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第46話:伝説の金属『オリハルコン芋』
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「――オリハルコン芋」
俺が告げたその名前に、第五階層の静寂は一瞬、完全に凍りついた。
シルフィは美しい目をぱちくりとさせ、状況が理解できないといった表情で俺と巨大な黄金の塊を交互に見ている。
フェンリルは不思議そうに首を傾げた。
そして、リズベットは。
彼女は膝をついたまま、完全に動きを止めていた。その顔からはあらゆる表情が消え去り、まるで石像のように固まっている。
「……おい、リズベット? 大丈夫か?」
俺が心配になって声をかけると、彼女は錆びついたブリキ人形のように、ぎこちなく顔を上げた。
「……お頭」
その声はひどくかすれていた。
「今……なんて言った?」
「だから、『オリハルコン芋』だって」
俺がもう一度繰り返した瞬間だった。
リズベットの顔にみるみるうちに血の気が戻り、次の瞬間にはこれまで見たこともないほどの満面の笑みが弾けた。
「い、芋おおおおおおおおおおおおおおっ!?」
彼女の絶叫が、星屑の鉱床全体に木霊した。
「オリハルコンが芋だと!? 神々の金属が、畑で採れるジャガイモと同じだと!? そんな馬鹿な話があるかあああああああっ!」
彼女は腹を抱えて笑い出した。笑いすぎて涙まで流している。それはもはや狂喜の笑いだった。
「ひゃーっはっはっは! 最高だ! 最高じゃねえか、このダンジョンは! アタシの常識も、ドワーフの歴史も、全部根底からひっくり返してくれる!」
シルフィと俺は、その常軌を逸した喜びようにただただ呆然とするしかなかった。
どうやら最高の鍛冶師である彼女にとって、『伝説の金属が芋だった』という事実は、怒りや失望よりも、理解を超えた未知との遭遇に対する純粋な興奮と喜びを呼び起こしたらしかった。
ひとしきり笑い転げた後、リズベットはすっくと立ち上がった。その瞳にはもはや迷いはなく、鍛冶師としての燃えるような魂の炎だけが宿っていた。
「……決めたぜ、お頭」
彼女は真剣な顔で俺に向き直った。「アタシはこいつを最高の武具に打ち上げてみせる。芋だろうが、大根だろうが関係ねえ。こいつはアタシが出会った、最高の『素材』だ」
その言葉は力強く、そして揺るぎない覚悟に満ちていた。
俺はそんな彼女の姿を、心から頼もしく思った。
「ああ。頼んだぞ、リズベット」
「おうよ!」
俺たちは、この『オリハルコン芋』をどうやって収穫するか、という問題に直面した。
見た目の大きさからして、その質量は計り知れない。俺のスキルで持ち上げるにしても相当な魔力を消耗するだろう。
「……無理に全部引っこ抜く必要はないかもしれん」
俺はオリハルコン芋の根元を観察しながら言った。「こいつ、普通の芋と同じように、土の中で『子芋』を付けてるみたいだぞ」
俺が指差す先。肥沃な土を少し掘り返してみると、そこには赤ん坊の頭ほどの大きさの、同じ黄金色に輝く塊がいくつも連なっていた。
「なるほど! 親芋を育てながら、子芋だけを収穫していくってわけかい! まさに持続可能なオリハルコン農業だな!」
リズベットが興奮気味に言う。
俺たちは早速その子芋の収穫に取り掛かった。
俺がスキル【神の農園】で周囲の土を柔らかくすると、子芋は面白いようにスポン、スポンと抜けていく。
一つ一つは小さいながらも、その重さは見た目からは考えられないほどだ。中身はミスリルが凝縮された、とんでもない代物だった。
俺たちは持ってきた袋がパンパンになるまで、十数個の子芋を収穫した。
それでも親芋の周りには、まだ無数の子芋が眠っているようだった。この第五階層は、文字通り無限に伝説の金属を生み出し続ける、奇跡の畑なのだ。
「……すごい」
これまでリズベットの興奮を少し引き気味に見ていたシルフィも、袋に詰められた黄金の芋を前にして感嘆のため息を漏らした。「これだけのオリハルコンがあれば、アルカディア村の防衛力はもはや一つの国、いえ、大陸最強のレベルにまで達するかもしれません」
