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第56話:魔人ガイウス襲来(再)
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アルカディア村が邪教団という見えざる敵に対して、村全体で立ち向かう覚悟を決めてから数週間が過ぎた。
セレスティアからの次の接触はまだなかった。だが、その不気味な沈黙は嵐の前の静けさのように、俺たちの心に常に緊張の糸を張らせていた。
俺たちはその時間を使って、着々と防備を固めていった。
俺が構築した大地の結界は、聖銀樹の成長と共に日に日にその強度を増している。リズベットが開発した対魔術兵装は、ゴンスケ部隊と村の義勇軍の標準装備となった。シルフィは浄化のポーションや、邪悪な存在の接近を知らせる感知薬など、新たな対抗策を次々と生み出していた。
村はもはやただの理想郷ではない。邪悪を討ち滅ぼすための聖なる要塞へと、その姿を変えつつあった。
そんなある夜。
村の中央にそびえる聖銀樹が突如として、警告を告げるかのようにその銀色の葉を激しくざわめかせた。同時に、シルフィが開発した感知薬が鮮やかな赤色に変化する。
「……来たか!」
俺は領主の館から飛び出した。
ほぼ同時にシルフィとリズベットも、それぞれの場所から駆けつけてくる。
「アルフォンス! 結界の外、西の森に極めて強大な邪悪な反応があります!」
シルフィが緊迫した声で叫ぶ。
俺の【神の農園】スキルも、その存在を明確に捉えていた。
それは以前ガイウスが放っていた禍々しさを遥かに凌駕する、絶望的なまでに濃密な憎悪と破壊の塊。
だが、その気配の『質』には覚えがあった。
「……まさか」
俺たちは壁の上に駆け上がった。
そして闇に包まれた西の森を見つめる。
その中心部が不気味な赤黒い光に染まり、大地が地響きを立てて揺れ始めた。
ズン……ズン……!
巨大な何かがこちらへ向かってくる。
木々がまるでマッチ棒のように薙ぎ倒されていく。
やがて森を突き破って姿を現したのは、俺たちがよく知る、しかし以前とは比較にならないほど変貌を遂げた、あの男の姿だった。
「……ガイウス!」
リズベットが驚愕の声を上げる。
そこにいたのは紛れもなくガイウスだった。だがその体は以前の倍、五メートルを超えるほどの巨体へと変貌している。全身の皮膚は黒曜石のように硬質化し、その表面には禍々しい紋様が溶岩のように明滅していた。背中からは巨大な蝙蝠のような翼が生え、その両腕はもはや腕というよりも、巨大な破壊兵器と化している。
唯一変わらないのは、その瞳に宿る俺への、そしてこの世界への底なしの憎悪だけだった。
「グルオオオオオオオオオッ!」
もはや人の言葉を発することもない。
完全に理性を失い破壊衝動の権化と化したガイウスは、咆哮を上げると一直線に俺たちの村の壁へと突進してきた。
セレスティアは彼を捨て駒にしたのではなかった。
敗北した彼を回収し、さらに強力な邪神の力を注ぎ込み、より凶悪な『破壊人形』として再びこの地へ送り込んできたのだ。
「前回とはパワーが桁違いだ!」
俺は肌で感じるその圧倒的な圧力に、歯を食いしばった。
「総員、第一種戦闘態勢! バリスタ、照準を合わせろ!」
俺の号令が壁の上に響き渡る。
リズベットが開発した連射式バリスタが唸りを上げた。ディバインメタル製の聖なる力を宿した巨大な矢が、雨のように突進してくるガイウスへと降り注ぐ。
だが、ガイウスは止まらない。
矢は彼の黒曜石の皮膚に突き刺さるものの、致命傷には至らない。彼はまるで全身にハリネズミのように矢を突き立てながらも、その速度を一切緩めることなく壁へと迫ってくる。
「くそっ、硬え!」
リズベットが悪態をつく。
そしてついに、ガイウスの巨体が俺たちが築き上げた巨大な壁に激突した。
ドッゴオオオオオオオオオオン!
