スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第48話:【幕間】竜の牙③ -亀裂-

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結局、「竜の牙」はギルドからの降格勧告を受け入れざるを得なかった。
Aランクという栄光の座からBランクへと転落。その事実は、パーティの名声と収入に致命的な打撃を与えた。
高難易度の依頼は回ってこなくなり、報酬も激減した。かつて彼らが拠点としていた王都の一等地の宿屋も追い出され、今では場末の安宿が彼らのねぐらとなっていた。

「くそっ……! なぜ俺たちがこんな目に……!」
その日も、ガイウスは薄汚れた酒場のテーブルで安物のエールを呷りながら荒れていた。彼の声にはかつての自信に満ちた響きはなく、ただ焦燥と苛立ちだけが滲んでいる。

テーブルを囲む他のメンバーは、そんな彼をなだめようともせず、ただ黙って自分のグラスを傾けていた。ボルガンは兜の凹みを指でなぞり、リオネルは癒えない腕の傷をさする。彼らの間にはもはや仲間としての温かい空気はなく、互いへの不信と諦観がよどんだ空気のように漂っていた。

「次の依頼だ! 次こそはBランクなんぞ、俺たちの実力じゃ生ぬるいということを見せつけてやる!」
ガイウスが自分を鼓舞するように叫んだ。
彼らが次に受けたのは、「呪われた遺跡のスケルトンナイト討伐」という依頼。Bランクの中でも特に連携が重要とされる、厄介な任務だった。

遺跡の内部はひやりとした空気が流れ、カビと死の匂いが満ちていた。
暗い通路を進んでいくとやがて広間のような場所に出た。そこで青白い鬼火をその身に宿した三体のスケルトンナイトが、錆びついた剣を構えて彼らを待ち受けていた。

「よし、作戦通りに行くぞ! ボルガンが前衛で二体を引きつけ、俺が一体を仕留める! リオネルはその間、援護魔法に徹しろ!」
ガイウスが指示を飛ばす。それは、かつての彼らであれば目をつぶっていてもこなせるはずの基本的な戦術だった。
だが、歯車はもはや噛み合わなかった。

「うおおおっ!」
ボルガンが雄叫びを上げて突進し、二体のスケルトンナイトの攻撃を受け止める。
ガキン! ガキン!
重い剣が彼の盾に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
ボルガンはその衝撃に耐えきれず、わずかに体勢を崩した。メンテナンス不足の盾は衝撃を完全に殺しきれず、彼の腕に直接的なダメージを与える。

「何をやっている、ボルガン! しっかり押さえろ!」
ガイウスが罵声を浴びせながら、残りの一体に斬りかかった。
だが彼の剣筋にも、以前のような鋭さはない。焦りからくる力任せの攻撃は、スケルトンナイトの老練な剣さばきの前にことごとく受け流されてしまう。

「リオネル! 援護しろ!」
「は、はい! 穿て、光の矢(ライトアロー)!」
リオネルが魔法を放つが、その威力は明らかに精彩を欠いていた。癒えない傷の痛みが彼の集中力を削いでいるのだ。光の矢はスケルトンナイトの硬い骨鎧に当たって、虚しく霧散した。

まずい。
戦況は完全に膠着していた。いや、じりじりとこちらが不利になっている。
スケルトンナイトは疲労を知らない。だが、こちらは消耗していく一方だ。

「……聖なる光よ」
その時、後方でセレスティアが静かに詠唱を始めた。彼女の周囲に温かい光が集まっていく。
だが彼女が回復魔法の対象に選んだのは、傷を負い必死に敵を食い止めているボルガンやリオネルではなかった。
「ガイウス様……! あなたに聖なる加護を!」
光はガイウス一人にだけ降り注いだ。

「なっ……!」
ボルガンとリオネルが、信じられないという顔でセレスティアを見た。
「セレスティア様!? なぜ俺たちには……!」
「ガイウス様こそがこのパーティの要。彼の力が最大限に発揮されなければ、勝利はございません」
セレスティアは穏やかな微笑みを浮かべたまま、冷徹に言い放った。
その言葉は、パーティ内にあったかろうじて繋がっていた最後の糸を、無慈悲に断ち切った。

「うおおおおっ!」
セレスティアの加護を受け、一時的に力を増したガイウスが力任せにスケルトンナイトの一体を打ち砕いた。
だが、それは焼け石に水だった。
彼が一体を倒している間にボルガンは盾を弾き飛ばされ、リオネルはもう一体のスケルト-ンナイトの剣によって肩を深く斬りつけられていた。

「ぐあああっ!」
リオネルの悲鳴。
戦線は完全に崩壊した。
「ちっ……! 撤退だ!」
ガイウスは苦々しく舌打ちすると、負傷したリオネルを担ぎ、遺跡から逃げるように撤退した。

依頼はまたしても失敗。
安宿に戻った彼らの間には、もはや口を利く者はなかった。重く冷たい沈黙が、すべてを支配していた。
その沈黙を破ったのはボルガンだった。

「……もう、終わりだ」
彼は静かに、しかしはっきりとした口調で言った。「俺はこのパーティを抜ける」
「なんだと……!?」
ガイウスが彼を睨みつける。
「聞こえなかったのか? あんたにはもうついていけねえと言ったんだ」
ボルガンはガイウスの目を真っ直ぐに見返した。「今日の戦いでよく分かった。あんたは俺たちを仲間だなんて思っちゃいねえ。ただの、自分の栄光のための駒だとしか見ていない」

「俺もだ」
リオネルも震える声で続けた。「俺も抜ける。こんな仲間を見捨てるようなパーティに未来はない」

二人の突然の離反宣言。
ガイウスの顔が怒りと屈辱に歪んだ。
「……貴様ら、この俺を裏切るというのか! 俺がいたからこそ、貴様らはAランクにまでなれたというのに!」
「逆だ、ガイウス」
ボルガンは静かに首を横に振った。「俺たちがAランクでいられたのは、あんたがいたからじゃねえ。……あいつがいたからだ」

ついに、禁句が口にされた。
「アルフォンスが、俺たちの見えないところで全てを支えてくれていたんだ。装備の管理も、ポーションの準備も、何もかも。俺たちはあいつの働きの上で、ただ戦っていただけだったんだよ。あんたは、その一番大事な土台を自分のプライドのためだけに叩き壊したんだ!」

「……黙れ」
ガイウスの口から低い声が漏れた。
「アルフォンスの名前を、二度と俺の前で出すなあああっ!」
彼はテーブルを蹴り倒し、剣の柄に手をかけた。
仲間同士が刃を向け合う。
もはや修復不可能な亀裂だった。

その時、セレスティアがすっと二人の間に割って入った。
「おやめなさい。仲間同士で争うなど、見苦しいですわ」
彼女はいつもの聖女の仮面を被って、穏やかに微笑んでいる。
だがその瞳の奥は、このパーティの崩壊をまるで面白い芝居でも見るかのように、冷ややかに観察していた。

その夜、ボルガンとリオネルは言葉通り、黙って宿から姿を消した。
「竜の牙」は事実上、崩壊したのだ。

広い酒場に一人残されたガイウスは、エールを水のように呷っていた。
孤独だった。
仲間は去り、栄光も失った。残されたのは、地に落ちたプライドとどうしようもない焦燥感だけだ。
彼は虚ろな目でグラスの底を見つめながら、何度も同じ言葉を呟いていた。

「アルフォンス……。あの役立たずさえいなければ、俺は……俺は……」

彼の凋落は、まだその序章に過ぎなかった。
本当の絶望はこれから、ゆっくりと、しかし確実に彼の心を蝕んでいくことになる。
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