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第47話:リズベット、歓喜の絶叫
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アルカディア村に戻ったその日の夜。
リズベットの工房だけが煌々と明かりを灯していた。普段なら日没と共に作業を終える彼女が、この日は寝る間も惜しんで炉の前に立っている。
俺とシルフィは心配になって、夜食の差し入れを持って工房を訪れた。
工房の中はこれまでにないほどの熱気と、そして神聖さすら感じるほどの緊張感に満ちていた。
炉の火は第四階層で手に入れたサラマンダーの燃え殻を燃料にしたことで、白に近い青色に輝いている。その極めて高い温度が、周囲の空気を陽炎のように揺らめかせていた。
そして、その炉の中。
金床の上に鎮座するのは、第五階層から持ち帰った黄金色の子芋――オリハルコンだった。
青白い炎に焼かれてもそれは溶けることも赤熱することもなく、ただ内側から発する虹色の輝きをますます強めている。まるで自らの意志で、鍛えられる時を待っているかのようだった。
リズベットは上半身裸になり、汗だくで炉を見つめていた。その引き締まった筋肉にはびっしりと汗が光っている。彼女の瞳は獲物を見据える獣のように、あるいは神に祈りを捧げる神官のように、真剣そのものだった。
俺たちが来たことにも気づいていないようだった。
「……そろそろ、だな」
やがて彼女はぽつりと呟いた。
オリハルコンが最も輝きを増した瞬間。彼女はそのタイミングを職人としての長年の勘で見極めたのだ。
彼女は工房の隅に置いてあった一際巨大なハンマーを両手で掴んだ。それは彼女が自分のためにミスリルを惜しみなく使って鍛え上げた、秘蔵の逸品『ウォーロードハンマー』。
「……いくぜええええええっ!」
気合一閃。
リズベットは雄叫びと共にその巨大なハンマーを振り上げた。
そして渾身の力を込めて、金床の上のオリハルコンへと振り下ろした。
キイイイイイイイイインッ!
鼓膜が破れんばかりの甲高い金属音。
それはこれまで聞いたどんな音とも違う、清らかでどこまでも伸びていく神聖な音色だった。
ハンマーがオリハルコンに当たった瞬間、工房全体が閃光に包まれ、俺とシルフィは思わず目を閉じた。
光が収まり、恐る恐る目を開ける。
そこには信じられない光景が広がっていた。
リズベットはハンマーを振り下ろした体勢のまま固まっている。
そして彼女のウォーロードハンマーは、オリハルコンに当たった箇所から無惨にも粉々に砕け散っていたのだ。ミスリル製の、あれほど頑丈だったはずのハンマーが。
対するオリハルコンは傷一つついていない。
それどころか叩かれた箇所が、わずかに、本当にわずかに形を変えていた。凹んだのではない。リズベットが叩いた力と意志に応えるかのように、より洗練された美しい曲線へと自ら変形したかのようだった。
「……は」
リズベットの口から乾いた声が漏れた。
「……ははっ」
やがてその声は笑いに変わった。
「はーっはっはっはっは! そうか、そうだよな! 神々の金属が、アタシごときの力で簡単に言うことを聞くわけがねえよな!」
彼女は絶望していなかった。
それどころかその瞳は、これまで以上に輝いていた。
まるで途方もなく手強いが、最高の好敵手に出会えた子供のように。
「分かったぜ、お前さんの扱い方がよ」
リズベットは壊れたハンマーを放り投げると、今度は素手でまだ熱を帯びるオリハルコンを掴んだ。
「お前は力でねじ伏せるんじゃねえ。対話し、語りかけ、お互いを理解し合って初めて最高の形になるんだな!」
彼女はまるでオリハルコンに話しかけるように、そう言った。
そして彼女は再び炉の前に立った。
今度はハンマーを手にしない。
彼女は目を閉じ、深く、深く精神を集中させていく。
その姿はもはやただの鍛冶師ではなかった。
大地と金属と炎の精霊に語りかける、ドワーフ族の伝説に伝わる『神匠(ゴッドスミス)』そのものだった。
彼女の体から黄金色のオーラが立ち上り始める。
それは彼女の鍛冶師としての魂の輝き。
そのオーラが炉の中のオリハルコンと共鳴するように結びついていく。
カン!
