スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第49話:初の収穫祭

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アルカディア村に実りの秋が訪れた。
俺たちがこの地にやってきてから初めての収穫期。広大な畑には黄金色の小麦が波打ち、カボチャや芋が土を持ち上げるほどに大きく育っている。それは俺たちのこれまでの苦労が、豊かな実りとして結実した祝福の光景だった。

「これだけの収穫、皆で祝わない手はないでしょう」
村の長老であるオーギュストがそう提案した。
「我々がこの地で得た恵みに感謝し、そして我々の村の誕生と発展を祝う、第一回の『収穫祭』を開催するのです」
その提案に村の誰もが賛成した。代官の圧政下では収穫は喜びではなく、搾取されるための苦しみでしかなかった。心から収穫を祝い、分かち合う。それは彼らが長年忘れていた人間らしい営みだった。

そして収穫祭の当日。
アルカディア村は朝から温かい活気と人々の笑顔に満ち溢れていた。
村の中央広場には無数の屋台が立ち並ぶ。オーギュストの食堂は採れたての野菜とダンジョン産のキノコをふんだんに使った『アルカディア・シチュー』を大鍋で振る舞い、その芳醇な香りが広場全体に漂っていた。
パン屋は収穫したばかりの新小麦で焼いたパンを山と積み上げ、子供たちが嬉しそうにそれに齧り付いている。

「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! アタシが鍛えた最新式の農具だよ! 切れ味は保証付きだ!」
リズベットの工房の前では、彼女と弟子たちが主催する『農具・武具展示即売会』が開かれていた。ミスリルを混ぜ込んだクワやシャベルは、その驚異的な性能から飛ぶように売れていく。
工房の隣では、なぜか『ゴンスケ対抗・丸太運びレース』なる謎の催しも行われており、村人たちが自分の畑の担当ゴンスケに声援を送って盛り上がっていた。

シルフィの診療所の前では『薬草市』が開かれていた。
彼女は村の女性たちと共に、疲労回復に効くハーブティーや子供でも飲める甘い咳止めシロップなどを無料で振る舞っている。その周りには健康の相談をする老人や、子供を連れた母親たちの輪ができていた。彼女はもはやこの村にとってなくてはならない癒やしの存在だった。

俺は領主として、そんな村の様子をゆっくりと見て回っていた。
すれ違う誰もが俺に笑顔で挨拶をしてくれる。
「領主様! このシチュー、絶品ですよ!」
「アルフォンス様のおかげで、最高の収穫ができました!」
彼らの屈託のない笑顔と感謝の言葉。それが俺にとっては何よりの報酬だった。

俺はシルフィの薬草市の片隅で、彼女が淹れてくれたハーブティーを飲んでいた。
「すごい賑わいだ」
「ええ。皆、本当に楽しそうです。ここが彼らの本当の故郷になったのですね」
シルフィは子供たちの頭を優しく撫でながら、穏やかに微笑んだ。その横顔は陽光を浴びて、聖女のように輝いて見えた。

「よお、お頭! シルフィ! 何してやがんでい!」
そこへ顔を真っ赤にしたリズベットが、大きな酒樽を担いでやってきた。どうやらもうかなり飲んでいるらしい。
「こんなめでたい日にしっぽりしてんじゃねえ! ほら、お頭も飲むぞ!」
彼女は俺とシルフィの前に木のジョッキをドンと置いた。
「私は結構です」と優雅に断るシルフィの横で、俺はそのジョッキを受け取った。ドワーフの作った芳醇なエールだった。

俺とリズベット、そしてシルフィ。
種族も育った環境も違う俺たちが、こうして一つの村で同じ収穫を祝い、笑い合っている。
追放されたあの日には想像もできなかった光景だった。
俺は、この温かい日常のなんと尊いことかと胸がいっぱいになった。

陽が落ち夜になると、祭りはさらに熱を帯びた。
広場の中央には巨大なキャンプファイヤーが焚かれ、その周りで村の音楽好きたちが楽器を奏で始めた。陽気な音楽に合わせて人々は自然と輪になり、踊り出す。
人間もエルフもドワーフも、元兵士も元農民も。
ここではそんな肩書きなど何の意味も持たない。誰もがただの『アルカディアの住民』として手を取り合っている。

俺は皆に促され、輪の中心に立った。
そして領主として、短いスピーチを行った。
「皆、今日は最高の収穫祭だ。この豊かな実りは、ここにいる全員の力で得たものだ。俺一人のものじゃない。このアルカディアは皆の家だ。これからも共に笑い、共に働き、この理想郷をもっと素晴らしい場所に育てていこう!」

俺の言葉に、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
その歓声を聞きながら、俺は静かに輪から抜け出し、少し離れた小高い丘からその光景を眺めていた。
炎に照らされた百人近い人々の笑顔。
俺が守りたかったものは、これだ。
この何気ない、温かい日常の幸せ。
そのために俺は領主になったのだ。

「一人で格好つけてるんじゃないわよ」
不意に後ろからリズベットの声がした。
「ええ。主役が輪の中にいなくてどうするのですか」
シルフィも隣に立って優しく微笑んでいる。
三人と一匹。アルカディアの最初の住民。
俺たちは言葉もなくしばらくの間、眼下に広がる自分たちの村を、自分たちが作り上げた楽園をただ黙って見つめていた。
平穏な、そして完璧な一夜だった。

だが、その完璧な光景を冷たい瞳で見つめる者がいることに、俺たちはまだ気づいていなかった。

祭りの喧騒から遠く離れた、アルカディア村を囲む壁の外。深い森の闇の中。
一本の木の枝に音もなく一人の人影が佇んでいた。
全身を奇妙な紋様が描かれた黒いローブで覆い、その顔は深いフードの影に隠れて見えない。ただその影の奥から覗く瞳だけが、獲物を見定める蛇のように冷たく村の光を見つめていた。

その人物は村から溢れ出る、強大で純粋な生命エネルギーの奔流を、その肌で感じ取っていた。
それは大地そのものの魔力と、百人近い人々の幸福な感情が混じり合った極上の『贄』の匂いだった。

「……見つけた」
フードの奥から、乾いた性別の分からない声が漏れた。
「これほどの生命力……。これほどの魂の輝き……。我が主、邪神様の復活の儀式に、これ以上の供物はない……」

黒いローブの人物は、その口元に歪んだ残忍な笑みを浮かべた。
アルカディアの平和な収穫祭の夜。
その賑わいの裏で、世界を揺るがす新たな脅威が、静かに、そして確実にその牙を研ぎ始めていた。
忍び寄る影の存在に、まだ誰も気づいてはいなかった。
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