「ああ。だがその分、狙われる危険も増えるということだ」
俺は気を引き締めた。「このことは絶対に、村の者たちにも内密にする。知っているのは俺たち三人(と一匹)だけだ」
シルフィとリズベットも真剣な顔で頷いた。
このオリハルコンは俺たちの村が持つ最大の切り札、そして最大の秘密。
その存在が世に知れ渡れば、もはや代官や一商会のレベルではない。帝国や王国、大陸中のあらゆる勢力が血眼になってこれを奪いに来るだろう。
俺たちの穏やかなスローライフは、その瞬間に終わりを告げる。
俺たちは収穫したオリハ-ルコン芋を厳重に布で包み、他の素材と混ぜて分からないようにカモフラージュすると、第五階層を後にした。
地上に戻る道すがら、リズベットはずっとこれから作るであろうオリハルコン製の武具について、夢見心地で語り続けていた。
「まずはお頭の『ガイアズ・エッジ』を、オリハルコンで打ち直す。究極の万能農具兼、伝説の聖剣だ。次にシルフィの弓。オリハルコンを芯に使えば魔力の増幅率も矢の速度も今の比じゃなくなるぜ。そしてアタシのハンマーは……」
彼女の計画を聞いているだけで、俺たちの力がこれからどれほど飛躍的に向上していくのかが分かり、胸が高鳴った。
アルカディア村に戻った俺たちを、村人たちはいつものように温かい笑顔で迎えてくれた。
「お帰りなさい、領主様!」
「今日の収穫はどうでしたかい?」
彼らは俺たちが地下で、世界の歴史を塗り替えるほどのお宝を発見してきたことなど知る由もない。
俺はそんな彼らの笑顔を見ながら、改めて心に誓った。
このオリハルコンの力は、この村を、この仲間たちを守るためだけに使おう。
決して侵略や支配のために使うのではない。
俺たちの理想郷を誰にも脅させないための、絶対的な『盾』として。
工房の炉に、初めてオリハルコンがくべられる。
その神々しい輝きは、アルカディア村の、そして俺たちの運命が新たな、そしてより壮大なステージへと足を踏み入れたことを静かに告げていた。
俺たちの国造りは、ついに神々の領域へと手をかけようとしていたのだ。
俺が告げたその名前に、第五階層の静寂は一瞬、完全に凍りついた。
シルフィは美しい目をぱちくりとさせ、状況が理解できないといった表情で俺と巨大な黄金の塊を交互に見ている。
フェンリルは不思議そうに首を傾げた。
そして、リズベットは。
彼女は膝をついたまま、完全に動きを止めていた。その顔からはあらゆる表情が消え去り、まるで石像のように固まっている。
「……おい、リズベット? 大丈夫か?」
俺が心配になって声をかけると、彼女は錆びついたブリキ人形のように、ぎこちなく顔を上げた。
「……お頭」
その声はひどくかすれていた。
「今……なんて言った?」
「だから、『オリハルコン芋』だって」
俺がもう一度繰り返した瞬間だった。
リズベットの顔にみるみるうちに血の気が戻り、次の瞬間にはこれまで見たこともないほどの満面の笑みが弾けた。
「い、芋おおおおおおおおおおおおおおっ!?」
彼女の絶叫が、星屑の鉱床全体に木霊した。
「オリハルコンが芋だと!? 神々の金属が、畑で採れるジャガイモと同じだと!? そんな馬鹿な話があるかあああああああっ!」
彼女は腹を抱えて笑い出した。笑いすぎて涙まで流している。それはもはや狂喜の笑いだった。
「ひゃーっはっはっは! 最高だ! 最高じゃねえか、このダンジョンは! アタシの常識も、ドワーフの歴史も、全部根底からひっくり返してくれる!」
シルフィと俺は、その常軌を逸した喜びようにただただ呆然とするしかなかった。
どうやら最高の鍛冶師である彼女にとって、『伝説の金属が芋だった』という事実は、怒りや失望よりも、理解を超えた未知との遭遇に対する純粋な興奮と喜びを呼び起こしたらしかった。
ひとしきり笑い転げた後、リズベットはすっくと立ち上がった。その瞳にはもはや迷いはなく、鍛冶師としての燃えるような魂の炎だけが宿っていた。
「……決めたぜ、お頭」