地響きと轟音。
村全体が地震に見舞われたかのように激しく揺れた。
俺たちの誇る城壁に、初めて巨大な亀裂が走った。壁の一部がガラガラと崩れ落ちていく。
だが、壁は持ちこたえた。
俺が地中深くに張り巡らせた魔力の神経網が、衝撃を吸収し分散させているのだ。
「ギ……イイ……!」
壁を突破できなかったことに苛立ったガイウスが、その巨大な腕を振り上げた。そして渾身の力を込めて壁に叩きつける。
何度も、何度も。
そのたびに壁は大きく軋み、亀裂が広がっていく。
このままでは壁が破られるのも時間の問題だった。
「……門を開ける」
俺は覚悟を決めて言った。「奴を内側へ引きずり込む。前回と同じだ」
「正気か、お頭!?」リズベットが叫ぶ。「こいつは前の奴とは訳が違う! 村の中で暴れられたら被害が……!」
「分かっている。だが、ここで戦うしかない。このアルカディアは俺たちのホームグラウンドだ。地の利は俺たちにある」
俺の揺るぎない瞳を見て、仲間たちは覚悟を決めたように頷いた。
俺は壁の下で待機しているゴンスケ部隊に命令を下す。
「門を開放。その後、全機アルファ隊形を組んで、敵を中央広場まで誘導せよ」
ギイイイイッ……。
大きく損傷した門が悲鳴のような音を立てて開かれていく。
その先に、整然と隊列を組んだディバインメタル製の白銀の盾と剣で武装した、百体のゴーレム軍団が姿を現した。
「グルアアアア!」
門が開いたのを見たガイウスは好機とばかりに、咆哮を上げて内部へと突入してきた。
ゴンスケたちは彼を正面から受け止めようとはしない。彼らは流れるような動きで左右に分かれ、ガイウスを巧みに村の奥、中央広場へと続く道へと誘い込んでいく。
愚かな獣と化したガイウスは、その挑発に乗り何の疑いもなくその後を追った。
戦いの舞台は壁の外から、村の内部へと移った。
村人たちはすでに全員、地下のシェルターへと避難させてある。
今、この地上にいるのは俺たちとゴンスケたち、そして招かれざる破壊神だけ。
俺は仲間たちと共に壁の上から飛び降りた。
そしてガイウスが向かった中央広場へと先回りする。
「リズベット、シルフィ。合図があるまで絶対に手を出すな」
「……アルフォンス?」
「こいつは俺の因縁だ。最初のケリは俺一人がつける」
俺は二人の制止を振り切り、一人中央広場の真ん中に立った。
そこには俺が、そして村人たちが平和と繁栄の象徴として育ててきた、聖銀樹が静かに佇んでいる。
やがて大地を揺るがしながら、ガイウスの巨体が広場へと姿を現した。
そしてその中央に立つ俺の姿を、その憎悪に満ちた瞳で捉えた。
「グル……アル……フォンス……!」
途切れ途切れにガイウスが俺の名を呼んだ。
俺はガイアズ・エッジを静かに構えた。
「……ああ。久しぶりだな、ガイウス」
俺たちの本当の最後の戦いが、今、始まろうとしていた。
俺が守り育ててきたこの理想郷の、その中心で。
俺は男の、そしてかつての仲間の歪みきった魂を、この手で解放するために静かにその切っ先を怪物へと向けた。
セレスティアからの次の接触はまだなかった。だが、その不気味な沈黙は嵐の前の静けさのように、俺たちの心に常に緊張の糸を張らせていた。
俺たちはその時間を使って、着々と防備を固めていった。
俺が構築した大地の結界は、聖銀樹の成長と共に日に日にその強度を増している。リズベットが開発した対魔術兵装は、ゴンスケ部隊と村の義勇軍の標準装備となった。シルフィは浄化のポーションや、邪悪な存在の接近を知らせる感知薬など、新たな対抗策を次々と生み出していた。
村はもはやただの理想郷ではない。邪悪を討ち滅ぼすための聖なる要塞へと、その姿を変えつつあった。
そんなある夜。
村の中央にそびえる聖銀樹が突如として、警告を告げるかのようにその銀色の葉を激しくざわめかせた。同時に、シルフィが開発した感知薬が鮮やかな赤色に変化する。
「……来たか!」
俺は領主の館から飛び出した。
ほぼ同時にシルフィとリズベットも、それぞれの場所から駆けつけてくる。
「アルフォンス! 結界の外、西の森に極めて強大な邪悪な反応があります!」
シルフィが緊迫した声で叫ぶ。
俺の【神の農園】スキルも、その存在を明確に捉えていた。
それは以前ガイウスが放っていた禍々しさを遥かに凌駕する、絶望的なまでに濃密な憎悪と破壊の塊。
だが、その気配の『質』には覚えがあった。
「……まさか」
俺たちは壁の上に駆け上がった。
そして闇に包まれた西の森を見つめる。
その中心部が不気味な赤黒い光に染まり、大地が地響きを立てて揺れ始めた。
ズン……ズン……!
