、一番マシなやつだ」
ボルガンが吐き捨てるように言う。彼の腕にも、痛々しい打撲の跡があった。

以前、アルフォンスがどこからか調達してきていたポーションは、こんなものではなかった。どんな傷もすぐに塞がり、痛みもすっと引いた。あれが、どれほど貴重なものだったのか。失って初めて、その価値に気づかされていた。

「セレスティア様、申し訳ありませんが、もう一度回復魔法を……」
「……私の魔力も、無限ではありません」
セレスティアは、静かに、しかし冷たく言い放った。「これしきの傷、自力で治せぬようでは、この先が思いやられます」
その言葉に、助けを求めたメンバーはぐっと言葉を詰まらせた。彼女の言うことは正論だ。だが、その声には仲間を気遣う響きは一切なかった。

ガイウスは、そんなパーティの惨状を忌々しげに眺めていた。
アルフォンスがいなくなってから、まだ二週間ほど。それなのに、パーティの士気も練度も、明らかに落ちている。装備の状態は最悪。食事の質も最低。簡単な依頼で、これほど消耗するようになってしまった。
すべてが、うまくいっていなかった。

「少し、よろしいですか。ガイウス様」
いつの間にか、セレスティアが隣に立っていた。彼女だけは、いつもと変わらず優雅な微笑みを浮かべている。
「……なんだ」
「皆、少し疲れているようです。アルフォンスさんがいなくなった影響が、思ったよりも大きいのかもしれませんね」
「あの役立たずが、か? あいつがいなくなったくらいで、この様か。情けない」
ガイウスは吐き捨てる。「俺の判断は間違っていない。あいつはパーティの足手まといだった」

自分に言い聞かせるような言葉だった。
だが、セレスティアはそれを否定も肯定もせず、ただ微笑むだけだ。
「ええ、もちろん。ですが、現実問題として雑用係は必要です。王都に戻れば、もっと腕の良い従者を雇うこともできるでしょう。それまでの辛抱ですわ」
彼女の言葉は、どこか他人事のように響いた。まるで、このパーティの崩壊すらも、彼女の計算の内であるかのように。

ガイウスは何も言い返せなかった。
苛立ちをぶつけるように、地面に転がっていた石を蹴り飛ばす。
たかが雑用係一人。代わりなどいくらでもいる。そう思っていた。
だが、現実はどうだ。アルフォンスという名の、一つの歯車が欠けただけで、Aランクパーティ「竜の牙」という精巧な機械は、軋みを立てて狂い始めている。

その事実に、ガイウスは気づき始めていた。
だが、傲慢なプライドが、それを認めることを許さない。

彼は無言で立ち上がると、刃こぼれした愛剣を手に取り、闇に向かって素振りを始めた。
苛立ちを振り払うかのように、何度も、何度も剣を振るう。
風を切る音だけが、気まずい沈黙に包まれた野営地に虚しく響いていた。

綻びは、まだ小さい。
だが、それは確実に、このパーティを内側から蝕み始めていた。
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