スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第21話 最初の防衛戦

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「やれ」
ジェラールの冷たい号令。
四人の傭兵が腰の剣を抜き放ちながら、一斉にこちらへ向かってくる。その目は獲物を見つけた獣のようにギラつき、下卑た笑みを浮かべていた。
彼らの目的は俺たちを屈服させ、恐怖を植え付けること。農園の設備を破壊し、俺たちの心を折るつもりなのだろう。

だが、彼らは致命的な間違いを犯していた。
この農園が、ただの穏やかな畑ではないということを。
そして俺たちが、無力な農夫ではないということを。

「舐めんじゃねえぞ、チンピラどもが!」

最初に動いたのはリズベットだった。
彼女は雄叫びを上げると、その小柄な体躯からは想像もつかないほどのスピードで突進した。大地を蹴る足はまるで砲弾のようだ。
先頭を走っていた傭兵は、迫り来るドワーフの勢いに一瞬怯んだ。そのわずかな隙が命取りだった。

「鉄槌の舞じゃあ!」

リズベットが振りかぶったミスリル製のウォーハンマーが、唸りを上げて空を切り裂く。
傭兵は慌てて剣で受け止めようとしたが、あまりにも無謀だった。

ゴシャッ!

鈍い肉が潰れるような音。
傭兵の鋼鉄の剣はまるでガラス細工のように粉々に砕け散り、ウォーハンマーは勢いを殺すことなく、そのまま傭兵の鎧ごと胴体を叩き潰した。
傭兵は悲鳴を上げる間もなく、くの字に折れ曲がって吹き飛んでいく。

「なっ……!?」
残りの三人の傭兵が、信じられないものを見たという顔で足を止めた。
その硬直が次なる好機を生む。

ヒュンッ!

風を切る鋭い音。
シルフィが放った矢が、寸分の狂いもなく二人目の傭兵の喉元を貫いていた。彼は「ぐ」という短い呻き声だけを残し、仰向けに倒れて絶命した。

「グルルルルル……!」
そして、影が走った。
フェンリルが地を這うような低い姿勢から、弾丸のように飛び出したのだ。その銀色の体は残像を残すほどの速さだった。
三人目の傭兵は横から迫る死の気配に気づくことさえできず、その首筋に深々と牙を突き立てられていた。抵抗もできずに地面に引き倒され、命の光を失っていく。

わずか数秒。
四人いた傭兵は、あっという間に三人が戦闘不能に陥っていた。
「ひっ……!」
最後に残った一人は、目の前で起こった惨劇に完全に戦意を喪失し、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。

あまりにも一方的な展開。
この農園の住人たちが自分たちよりも遥かに格上の『化け物』であったという事実に、彼はようやく気づいたのだ。

「……ありえない」
後方で高みの見物を決め込んでいたジェラールも、その光景に絶句していた。作り物の笑みは完全に消え去り、顔は恐怖と混乱で青ざめている。
「な、なんだ貴様ら……! ただの農夫ではないのか!?」

「言ったはずだ」
俺はゆっくりと彼に向かって歩き始めた。手にはミスリル製の万能農具。そのシャベルのアタッチメントが、鈍い銀色の光を放っている。
「ここから出て行け、と。忠告はしたはずだぞ」

俺の背後では、数十体の土のゴーレム『ゴンスケ』たちがいつの間にか作業をやめ、ずらりと整列していた。その無機質な顔が、一斉にジェラールたちに向けられている。それは異様で、そして圧倒的な威圧感を放っていた。

「こ、こんな……こんな話は聞いていない……!」
ジェラールは後ずさる。彼の計算では、腕利きの傭兵四人もいればこんな田舎の農夫など赤子の手をひねるより簡単なはずだった。
だが、現実はどうだ。屈強な傭兵は赤子のようにひねられ、謎のゴーレ-ム軍団に包囲されている。

「お、おい! 貴様ら、我々が誰だか分かっているのか!? 王都のゴールデン商会に手を出して、ただで済むと思うなよ!」
追い詰められたジェラールは、商会の名前を盾に脅しをかけてきた。
だが、その言葉はもはや俺たちの心には響かない。

「商会がなんだ。王様が来たって同じことだ」
俺は彼の目の前で足を止めた。「ここは俺たちの家だ。それを土足で荒らす奴は、誰であろうと容赦しない」

俺は、万能農具を振り上げた。
ジェラールは「ひぃっ」と短い悲鳴を上げ、反射的に腕で顔を庇う。
だが、俺が狙ったのは彼自身ではなかった。

ドゴォッ!

俺が振り下ろしたシャベルが地面を叩く。
【土いじり】のスキルを最大限に込めた一撃。
ジェラールと、腰を抜かした最後の傭兵の足元の地面が、まるで爆発したかのように陥没した。

「うわあああっ!」
二人は突然現れた落とし穴に、なすすべもなく飲み込まれていった。

静寂が戻る。
畑には倒れた三人の傭兵と、ぽっかりと口を開けた大きな穴が残されただけだった。

「ふう、片付いたな」
リズベットがウォーハンマーについた血を振るって言った。その顔には、面倒事が終わったという安堵の色が浮かんでいる。
「アルフォンス、あの者たちはどうしますか?」
シルフィが穴の底で気絶している二人を指差して尋ねた。

「……殺しはしない。だが、二度とここに近づこうと思わないよう、お灸を据えてやる必要がある」
俺はそう言うと、ゴンスケたちに命令した。
「そいつらを縛り上げて、持ち物を全部剥ぎ取れ。馬車があるなら、それも解体して荷車にでも作り変えておけ」

ゴンスケたちは俺の命令に従い、無言で作業を開始した。
俺は傭兵たちが身につけていた剣や鎧を拾い上げる。どれも、それなりに質の良いものだった。
「リズベット、これは工房の材料にでもしてくれ」
「へっ、ありがてえ。ちょうど鉄が欲しかったところだ」

日の落ちかけた農園で、俺たちは淡々と後片付けを進めていた。
これが俺たちの最初の防衛戦だった。
敵はあまりにも弱く、あっけないほどの勝利。
だが、俺の心は晴れなかった。

ジェラールは言った。『他のハイエナ共に食い物にされる』と。
ゴールデン商会を退けたところで、第二、第三の脅威がこの農園を狙ってくる可能性は十分にある。
今日の勝利は、ただの始まりに過ぎないのかもしれない。

俺は、自分たちの農園を見渡した。
仲間たちがいる。ゴーレムたちがいる。そして、この豊かな大地がある。
もう無力な雑用係ではない。守るべきものを、そして守るための力を、俺は持っている。

「……もっと、強くならないとな」

誰に言うでもなく呟いた言葉は、夕暮れの風に溶けていった。
俺たちの平穏なスローライフは、それを守るための『力』を否応なく求め始めていた。
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