スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

文字の大きさ
56 / 75

第56話:魔人ガイウス襲来(再)

しおりを挟む
アルカディア村が邪教団という見えざる敵に対して、村全体で立ち向かう覚悟を決めてから数週間が過ぎた。
セレスティアからの次の接触はまだなかった。だが、その不気味な沈黙は嵐の前の静けさのように、俺たちの心に常に緊張の糸を張らせていた。

俺たちはその時間を使って、着々と防備を固めていった。
俺が構築した大地の結界は、聖銀樹の成長と共に日に日にその強度を増している。リズベットが開発した対魔術兵装は、ゴンスケ部隊と村の義勇軍の標準装備となった。シルフィは浄化のポーションや、邪悪な存在の接近を知らせる感知薬など、新たな対抗策を次々と生み出していた。
村はもはやただの理想郷ではない。邪悪を討ち滅ぼすための聖なる要塞へと、その姿を変えつつあった。

そんなある夜。
村の中央にそびえる聖銀樹が突如として、警告を告げるかのようにその銀色の葉を激しくざわめかせた。同時に、シルフィが開発した感知薬が鮮やかな赤色に変化する。

「……来たか!」
俺は領主の館から飛び出した。
ほぼ同時にシルフィとリズベットも、それぞれの場所から駆けつけてくる。
「アルフォンス! 結界の外、西の森に極めて強大な邪悪な反応があります!」
シルフィが緊迫した声で叫ぶ。

俺の【神の農園】スキルも、その存在を明確に捉えていた。
それは以前ガイウスが放っていた禍々しさを遥かに凌駕する、絶望的なまでに濃密な憎悪と破壊の塊。
だが、その気配の『質』には覚えがあった。

「……まさか」

俺たちは壁の上に駆け上がった。
そして闇に包まれた西の森を見つめる。
その中心部が不気味な赤黒い光に染まり、大地が地響きを立てて揺れ始めた。

ズン……ズン……!

巨大な何かがこちらへ向かってくる。
木々がまるでマッチ棒のように薙ぎ倒されていく。
やがて森を突き破って姿を現したのは、俺たちがよく知る、しかし以前とは比較にならないほど変貌を遂げた、あの男の姿だった。

「……ガイウス!」
リズベットが驚愕の声を上げる。
そこにいたのは紛れもなくガイウスだった。だがその体は以前の倍、五メートルを超えるほどの巨体へと変貌している。全身の皮膚は黒曜石のように硬質化し、その表面には禍々しい紋様が溶岩のように明滅していた。背中からは巨大な蝙蝠のような翼が生え、その両腕はもはや腕というよりも、巨大な破壊兵器と化している。
唯一変わらないのは、その瞳に宿る俺への、そしてこの世界への底なしの憎悪だけだった。

「グルオオオオオオオオオッ!」

もはや人の言葉を発することもない。
完全に理性を失い破壊衝動の権化と化したガイウスは、咆哮を上げると一直線に俺たちの村の壁へと突進してきた。
セレスティアは彼を捨て駒にしたのではなかった。
敗北した彼を回収し、さらに強力な邪神の力を注ぎ込み、より凶悪な『破壊人形』として再びこの地へ送り込んできたのだ。

「前回とはパワーが桁違いだ!」
俺は肌で感じるその圧倒的な圧力に、歯を食いしばった。
「総員、第一種戦闘態勢! バリスタ、照準を合わせろ!」
俺の号令が壁の上に響き渡る。

リズベットが開発した連射式バリスタが唸りを上げた。ディバインメタル製の聖なる力を宿した巨大な矢が、雨のように突進してくるガイウスへと降り注ぐ。
だが、ガイウスは止まらない。
矢は彼の黒曜石の皮膚に突き刺さるものの、致命傷には至らない。彼はまるで全身にハリネズミのように矢を突き立てながらも、その速度を一切緩めることなく壁へと迫ってくる。

「くそっ、硬え!」
リズベットが悪態をつく。
そしてついに、ガイウスの巨体が俺たちが築き上げた巨大な壁に激突した。

ドッゴオオオオオオオオオオン!