彼女は真剣な顔で俺に向き直った。「アタシはこいつを最高の武具に打ち上げてみせる。芋だろうが、大根だろうが関係ねえ。こいつはアタシが出会った、最高の『素材』だ」
その言葉は力強く、そして揺るぎない覚悟に満ちていた。
俺はそんな彼女の姿を、心から頼もしく思った。
「ああ。頼んだぞ、リズベット」
「おうよ!」
俺たちは、この『オリハルコン芋』をどうやって収穫するか、という問題に直面した。
見た目の大きさからして、その質量は計り知れない。俺のスキルで持ち上げるにしても相当な魔力を消耗するだろう。
「……無理に全部引っこ抜く必要はないかもしれん」
俺はオリハルコン芋の根元を観察しながら言った。「こいつ、普通の芋と同じように、土の中で『子芋』を付けてるみたいだぞ」
俺が指差す先。肥沃な土を少し掘り返してみると、そこには赤ん坊の頭ほどの大きさの、同じ黄金色に輝く塊がいくつも連なっていた。
「なるほど! 親芋を育てながら、子芋だけを収穫していくってわけかい! まさに持続可能なオリハルコン農業だな!」
リズベットが興奮気味に言う。
俺たちは早速その子芋の収穫に取り掛かった。
俺がスキル【神の農園】で周囲の土を柔らかくすると、子芋は面白いようにスポン、スポンと抜けていく。
一つ一つは小さいながらも、その重さは見た目からは考えられないほどだ。中身はミスリルが凝縮された、とんでもない代物だった。
俺たちは持ってきた袋がパンパンになるまで、十数個の子芋を収穫した。
それでも親芋の周りには、まだ無数の子芋が眠っているようだった。この第五階層は、文字通り無限に伝説の金属を生み出し続ける、奇跡の畑なのだ。
「……すごい」
これまでリズベットの興奮を少し引き気味に見ていたシルフィも、袋に詰められた黄金の芋を前にして感嘆のため息を漏らした。「これだけのオリハルコンがあれば、アルカディア村の防衛力はもはや一つの国、いえ、大陸最強のレベルにまで達するかもしれません」
「ああ。だがその分、狙われる危険も増えるということだ」
俺は気を引き締めた。「このことは絶対に、村の者たちにも内密にする。知っているのは俺たち三人(と一匹)だけだ」
シルフィとリズベットも真剣な顔で頷いた。
このオリハルコンは俺たちの村が持つ最大の切り札、そして最大の秘密。
その存在が世に知れ渡れば、もはや代官や一商会のレベルではない。帝国や王国、大陸中のあらゆる勢力が血眼になってこれを奪いに来るだろう。
俺たちの穏やかなスローライフは、その瞬間に終わりを告げる。
俺たちは収穫したオリハ-ルコン芋を厳重に布で包み、他の素材と混ぜて分からないようにカモフラージュすると、第五階層を後にした。
地上に戻る道すがら、リズベットはずっとこれから作るであろうオリハルコン製の武具について、夢見心地で語り続けていた。
「まずはお頭の『ガイアズ・エッジ』を、オリハルコンで打ち直す。究極の万能農具兼、伝説の聖剣だ。次にシルフィの弓。オリハルコンを芯に使えば魔力の増幅率も矢の速度も今の比じゃなくなるぜ。そしてアタシのハンマーは……」
彼女の計画を聞いているだけで、俺たちの力がこれからどれほど飛躍的に向上していくのかが分かり、胸が高鳴った。
アルカディア村に戻った俺たちを、村人たちはいつものように温かい笑顔で迎えてくれた。
「お帰りなさい、領主様!」
「今日の収穫はどうでしたかい?」
彼らは俺たちが地下で、世界の歴史を塗り替えるほどのお宝を発見してきたことなど知る由もない。
俺はそんな彼らの笑顔を見ながら、改めて心に誓った。
このオリハルコンの力は、この村を、この仲間たちを守るためだけに使おう。
決して侵略や支配のために使うのではない。
俺たちの理想郷を誰にも脅させないための、絶対的な『盾』として。
工房の炉に、初めてオリハルコンがくべられる。
その神々しい輝きは、アルカディア村の、そして俺たちの運命が新たな、そしてより壮大なステージへと足を踏み入れたことを静かに告げていた。
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