スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第20話 悪徳商人の来訪

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ゴーレム農場が本格的に稼働し始めてから、俺たちの生活には確かな『ゆとり』が生まれていた。
畑の管理をゴンスケたちに任せられるようになったおかげで、俺たちはダンジョンの探索や研究開発により多くの時間を割けるようになったのだ。

農園は豊かになる一方だった。
第一階層のポーション草は安定した収穫量を誇り、高品質なヒーリングポーションのストックは増え続けている。
第二階層からはリズベットが定期的にミスリル大根を収穫し、工房で少しずつインゴットへと精錬していた。
そして第三階層のマナマッシュルームは、シルフィの手によって試作品のマナポーションとなり、俺たちの切り札として静かに出番を待っている。

食料も、武具も、薬も、すべてがこの土地だけで完結している。
まさに自給自足の理想郷。俺が追放された日に夢見た以上の、穏やかで満ち足りた日々がそこにはあった。
この平穏がずっと続く。
俺たちは誰もがそう信じて疑わなかった。

その日、俺がリズベットの打った万能農具の手入れをしていると、森の見張りをしていたフェンリルが低い唸り声を上げて駆け寄ってきた。銀色の毛を逆立て、明らかに森の奥を警戒している。

「どうした、フェンリル」
俺がその頭を撫でてやっても、唸り声は止まない。
シルフィとリズベットも、そのただならぬ気配に気づいてそれぞれの作業の手を止めた。

やがて、森の小道の向こうから複数の人影が現れた。
先頭を歩くのは、上質な絹の服を着た優男風の男。だがその目は蛇のように冷たく、作り物めいた笑みを浮かべている。その後ろには、高価な革鎧に身を固めた屈強な傭兵らしき男たちが四人、無言で付き従っていた。
農園に似つかわしくない、金と暴力の匂いを纏った一団だった。

彼らは俺たちの農園の前に立つと、品定めするような目で広大な畑と働くゴーレムたちを眺めた。
「……ほう。ここが噂の場所か。なるほど、実に興味深い」
先頭の男が、芝居がかった口調で言った。
俺は立ち上がり、万能農具を杖のように突きながら彼らの前に進み出た。
「あんたたち、誰だ。何の用だ」

男は、俺の警戒を意に介さない様子で優雅に一礼した。
「これは失礼。私はゴールデン商会のジェラールと申します。以後、お見知りおきを」
ゴールデン商会。その名には聞き覚えがあった。王都を拠点に、大陸全土に手を広げる最大手の商会の一つだ。
「我々は、テルマの街で評判となっている『奇跡のポーション』の生産者を探しておりましてね。調査の結果、どうやらこの農園に行き着いた、というわけです」

やはり、ポーションの件か。
俺は内心で舌打ちしたが、表情には出さなかった。
「人違いじゃないか。俺はただの農夫だ」
「ご謙遜を」
ジェラールは笑みを崩さない。「あなたのその手……土に汚れてはいますが、ポーションを扱った際に染み付いた極上の薬草の香りが微かに残っています。我々の鼻は、金の匂いを逃しませんので」

ごまかしは通用しないらしい。
俺が黙り込むと、ジェラールは本題に入った。
「単刀直入に申し上げましょう、アルフォンス殿。我々ゴールデン商会と専属契約を結びませんか? あなたが作るポーションを、我々が独占的に買い上げ、販売するのです。販路の心配も、面倒な交渉事も一切不要。あなたはただここでポーションを作り続けるだけで、一生遊んで暮らせるほどの富を得ることができます。素晴らしい提案だと思いませんか?」

甘い言葉だった。だが、その裏にある傲慢さが透けて見える。
「断る」
俺は間髪入れずに答えた。「俺は静かに暮らしたいだけだ。金儲けに興味はない」

俺の即答に、ジェラールの眉がぴくりと動いた。
そして、彼の顔から作り物の笑みがすっと消えた。
「……ほう。我々ゴールデン商会の申し出を断ると?」
その声は、先ほどとは打って変わって低く、冷たい響きを帯びていた。
「田舎で土をいじっているだけの農夫風情が、自分の立場を理解していないようだ。お前が作ったポーションはな、お前一人の手に余る代物なのだよ」

ジェラールは一歩前に出ると、侮蔑の視線で俺を見下した。
「いいだろう。ならば、こちらもやり方を変える。お前が作るポーション、そのすべてを我々が買い上げてやる。価格は市価の一割だ」
「なんだと?」
「我々の庇護がなければ、お前のような無力な男はすぐに他のハイエナ共に食い物にされる。我々はその面倒を見てやるのだ。そのための『保険料』だと思えば、安いものだろう?」

それは取引などではなかった。ただの一方的な搾取の宣言だ。
「ふざけるな」
俺の隣で、リズベットが低い声で呟いた。彼女はいつの間にか工房から持ってきた巨大なウォーハンマーをその手に握りしめている。シルフィも背中の弓にそっと手をかけていた。

「ふざけているのは、どちらかな?」
ジェラールは俺たちを嘲笑う。「ここにいるエルフの女も、ドワーフの女も、ポーションの対価として売り渡してもらおうか。ちょうど、奴隷の品揃えを増やしたいと思っていたところだ」

その言葉が引き金になった。
俺の中で、何かがぷつりと切れる音がした。

「……帰れ」

俺は静かに、しかし腹の底からの怒りを込めて言った。
「なんだと?」
「聞こえなかったのか。その汚い足で俺たちの畑を踏むな。今すぐ、ここから立ち去れと言ったんだ」

俺の瞳には、もはや何の感情も浮かんでいなかった。
その変化に、さすがのジェラールも一瞬たじろいだようだった。だが、彼はすぐに冷笑を取り戻す。
「……愚かな。実に愚かな選択だ。忠告はしたぞ」
彼はそう言うと、後ろの傭兵たちに目配せした。「どうやら、言葉で言っても分からないらしい。少し、痛い目に遭わせてやれ。農具の一つや二つ、壊してやれば自分の立場を思い出すだろう」

ジェラールの命令を受け、傭兵たちがニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら、腰の剣に手をかけた。
フェンリルが喉の奥でグルルルと唸り声を上げる。

俺たちの農園の穏やかだった空気が、暴力と悪意によって完全に引き裂かれた。
俺が望んだ平穏な日々は、どうやらただ待っているだけでは手に入らないらしい。
守りたいものがあるのなら、戦わなければならない。

「……後悔するなよ」

俺は手に持ったミスリル製の万能農具を静かに構え直した。
その刃が西日に照らされ、鈍い銀色の光を放っていた。
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