スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第22話 要塞化の第一歩

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ジェラールと生き残った傭兵は、ゴンスケたちによって穴から引きずり出され、身ぐるみ剥がされていた。高価な衣服も、武器も、金目のものもすべて取り上げられ、みすぼらしい下着一枚の姿で地面に転がされている。

「……分かったか。ここがどういう場所か」
俺は意識を取り戻して震えているジェラールを見下ろし、静かに言った。
「お前たちがやろうとしたのは、ただの商取引じゃない。俺たちの家と家族を踏みにじろうとする行為だ。その報いは受けてもらう」

俺はゴンスケに命じ、解体した馬車の残骸で作った粗末な荷車を引かせた。戦闘不能になった三人の傭兵は、その上に無造作に積み重ねられている。
「こ、殺すのか……?」
ジェラールが、恐怖に引きつった声で尋ねた。

「殺しはしない。生きて王都に帰れ。そして、お前たちの上司に伝えろ」
俺は彼の目の前にしゃがみ込み、目を真っ直ぐに見据えた。
「この農園に二度と手を出すな、と。次に同じことをすれば、今度は荷車で死体を送り返すことになる、と」

俺の言葉には、一切の情も容赦もなかった。
守るべきものができて、俺は変わったのだ。この平穏を脅かす者に対しては、非情に徹することができる。
ジェラールは俺の瞳の奥にある冷たい光を見て、こくこくと必死に頷いた。完全に心が折れていた。

俺たちは彼らを荷車に乗せると森の入り口まで運び、あとは自力で帰るように突き放した。武器も食料も水さえない。王都までの道のりは、彼らにとって地獄の旅路となるだろう。だが、自業自得だった。

彼らの姿が見えなくなると、農園には再び静寂が戻った。
だが、その静寂は以前のものとは少し違って感じられた。襲撃の痕跡は片付けたが、土に残った血の匂いが、俺たちの勝利がただの始まりに過ぎないことを物語っているようだった。

「……やれやれ、とんだ災難だったな」
リズベットが戦利品の剣を眺めながら肩をすくめた。
「ですが、アルフォンスの言う通りです。ゴールデン商会がこのまま引き下がるとは思えません。もっと大きな力で、この農園を奪いに来る可能性があります」
シルフィが憂いを帯びた表情で言う。

彼女たちの言葉に、俺は頷いた。
「ああ。今日のやり方はその場しのぎにしかならない。敵が来るたびに俺たちが直接戦っていたら、いつか必ず綻びが生まれる。シルフィやリズベットを危険な目に遭わせるわけにはいかないし、この畑が戦場になるのもごめんだ」

必要なのは、戦う前の『抑止力』。
敵がそもそもこの農園に侵入すること自体を諦めるような、絶対的な防御。

「……壁を、作ろうと思う」
俺は自分の考えを二人に打ち明けた。
「壁?」
リズベットが怪訝な顔で聞き返す。
「ああ。この農園全体を囲む巨大な壁だ。スキル【土いじり】を使えば、ただの土塀じゃない、もっと頑丈な城壁のようなものが作れるはずだ」

俺の突拍子もない提案に、二人は最初こそ驚いていたが、すぐにその意図を理解してくれた。
「なるほど……。要塞化、ですか。確かに、それなら奇襲を受ける心配もなくなりますね」
シルフィが納得したように頷く。

「へっ、面白えじゃねえか!」
リズベットはニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。「ただの壁じゃつまらねえ。どうせなら、世界中のどんな軍隊も突破できねえような、難攻不落の『グレートウォール』を建てようぜ!」
彼女の職人魂に再び火がついたようだった。

仲間たちの同意を得て、俺はすぐに行動を開始した。
俺たちは農園の境界線、その外周をぐるりと歩き、壁を建設するラインを決める。その範囲は、現在の畑だけでなく将来の拡張予定地や、リズベットの工房、シルフィの薬草園、そして俺たちの居住スペースまでをすべて含んでいた。

「よし、ここからだ」
ラインの起点に立った俺は深く息を吸い込み、両手を大地につけた。
そして、これまでにないほどスキルと魔力を練り上げる。

「――来たれ、大地の守りよ!」

俺の叫びに呼応するように、地面がゴゴゴゴゴ……と唸りを上げた。
足元から、凄まじい振動が伝わってくる。まるで、大地そのものが巨大な生き物のように脈動している。
俺が手をつけた場所から、地面がゆっくりと、しかし確実に隆起し始めた。

土がまるで粘土のように持ち上がり、圧縮され、積み上がっていく。
それはただの土ではない。俺はダンジョンから持ち帰った魔力濃度の高い土を混ぜ込み、さらに俺自身の魔力を流し込むことで、コンクリート以上の強度を持つ『魔導土』へと変質させていた。

「すげえ……」
リズベットが、その光景に感嘆の声を漏らす。
「ただ土を持ち上げてるだけじゃねえ。地中深くの岩盤まで巻き込んで、基礎から作り上げてやがる……! これなら、どんな破城槌でもびくともしねえぞ!」
彼女の的確な分析に、俺は心の中で頷いた。

壁は天に向かって伸びていく。
高さは五メートル。厚さは三メートル。
並のモンスターや兵士では、乗り越えることすら不可能な圧倒的な威容を誇る壁が、俺の農園の周囲に出現していく。

作業は夜を徹して行われた。
シルフィがマナポーションの試作品で俺の魔力を回復させ、リズベットが壁の構造的な強度について的確なアドバイスをくれる。フェンリルは周囲の警戒を怠らない。
俺は一人ではなかった。仲間がいるからこそ、こんな無茶な芸当が可能になるのだ。

夜が明け、東の空が白み始める頃。
その事業はついに完成した。

俺たちの目の前には、農園をぐるりと一周する壮大な土壁がそびえ立っていた。朝日を浴びて、それは赤茶色の城壁のように輝いている。唯一の出入り口には、リズベットが夜通しで作り上げたミスリルで補強された巨大な樫の木の門が取り付けられていた。

「……やりすぎた、か?」
俺が目の前の光景に少し呆然としながら呟くと、リズベットが背中を叩いて豪快に笑った。
「馬鹿言え、お頭! これでこそ、アタシたちの城ってもんよ!」
「そうですね」シルフィも満足そうな笑みを浮かべている。「これで安心して研究に集中できます」

俺は完成した壁を見上げた。
それは、外部からの侵入者を拒む冷たい壁。
だが、俺たちにとっては愛する日常と仲間を守るための、温かい盾だった。

俺たちの農園はもはやただの畑ではない。
自給自足の楽園であり、難攻不落の要塞。
俺が望んだスローライフは、思いもよらない形でその安全性を確保したのだ。

「さて、と」
俺は仲間たちに向かって振り返った。
「壁もできたことだし、そろそろ畑仕事に戻るか」

俺の言葉に、シルフィとリズベットは顔を見合わせて楽しそうに笑った。
どんなにすごい要塞を築こうとも、俺たちの基本は変わらない。
土を耕し、種を蒔き、恵みを育む。
俺たちのスローライフはまだ始まったばかりなのだから。
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