ハンマーの音ではない。
リズベットの魂がオリハルコンを叩く音だ。
音と共にオリハルコンは自らの形をゆっくりと、しかし着実に変えていく。
それはもはや鍛冶ではなかった。
一つの魂がもう一つの魂に理想の姿を語りかけ、共に新たな形を創造していく神聖な儀式。
俺とシルフィは、そのあまりに幻想的で荘厳な光景を息をすることも忘れ、ただただ見守っていた。
リズベットという一人のドワーフが、伝説の領域へと足を踏み入れるその歴史的な瞬間を。
夜が明け、朝の光が工房に差し込む頃。
その儀式は終わりを告げた。
リズベットの前には一本の剣が静かに浮かんでいた。
それはもはや剣という物質を超えた、光そのものだった。
黄金色の刀身はそれ自体が太陽のように輝き、柄の部分には星屑の鉱床で見た宝石たちがまるで生きているかのように埋め込まれている。
それは俺の『ガイアズ・エッジ』を、オリハルコンで再構築したもの。
農具としての機能も残しつつ、その本質は神々が振るうにふさわしい究極の聖剣へと昇華されていた。
「……できた」
リズベットは全身の力を使い果たしたように、その場に座り込んだ。だがその顔には一点の曇りもない最高の笑顔が浮かんでいた。「アタシの、生涯最高の傑作だ……」
その時だった。
彼女の脳裏に、俺と同じようにあの荘厳な声が響き渡った。
『汝の技、神域に至れり』
『汝の称号は、これより【神匠】となる』
リズベットの体が眩い光に包まれる。
それは彼女がこの世界でただ一人の、伝説の職人として認められた証だった。
「……へっ。神様もなかなか粋なことをしてくれるじゃねえか」
光が収まった後、彼女は照れくさそうに笑った。
こうしてアルカディア村に最初の『国宝』が誕生した。
そして俺たちの仲間の一人が、神の領域へと至った。
俺たちの村の力はもはや人間の国がどうこうできるレベルを、静かに、しかし確実に超え始めていた。
その事実がやがてどのような運命を俺たちにもたらすのか。
俺たちはまだ、その壮大な物語の序章に立っているに過ぎなかった。
リズベットの工房だけが煌々と明かりを灯していた。普段なら日没と共に作業を終える彼女が、この日は寝る間も惜しんで炉の前に立っている。
俺とシルフィは心配になって、夜食の差し入れを持って工房を訪れた。
工房の中はこれまでにないほどの熱気と、そして神聖さすら感じるほどの緊張感に満ちていた。
炉の火は第四階層で手に入れたサラマンダーの燃え殻を燃料にしたことで、白に近い青色に輝いている。その極めて高い温度が、周囲の空気を陽炎のように揺らめかせていた。
そして、その炉の中。
金床の上に鎮座するのは、第五階層から持ち帰った黄金色の子芋――オリハルコンだった。
青白い炎に焼かれてもそれは溶けることも赤熱することもなく、ただ内側から発する虹色の輝きをますます強めている。まるで自らの意志で、鍛えられる時を待っているかのようだった。
リズベットは上半身裸になり、汗だくで炉を見つめていた。その引き締まった筋肉にはびっしりと汗が光っている。彼女の瞳は獲物を見据える獣のように、あるいは神に祈りを捧げる神官のように、真剣そのものだった。
俺たちが来たことにも気づいていないようだった。
「……そろそろ、だな」
やがて彼女はぽつりと呟いた。
オリハルコンが最も輝きを増した瞬間。彼女はそのタイミングを職人としての長年の勘で見極めたのだ。
彼女は工房の隅に置いてあった一際巨大なハンマーを両手で掴んだ。それは彼女が自分のためにミスリルを惜しみなく使って鍛え上げた、秘蔵の逸品『ウォーロードハンマー』。
「……いくぜええええええっ!」
気合一閃。
リズベットは雄叫びと共にその巨大なハンマーを振り上げた。
そして渾身の力を込めて、金床の上のオリハルコンへと振り下ろした。
キイイイイイイイイインッ!
