スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第23話 腐敗した代官の目

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王都へと続く街道を、みすぼらしい荷車がゆっくりと進んでいた。
荷車を引くのは、下着一枚になった元傭兵。その顔には深い絶望の色が浮かんでいる。荷台には意識はあるものの動けない仲間たちと、恐怖で未だに震えが止まらないジェラールが乗せられていた。

「くそっ……くそっ……!」
ジェラールは己の無力さと屈辱に、何度も悪態をついた。
たかが辺境の農夫。そう侮っていた相手に、自分たちは赤子のようにひねられた。財産も、武器も、プライドも、すべてを奪われた。

彼らが命からがらテルマの街にたどり着いたのは、数日後のことだった。
ゴールデン商会のテルマ支店は、会頭直属の部下がこのような無残な姿で戻ってきたことに騒然となった。
ジェラールは支店長から借りた服を身にまとい、鏡に映る自分の姿を見て再び怒りに身を震わせた。

「このまま、引き下がれるか……!」
あの農夫、アルフォンス。エルフの女。ドワーフの女。そして銀色の狼と、謎のゴーレム軍団。
彼らの顔が脳裏に焼き付いて離れない。
武力で制圧するのは不可能だ。それはこの身をもって思い知らされた。ならば、別の手を使うまで。

「……そうだ。権力を使えばいい」

ジェラールは冷たい笑みを浮かべた。
このテルマ一帯を治めているのは、王家から派遣された代官、バルトーク子爵だ。そしてゴールデン商会は、日頃から多額の賄賂を渡し、この代官と懇意にしていた。

ジェラールはすぐさま代官の館へと向かい、バルトーク子爵との面会を取り付けた。
豪華な応接室で待っていると、やがて肥え太った中年男が姿を現した。贅沢な絹の服に身を包み、指には宝石の指輪をいくつもつけている。その腹黒い笑顔が、彼の腐敗した人格を物語っていた。

「やあ、ジェラール君。わざわざ訪ねてくるとは珍しい。何か、面白い儲け話でも持ってきたのかね?」
バルトーク代官はソファにどっかりと腰を下ろし、腹を揺らしながら言った。
「ええ、代官様。本日は、まさに代官様のお耳に入れておきたい、とっておきの情報がございまして」

ジェラールは作り物の営業スマイルを顔に貼り付け、話を切り出した。
彼は自分たちが襲われたという事実は伏せ、あくまで第三者からの情報という体で、アルフォンスの農園について語り始めた。

「テルマの街から一日ほど離れた渓谷地帯に、最近、奇妙な農園ができたと」
「ほう、農園?」
「はい。そこではどんな傷も一瞬で癒やすという、奇跡のポーションが生産されているとのこと。さらに、伝説の金属であるミスリルさえも、まるで野菜のように収穫できるのだとか」

ジェラールの言葉に、バルトーク代官の目が欲にぎらついた。
「……ポーションに、ミスリルだと? それは誠か?」
「ええ。我が商会の調査員が遠目から確認しておりますので、間違いございません。その農園は他に類を見ないほどの富を生み出す、まさに『黄金郷』なのです」

バルトーク代官は、ごくりと喉を鳴らした。
ポーションとミスリル。その二つがあれば、どれほどの富と権力を手にできるか。想像するだけで笑いが止まらなかった。

「その農園の主は、アルフォンスと名乗る若い男。それに、なぜかエルフとドワーフの女を侍らせ、土くれの人形を操って農作業をさせているとのこと。おそらく、何らかの邪法を用いているに違いありません」
ジェラールは巧みに嘘を織り交ぜ、アルフォンスを不審な魔術師であるかのように印象付けた。

「ふむ……。邪法使いの、怪しげな集団か。そして莫大な富。実にけしからんな」
バルトーク代官はわざとらしく顔をしかめた。だが、その瞳の奥は醜い欲望で爛々と輝いている。
「そのような者たちが、我が統治する土地で好き勝手なことをしているなど断じて許せん。領民の安全と秩序を守るのが、代官たる私の務めだからな」

大義名分はいくらでも作れる。
バルトーク代官は頭の中で計算を始めていた。
あの農園を、合法的に、かつ完全に自分のものにする方法を。

「ジェラール君。良い情報をくれた。礼を言うぞ」
「いえいえ。これも、日頃からお世話になっている代官様への、ささやかなご恩返しにございます」
二人の悪党は、互いに腹の中を探り合うような笑みを交わした。

ジェラールが退出した後、バルトーク代官はすぐに部下である役人を呼びつけた。
「オズワルド。お前、例の『開拓者支援法』の条文を覚えているな?」
「はっ。確か、未開拓地に入植した者に対し、最初の三年間は税を免除し、その土地の所有権を認める、というものでしたな」
オズワルドと呼ばれた、痩せて陰険な顔つきの役人が答える。

「そうだ。だが、その法律には続きがある。ただし書きを言ってみろ」
「はっ。『ただし、その土地から得られる収穫物や資源が、国家の安全保障に関わる、あるいは公共の利益を著しく損なうと判断された場合、領主は適切な管理、及び徴税を行う権利を有する』……と、なっております」
「うむ。その通りだ」

バルトーク代官は満足げに頷いた。
法律など、どうとでも解釈できる。奇跡のポーションも伝説のミスリルも、まさに『国家の安全保障に関わる』資源そのものだ。
これを口実にすれば、あの農園にどれだけ法外な税を課そうとも文句は言わせない。もし逆らえば、それは王家への反逆とみなすことができる。

「オズワルド。お前に命じる。兵を数名連れ、例の農園へ向かえ」
「はっ」
「そして、その農園の主、アルフォンスとやらに伝えろ。『貴様の活動は公共の利益を著しく損なう可能性がある。よって、これより当方がその生産活動を管理する。まずは、これまでの無申告期間の追徴課税として金貨百枚を支払え。加えて、今後生産されるポーションと鉱物はすべて我々に献上せよ』とな」

それはもはや税ですらなかった。ただの強奪だ。
金貨百枚など一介の農夫が支払える額ではない。生産物をすべて献上しろというのも、死ねと言っているのと同じだった。
初めから、相手に選択肢など与えるつもりはないのだ。

「もし、奴が支払いを拒めば?」
「その時はこう言え。『代官様の命令に逆らうは、すなわち王家に弓引くことと同じ。反逆者として一族郎党、この地で朽ち果てることになるぞ』と」
バルトーク代官は残忍な笑みを浮かべた。
「力で脅せば、田舎の若造などすぐに音を上げるわ。せいぜい、泣きながら慈悲を乞うのが関の山よ」

彼は自分が絶対的な強者であると信じて疑っていなかった。
一介の農夫が、領主である自分に逆らえるはずがない、と。

「承知いたしました。早速、手配いたします」
オズワルドは恭しく頭を下げると、部屋を退出していった。

一人残されたバルトーク代官は、上質なワインをグラスに注ぎ、その芳醇な香りを楽しんだ。
「黄金郷、か。ふふふ……。これで私も王都の大貴族の仲間入りだ」
彼の頭の中は、これから手に入るであろう莫大な富のことで、すでにいっぱいだった。

彼はまだ知らない。
自分たちが目をつけた『農夫』が、どれほど規格外の存在であるかを。
そして、自分たちの浅はかな欲望がやがて自らの身を滅ぼす破滅の引き金になるということを。

腐敗した代官の目が、ついに俺たちの静かな農園に向けられた。
ゴールデン商会という私的な暴力とは違う、国家権力という名のより大きな脅威が、刻一刻と迫りつつあった。
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