地響きと轟音。
村全体が地震に見舞われたかのように激しく揺れた。
俺たちの誇る城壁に、初めて巨大な亀裂が走った。壁の一部がガラガラと崩れ落ちていく。
だが、壁は持ちこたえた。
俺が地中深くに張り巡らせた魔力の神経網が、衝撃を吸収し分散させているのだ。

「ギ……イイ……!」
壁を突破できなかったことに苛立ったガイウスが、その巨大な腕を振り上げた。そして渾身の力を込めて壁に叩きつける。
何度も、何度も。
そのたびに壁は大きく軋み、亀裂が広がっていく。
このままでは壁が破られるのも時間の問題だった。

「……門を開ける」
俺は覚悟を決めて言った。「奴を内側へ引きずり込む。前回と同じだ」
「正気か、お頭!?」リズベットが叫ぶ。「こいつは前の奴とは訳が違う! 村の中で暴れられたら被害が……!」
「分かっている。だが、ここで戦うしかない。このアルカディアは俺たちのホームグラウンドだ。地の利は俺たちにある」

俺の揺るぎない瞳を見て、仲間たちは覚悟を決めたように頷いた。
俺は壁の下で待機しているゴンスケ部隊に命令を下す。
「門を開放。その後、全機アルファ隊形を組んで、敵を中央広場まで誘導せよ」

ギイイイイッ……。
大きく損傷した門が悲鳴のような音を立てて開かれていく。
その先に、整然と隊列を組んだディバインメタル製の白銀の盾と剣で武装した、百体のゴーレム軍団が姿を現した。

「グルアアアア!」
門が開いたのを見たガイウスは好機とばかりに、咆哮を上げて内部へと突入してきた。
ゴンスケたちは彼を正面から受け止めようとはしない。彼らは流れるような動きで左右に分かれ、ガイウスを巧みに村の奥、中央広場へと続く道へと誘い込んでいく。
愚かな獣と化したガイウスは、その挑発に乗り何の疑いもなくその後を追った。

戦いの舞台は壁の外から、村の内部へと移った。
村人たちはすでに全員、地下のシェルターへと避難させてある。
今、この地上にいるのは俺たちとゴンスケたち、そして招かれざる破壊神だけ。

俺は仲間たちと共に壁の上から飛び降りた。
そしてガイウスが向かった中央広場へと先回りする。
「リズベット、シルフィ。合図があるまで絶対に手を出すな」
「……アルフォンス?」
「こいつは俺の因縁だ。最初のケリは俺一人がつける」

俺は二人の制止を振り切り、一人中央広場の真ん中に立った。
そこには俺が、そして村人たちが平和と繁栄の象徴として育ててきた、聖銀樹が静かに佇んでいる。
やがて大地を揺るがしながら、ガイウスの巨体が広場へと姿を現した。
そしてその中央に立つ俺の姿を、その憎悪に満ちた瞳で捉えた。

「グル……アル……フォンス……!」
途切れ途切れにガイウスが俺の名を呼んだ。
俺はガイアズ・エッジを静かに構えた。
「……ああ。久しぶりだな、ガイウス」

俺たちの本当の最後の戦いが、今、始まろうとしていた。
俺が守り育ててきたこの理想郷の、その中心で。
俺は男の、そしてかつての仲間の歪みきった魂を、この手で解放するために静かにその切っ先を怪物へと向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱スキル《リサイクル》で世界を覆す ~クラス追放された俺は仲間と共に成り上がる~

KABU.
ファンタジー
平凡な高校生・篠原蓮は、クラスメイトと共に突如異世界へ召喚される。 女神から与えられた使命は「魔王討伐」。 しかし、蓮に与えられたスキルは――《リサイクル》。 戦闘にも回復にも使えない「ゴミスキル」と嘲笑され、勇者候補であるクラスメイトから追放されてしまう。 だが《リサイクル》には、誰も知らない世界の理を覆す秘密が隠されていた……。 獣人、エルフ、精霊など異種族の仲間を集め、蓮は虐げられた者たちと共に逆襲を開始する。

勇者パーティを追放された地味な器用貧乏は、 魔王軍の女騎士とスローライフを送る

ちくわ食べます
ファンタジー
勇者パーティから「地味、英雄譚の汚点」と揶揄され追放された器用貧乏な裏方の僕。 帰る場所もなく死の森を彷徨っていたところ、偶然にも重傷を負った魔王軍四天王で最強の女騎士「黒鉄剣のリューシア」と遭遇する。 敵同士のはずなのに、なぜか彼女を放っておけなくて。治療し、世話をし、一緒に暮らすことになった僕。 これは追放された男と、敗北を重ね居場所を失った女の物語。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~

わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」 現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。 渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。 私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル! 「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」 提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。 家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。 裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。 錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。 主人公無双×のんびり錬金スローライフ!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
*読者のみなさま  この作品をお読みいただきありがとうございました。こちらの作品は1月10日12時をもって非公開とさせていただきます。 『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

処理中です...