死闘を求めた戦闘狂、異世界で最強スキル【闘神】を授かる 〜強敵と戦うほど無限に強くなるので、神だろうが殴りに行きます〜

夏見ナイ

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第三十二話 Aランクへの推薦

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嘆きの坑道を攻略してから一ヶ月が過ぎた。
『闘神旅団』の名は、王都アルカディアで知らぬ者はいないほどの伝説となっていた。
リッチ・ロードを討伐した英雄。騎士団すら退けたアンデッドの軍勢を、たった三人で壊滅させた規格外の実力者集団。
俺たちの周りは常に賞賛と、そして畏怖の視線で満たされていた。

「いやあ、まいったぜ! 酒場に行けば誰かしらが酒を奢ってくれるんだからな!」
ガロウは獅子の寝床亭の一階で、上機嫌にエールの大ジョッキを掲げた。
彼の周りにはいつの間にか取り巻きのような冒険者たちが集まり、彼の武勇伝に熱心に耳を傾けている。

「リリアナ様も今や王宮のパーティーに引っ張りだこだとか。エルフの国の美しい王女にして、伝説のパーティの魔法使い。まさに物語のヒロインですな!」
取り巻きの一人が言うと、リリアナは困ったように微笑んだ。
「そんなことはありません。私はお二人に助けられているだけです」
謙遜する彼女の態度は、ますます周囲の好感度を上げているようだった。

俺は、その喧騒の中心から少し離れた席で一人黙って酒を飲んでいた。
英雄。伝説。賞賛。
そのどれもが俺にとっては酷く退屈な響きを持っていた。

坑道攻略後、俺たちのもとには依頼が殺到した。
そのどれもがBランク以上の、普通なら破格の報酬と名誉が約束された仕事だ。
俺たちはそのいくつかをこなした。亜竜種のワイバーブンを狩り、魔王軍の残党が立てこもる砦を陥落させ、呪われた沼の主であるヒュドラを討伐した。

だが、どれも手応えがなかった。
俺たちの連携はもはや円熟の域に達している。
ガロウが壁となり、リリアナが場を支配し、俺が敵の中枢を叩く。この戦術の前では、Bランククラスの魔物など、もはや作業でしかなくなっていた。

スキル【闘神】が発動することは一度もなかった。
俺の渇きは満たされるどころか、この生ぬるい日常の中で再び募り始めていた。
もっとだ。もっと強い奴はいないのか。俺の全てをぶつけなければ勝てないような、本物の死闘はどこにある。

そんな焦燥感を抱えていたある日、俺たちはギルドマスター代理のバルガスに呼び出された。
中央ギルドの最上階にあるマスター室。
熊のような男は葉巻を燻らせながら、俺たちを見てニヤリと笑った。

「よう、英雄様がたのお成りだ。相変わらず、とんでもねえ活躍ぶりらしいじゃねえか」
その言葉には、からかいと、そして確かな評価の色が混じっていた。

「で、用件は何だ」
俺が単刀直入に問うと、バルガスは机の上に一枚の推薦状を置いた。
「お前らのAランクへの特例昇格が、ギルドの上層部会議で決定した」

その言葉に、ガロウが目を見開いた。
「Aランク!? Bランクを飛び越えてかよ!」
「ああ。普通ならありえねえ。Cランクからたった一ヶ月でAランクなんざ、ギルドの歴史でも前代未聞だ。だが、お前らの実績はそれだけの価値があると判断された」

Aランク。
それはギルドに所属する冒険者の、頂点に限りなく近い領域だ。
大陸全体でもAランク冒険者は百人といない。彼らは一人一人が、小国一つを相手にできるほどの戦略級の戦力と見なされている。

「もちろん、古参の連中からは猛反発があったぜ。『実績は認めるが、冒険者としての経験が浅すぎる』とな。だが、俺が全部黙らせてやった。『文句があるなら、あいつらに勝ってから言え』ってな」
バルガスは豪快に笑った。

だが、俺の心は少しも動かなかった。
Aランク? それがどうした。
ランクや名声など、俺にとっては紙切れ同然の価値しかない。
俺が欲しいのはそんなものではない。

「……それで、Aランクになれば何か変わるのか」
俺の問いに、バルガスは葉巻の煙をゆっくりと吐き出した。
「ああ、変わるとも。お前らはSランク依頼の受注資格を得る」

Sランク。
ギルドボードの最上段に貼られていた、あの規格外の依頼。
古代竜。未踏破ダンジョン。魔王軍四天王。
その言葉が俺の脳裏をよぎる。

「……なるほど。話はそれだけか」
「ああ。正式な手続きは明日行う。今日はゆっくり休め。明日からお前らは本当の意味で、この世界のトップランカーの仲間入りだ」

俺たちはマスター室を後にした。
ガロウとリリアナはAランク昇格という現実離れした話に、まだ興奮を隠せないでいる。
だが、俺は一人別のことを考えていた。

Sランク依頼。そこには俺の渇きを潤すほどの戦いが待っているのか。
あるいは、それすらも今の俺にとっては退屈な作業になってしまうのか。
期待と、そしてわずかな不安が入り混じる。

その夜、俺は一人、王都の城壁外れにある訓練場へと足を運んだ。
月明かりだけが照らす、だだっ広い広場。
俺はそこで一人黙々と鍛錬を開始した。

型を繰り返し、己の肉体と向き合う。
ワイバーンとの戦い、アレクシスとの決闘、そしてリッチ・ロードとの死闘。
それらの戦いを通じて俺の力は飛躍的に向上した。
だが、まだ足りない。
俺の中の何かが、まだ上がある、まだ先があると叫んでいる。

汗が地面に滴り落ちる。
俺は時間の感覚を忘れ、ひたすらに拳を振るい続けた。

その時だった。
ふと、背筋に冷たいものが走った。
視線。
誰かが俺を見ている。
それはただの好奇の視線ではない。同質の、あるいはそれ以上の、研ぎ澄まされた強者の視線。

俺は型の動きを止め、ゆっくりと振り返った。
だが、訓練場には誰もいない。
ただ静かな夜の闇が広がっているだけだ。

気のせいか?
いや、違う。確かに感じた。
それは俺がずっと探し求めていた、魂が震えるような強者の気配。
そいつはこの王都のどこかに潜んでいる。

俺は闇の向こうを見据えた。
その目に獰猛な光を宿して。

ちょうどその頃、ガロウは酒場で一つの不穏な噂を耳にしていた。
最近、王都で腕利きの冒-険者が襲われる事件が多発しているらしい。
被害者はBランクやAランクの実力者ばかり。誰もが完膚なきまでに叩きのめされ、再起不能に追い込まれているという。
そして、生き残った者たちの証言は奇妙なほどに一致していた。

犯人は黒い仮面をつけた一人の剣士。
その剣技は、まるで人の動きではなかった、と。

新たな死闘の予感が、王都の夜の闇に、静かに、しかし確実に生まれようとしていた。
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