鼓膜が破れんばかりの甲高い金属音。
それはこれまで聞いたどんな音とも違う、清らかでどこまでも伸びていく神聖な音色だった。
ハンマーがオリハルコンに当たった瞬間、工房全体が閃光に包まれ、俺とシルフィは思わず目を閉じた。
光が収まり、恐る恐る目を開ける。
そこには信じられない光景が広がっていた。
リズベットはハンマーを振り下ろした体勢のまま固まっている。
そして彼女のウォーロードハンマーは、オリハルコンに当たった箇所から無惨にも粉々に砕け散っていたのだ。ミスリル製の、あれほど頑丈だったはずのハンマーが。
対するオリハルコンは傷一つついていない。
それどころか叩かれた箇所が、わずかに、本当にわずかに形を変えていた。凹んだのではない。リズベットが叩いた力と意志に応えるかのように、より洗練された美しい曲線へと自ら変形したかのようだった。
「……は」
リズベットの口から乾いた声が漏れた。
「……ははっ」
やがてその声は笑いに変わった。
「はーっはっはっはっは! そうか、そうだよな! 神々の金属が、アタシごときの力で簡単に言うことを聞くわけがねえよな!」
彼女は絶望していなかった。
それどころかその瞳は、これまで以上に輝いていた。
まるで途方もなく手強いが、最高の好敵手に出会えた子供のように。
「分かったぜ、お前さんの扱い方がよ」
リズベットは壊れたハンマーを放り投げると、今度は素手でまだ熱を帯びるオリハルコンを掴んだ。
「お前は力でねじ伏せるんじゃねえ。対話し、語りかけ、お互いを理解し合って初めて最高の形になるんだな!」
彼女はまるでオリハルコンに話しかけるように、そう言った。
そして彼女は再び炉の前に立った。
今度はハンマーを手にしない。
彼女は目を閉じ、深く、深く精神を集中させていく。
その姿はもはやただの鍛冶師ではなかった。
大地と金属と炎の精霊に語りかける、ドワーフ族の伝説に伝わる『神匠(ゴッドスミス)』そのものだった。
彼女の体から黄金色のオーラが立ち上り始める。
それは彼女の鍛冶師としての魂の輝き。
そのオーラが炉の中のオリハルコンと共鳴するように結びついていく。
カン!
ハンマーの音ではない。
リズベットの魂がオリハルコンを叩く音だ。
音と共にオリハルコンは自らの形をゆっくりと、しかし着実に変えていく。
それはもはや鍛冶ではなかった。
一つの魂がもう一つの魂に理想の姿を語りかけ、共に新たな形を創造していく神聖な儀式。
俺とシルフィは、そのあまりに幻想的で荘厳な光景を息をすることも忘れ、ただただ見守っていた。
リズベットという一人のドワーフが、伝説の領域へと足を踏み入れるその歴史的な瞬間を。
夜が明け、朝の光が工房に差し込む頃。
その儀式は終わりを告げた。
リズベットの前には一本の剣が静かに浮かんでいた。
それはもはや剣という物質を超えた、光そのものだった。
黄金色の刀身はそれ自体が太陽のように輝き、柄の部分には星屑の鉱床で見た宝石たちがまるで生きているかのように埋め込まれている。
それは俺の『ガイアズ・エッジ』を、オリハルコンで再構築したもの。
農具としての機能も残しつつ、その本質は神々が振るうにふさわしい究極の聖剣へと昇華されていた。
「……できた」
リズベットは全身の力を使い果たしたように、その場に座り込んだ。だがその顔には一点の曇りもない最高の笑顔が浮かんでいた。「アタシの、生涯最高の傑作だ……」
その時だった。
彼女の脳裏に、俺と同じようにあの荘厳な声が響き渡った。
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それは彼女がこの世界でただ一人の、伝説の職人として認められた証だった。
「……へっ。神様もなかなか粋なことをしてくれるじゃねえか」
光が収まった後、彼女は照れくさそうに笑った。
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俺たちの村の力はもはや人間の国がどうこうできるレベルを、静かに、しかし確実に超え始めていた。
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