巨大な何かがこちらへ向かってくる。
木々がまるでマッチ棒のように薙ぎ倒されていく。
やがて森を突き破って姿を現したのは、俺たちがよく知る、しかし以前とは比較にならないほど変貌を遂げた、あの男の姿だった。
「……ガイウス!」
リズベットが驚愕の声を上げる。
そこにいたのは紛れもなくガイウスだった。だがその体は以前の倍、五メートルを超えるほどの巨体へと変貌している。全身の皮膚は黒曜石のように硬質化し、その表面には禍々しい紋様が溶岩のように明滅していた。背中からは巨大な蝙蝠のような翼が生え、その両腕はもはや腕というよりも、巨大な破壊兵器と化している。
唯一変わらないのは、その瞳に宿る俺への、そしてこの世界への底なしの憎悪だけだった。
「グルオオオオオオオオオッ!」
もはや人の言葉を発することもない。
完全に理性を失い破壊衝動の権化と化したガイウスは、咆哮を上げると一直線に俺たちの村の壁へと突進してきた。
セレスティアは彼を捨て駒にしたのではなかった。
敗北した彼を回収し、さらに強力な邪神の力を注ぎ込み、より凶悪な『破壊人形』として再びこの地へ送り込んできたのだ。
「前回とはパワーが桁違いだ!」
俺は肌で感じるその圧倒的な圧力に、歯を食いしばった。
「総員、第一種戦闘態勢! バリスタ、照準を合わせろ!」
俺の号令が壁の上に響き渡る。
リズベットが開発した連射式バリスタが唸りを上げた。ディバインメタル製の聖なる力を宿した巨大な矢が、雨のように突進してくるガイウスへと降り注ぐ。
だが、ガイウスは止まらない。
矢は彼の黒曜石の皮膚に突き刺さるものの、致命傷には至らない。彼はまるで全身にハリネズミのように矢を突き立てながらも、その速度を一切緩めることなく壁へと迫ってくる。
「くそっ、硬え!」
リズベットが悪態をつく。
そしてついに、ガイウスの巨体が俺たちが築き上げた巨大な壁に激突した。
ドッゴオオオオオオオオオオン!
地響きと轟音。
村全体が地震に見舞われたかのように激しく揺れた。
俺たちの誇る城壁に、初めて巨大な亀裂が走った。壁の一部がガラガラと崩れ落ちていく。
だが、壁は持ちこたえた。
俺が地中深くに張り巡らせた魔力の神経網が、衝撃を吸収し分散させているのだ。
「ギ……イイ……!」
壁を突破できなかったことに苛立ったガイウスが、その巨大な腕を振り上げた。そして渾身の力を込めて壁に叩きつける。
何度も、何度も。
そのたびに壁は大きく軋み、亀裂が広がっていく。
このままでは壁が破られるのも時間の問題だった。
「……門を開ける」
俺は覚悟を決めて言った。「奴を内側へ引きずり込む。前回と同じだ」
「正気か、お頭!?」リズベットが叫ぶ。「こいつは前の奴とは訳が違う! 村の中で暴れられたら被害が……!」
「分かっている。だが、ここで戦うしかない。このアルカディアは俺たちのホームグラウンドだ。地の利は俺たちにある」
俺の揺るぎない瞳を見て、仲間たちは覚悟を決めたように頷いた。
俺は壁の下で待機しているゴンスケ部隊に命令を下す。
「門を開放。その後、全機アルファ隊形を組んで、敵を中央広場まで誘導せよ」
ギイイイイッ……。
大きく損傷した門が悲鳴のような音を立てて開かれていく。
その先に、整然と隊列を組んだディバインメタル製の白銀の盾と剣で武装した、百体のゴーレム軍団が姿を現した。
「グルアアアア!」
門が開いたのを見たガイウスは好機とばかりに、咆哮を上げて内部へと突入してきた。
ゴンスケたちは彼を正面から受け止めようとはしない。彼らは流れるような動きで左右に分かれ、ガイウスを巧みに村の奥、中央広場へと続く道へと誘い込んでいく。
愚かな獣と化したガイウスは、その挑発に乗り何の疑いもなくその後を追った。
戦いの舞台は壁の外から、村の内部へと移った。
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今、この地上にいるのは俺たちとゴンスケたち、そして招かれざる破壊神だけ。
俺は仲間たちと共に壁の上から飛び降りた。
そしてガイウスが向かった中央広場へと先回りする。
「リズベット、シルフィ。合図があるまで絶対に手を出すな」
「……アルフォンス?」
「こいつは俺の因縁だ。最初のケリは俺一人がつける」
俺は二人の制止を振り切り、一人中央広場の真ん中に立った。
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そしてその中央に立つ俺の姿を、その憎悪に満ちた瞳で捉えた。
「グル……アル……フォンス……!」
途切れ途切れにガイウスが俺の名を呼んだ。
俺はガイアズ・エッジを静かに構えた。
「……ああ。久しぶりだな、ガイウス」
俺たちの本当の最後の戦いが、今、始まろうとしていた。
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