スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第55話:残された脅威と新たな備え

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セレスティアが闇に消え、後に残されたのは魔人のなり損ないとなったガイウスと重苦しい沈黙だけだった。俺たちの最初の勝利は、より巨大でより邪悪な敵との戦いの始まりを告げる号砲に過ぎなかった。

俺はゴンスケたちに命じ、完全に戦意を喪失したガイウスの身柄を村の地下牢へと運ばせた。彼をどう処遇するかはすぐには決められなかった。彼は俺を追放した憎い相手であると同時に、邪教団に利用された哀れな犠牲者でもあったからだ。

「アルフォンス、少し彼の体を調べさせてください」
シルフィが真剣な眼差しで申し出た。彼女は薬師としてガイウスを魔物に変えた未知の力の正体を解明したいのだろう。俺は頷き、リズベットと共に彼女の研究に立ち会った。

地下牢に繋がれたガイウスはもはや暴れる気力もないのか、ただ虚ろな目で壁を見つめているだけだった。シルフィは慎重に彼に近づき、特殊な水晶の針で血液を少量採取する。そして様々な薬草や試薬を使って、その性質を分析し始めた。

「……これは、ひどい」
しばらくして、シルフィは青ざめた顔で呟いた。「彼の体は内側から完全に邪悪な魔力に侵食されています。細胞の一つ一つがもはや人間のものではありません。生きているのが不思議なほどの、冒涜的な生命体へと作り変えられている」
「元に戻すことはできるのか?」
俺の問いに、シルフィは静かに、そして悲しげに首を横に振った。
「不可能です。彼の魂はすでに邪神の力に喰らい尽くされている。私たちができるのは、これ以上苦しませないよう安らかな眠りを与えることだけでしょう」

その言葉はガイウスという人間の、完全な終わりを意味していた。
俺の心に複雑な感情が渦巻く。喜びも憐れみも憎しみも、すべてが混じり合った灰色の感情。だが感傷に浸っている暇はなかった。

「この邪神の力、ただ強力なだけじゃねえな」
腕を組んで分析を見ていたリズベットが低い声で言った。「あいつの体の硬さは並の鋼鉄を遥かに超えていた。それに傷の再生能力も異常に高かった。これが連中の言う『神の力』の正体かい。厄介なことこの上ねえな」
彼女の言う通りガイウスは邪教団の力を測るための重要なサンプルだった。俺たちはこの禍々しい力を基準に、今後の対策を練らなければならない。

俺たちは場所を領主の執務室に移し、今後の対策会議を開いた。
議題はただ一つ。邪教団『黄昏の蛇』に、どう立ち向かうか。

「敵の目的はこのアルカディア村を『祭壇』にして邪神を復活させること。そしてセレスティアは空間転移のような、厄介な魔術を使う」
俺が状況を整理すると、シルフィが口を開いた。
「邪神と、その信徒……。エルフの古文書にもいくつか記述が残っています。彼らは世界の生命力が最も満ちる場所を狙い、そこに住む者たちの幸福な魂を贄として次元の門を開く、と」
「つまりこの村が豊かになればなるほど、連中にとっては格好の的になるってわけかい。皮肉な話だぜ」
リズベットが忌々しげに吐き捨てる。

「だが俺たちには時間がないわけじゃない」俺は言った。「セレスティアはすぐには攻めてこなかった。それは俺たちの戦力を警戒している証拠だ。彼女はもっと確実な方法で、俺たちを内側から、あるいは外側から崩そうとしてくるだろう」
そのためのガイウスという捨て駒だったのだ。

「ならば俺たちがやるべきことは一つだ」
俺は仲間たちの顔を見渡し、力強く言った。「このアルカディアを、どんな邪神が来ようとも跳ね返す絶対的な聖域へと進化させる」

俺たちの新たな『国造り』が始まった。それはこれまでの村の発展とは質の違う、明確な敵意に対抗するための徹底的な要塞化計画だった。

まず俺はスキル【神の農園】を使い、村全体を覆う新たな結界の構築に取り掛かった。
これまでは物理的な壁で村を守ってきた。だがセレスティアのような空間転移を使う相手には、それだけでは不十分だ。
俺は村の地下深くに張り巡らせた土の神経網に、俺自身の聖なる魔力とエリクサーリーフの持つ浄化の力を流し込んだ。
アルカディアの大地そのものを、邪悪な魔力の侵入を拒絶する巨大な結界装置へと変貌させるのだ。
それは膨大な魔力と集中力を要する困難な作業だった。だが俺は村を守るため、何日もかけてその結界を完成させた。

次にリズベットは対魔術兵器の開発に着手した。
「奴らの力が邪悪な魔力なら、それを打ち消す力を持つ金属で対抗するまでだ!」
彼女はオリハルコンとミスリルを特殊な比率で配合し、魔力を無効化する特性を持つ新合金『ディバインメタル』を創り出した。
その金属を使い、彼女はゴンスケたちの盾と装甲を刷新し、壁に設置されたバリスタの矢じりもすべて作り替えた。さらに村の主要な地点には、広範囲に魔力障壁を展開できるディバインメタル製の防御装置を設置していった。

シルフィは浄化の力を秘めた新たな植物の開発を進めた。
エルフの森に伝わる聖なる木の種子を、俺のスキルでダンジョンの土壌に適応させ驚異的な速度で成長させる。数日後、村の中央には銀色の葉を茂らせ、穏やかな光を放つ一本の若木『聖銀樹(せいぎんじゅ)』がそびえ立つことになった。
この木が放つオーラは村の結界をさらに強固にし、そこに住む者たちの心に安らぎと加護を与えてくれる。

そして俺は領主として、村人たちにすべてを話した。
俺たちが今どのような脅威に直面しているのか。そして俺たちがこれから何と戦おうとしているのか。
不安を煽るのではなく、事実をありのままに伝え、共に戦ってほしいと頭を下げた。
村人たちの間に動揺はなかった。
彼らは俺と共にこの村を守ることを選んでくれた。元兵士たちは義勇軍を組織し、リズベットの指導の下で訓練を開始した。職人たちは防衛設備の建設に協力し、農民たちは有事の際の食料備蓄に励んだ。

アルカディア村は一つの巨大な意志の下に団結した。
誰もが自分の役割を果たし、この理想郷を守るために戦う覚悟を決めたのだ。

邪教団という巨大な影は、確かに忍び寄っていた。
だが俺たちはもはやただ守られるだけの存在ではない。
自らの手で運命を切り拓く力を持っている。

俺は聖銀樹の下で、頼もしい仲間たちと力強い村人たちの顔を見渡した。
「……来るなら来い、邪教団」
俺は静かに呟いた。「俺たちの楽園は、お前たちごときの思い通りにはさせない」

俺たちの村はかつてないほどの脅威を前に、かつてないほどの強固な絆で結ばれていた。
それはどんな邪神の力にも屈しない、人間が持つ最も尊く、そして最も強い力だった。
決戦の時はまだ分からない。
だが俺たちはその時が来るのをただ待つだけではなかった。
攻め来る闇に対し、俺たちは光の牙を、静かに、そして鋭く研ぎ澄ませていた。
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