死闘を求めた戦闘狂、異世界で最強スキル【闘神】を授かる 〜強敵と戦うほど無限に強くなるので、神だろうが殴りに行きます〜

夏見ナイ

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第三十三話 仮面の剣士

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翌日、俺たちは王都中央ギルドのマスター室にいた。
Aランクへの特例昇格。その正式な叙任式が、ギルドの上層部と一部の有力なAランク冒険者たちが見守る中で厳かに行われた。
鉄製だった俺たちのギルドカードは、眩い光と共に白銀の色へと変わる。Aランク冒険者の証、ミスリルプレートだ。

「おめでとう、『闘神旅団』。君たちは今日から、ギルドが認める最高戦力の一角だ。その力を秩序のために振るうことを期待する」
ギルドの総マスターである老エルフが、仰々しく告げた。
周囲からは賞賛と、そして隠しきれない嫉妬の拍手が送られる。

「へへっ、Aランクか。とんでもねえところまで来ちまったもんだな」
ガロウがミスリルプレートを眺めながら誇らしげに笑う。
リリアナも緊張した面持ちの中にも、確かな喜びを浮かべていた。

俺はただ無感動にその光景を見ていた。
Aランクという称号もミスリルの輝きも、俺の心を少しも動かさない。
俺の興味はただ一つ、昨夜感じたあの強者の気配だけだった。

式典が終わり、俺たちは獅子の寝床亭へと戻るためにギルドホールを横切った。
その道中、ガロウが声を潜めて俺に話しかけてきた。
「なあ、ジン。昨日の夜、酒場で変な噂を耳にしたんだがよ」
「噂?」

「ああ。最近、この王都で腕利きの冒険者が立て続けに襲われてるらしい。被害者はBランク以上。どいつもこいつも再起不能にされるまで完膚なきまでに叩きのめされてるそうだ」
その言葉に、俺は足を止めた。
「……犯人は?」

「それが、よく分からねえらしい。ただ、生き残った奴らの証言だと黒い仮面をつけた剣士だって話だ。その剣技はまるで悪魔のようだったとよ」
黒い仮面の剣士。
その響きが俺の脳裏に焼き付いた。
昨夜の、あの視線。あの気配。
まさか。

俺の全身の血がカッと熱を帯びるのを感じた。
「そいつはどこにいる」
「さあな。神出気没で、誰も居場所を掴めてねえらしい。だが、狙うのは強い奴だけだ。夜な夜な獲物を探して街を彷徨ってるんじゃねえか」

獲物を探して街を彷徨う。
まるで俺と同じではないか。

俺は踵を返した。
「ジン様? どこへ?」
リリアナが訝しげな声を上げる。
「探しに行く。その仮面の剣士とやらを」

「おいおい、正気かよ! そいつはAランク冒険者ですら狩られてるヤバい相手だぞ!」
ガロウの制止も今の俺には届かない。
「だから行くんだ」

俺は二人の静止を振り切り、一人ギルドを飛び出した。
渇ききっていた俺の魂がようやく見つけた極上の獲物。
みすみす逃すつもりなど毛頭なかった。

その日から、俺の夜の日課が変わった。
鍛錬ではない。狩りだ。
俺は毎晩、王都の闇の中を一匹の飢えた獣のように彷徨い続けた。
表通りの喧騒を抜け、裏路地の薄暗がりへ。貴族街の静寂から、貧民街の混沌へ。
五感を極限まで研ぎ澄まし、ただひたすらにあの強者の気配を探す。

数日が過ぎた。
気配は感じられない。
まるで俺の存在に気づき、身を隠しているかのようだった。
焦りが募る。俺はこれほどの渇望を、ガロウと出会う前以来感じたことがなかった。

そして、その夜は訪れた。
月のない新月の夜。
王都が深い闇に包まれる中、俺は一つの異変を感知した。
北区画の倉庫街。そこから微かだが確かな、闘気の残滓が漂ってくる。

俺は屋根の上を跳躍し、音もなく現場へと急行した。
倉庫街の一角。薄暗い路地裏。
そこには戦闘の跡が生々しく残っていた。壁は抉れ、石畳は砕けている。
そして、その中央に一人の男が倒れていた。
その男が着ている鎧には見覚えがあった。『銀翼の鷲』。先日ギルドで噂に聞いたAランクパーティの紋章だ。
男はまだ息があったが、その体は無惨に切り刻まれ、戦闘能力は完全に奪われていた。

そして、その男を見下ろすように一つの影が佇んでいた。
黒いマントが夜風にはためいている。
腰には飾り気のない、しかし異様なほどの存在感を放つ一本の長剣。
そして、その顔は全ての感情を拒絶するかのような、漆黒の仮面で覆われていた。

間違いない。
こいつだ。
俺が探し求めていた、強者の気配の主。

俺は屋根の上から音もなく飛び降り、その影の背後に着地した。
「……お前が噂の仮面の剣士か」

俺の声に、仮面の男はゆっくりと振り返った。
その仮面の奥から二つの鋭い視線が俺を射抜く。
その視線に触れた瞬間、俺は確信した。
こいつは俺がこれまで出会ってきた誰よりも強い。アレクシスですら、こいつの前では色褪せて見える。

「……貴様、何者だ」
仮面の男が低く、感情のない声で問うた。
「俺の名はジン。お前と同じ、強い奴を探している者だ」

俺の答えに、仮面の男はわずかに反応を示した。
「……闘神旅団のジン、か。噂は聞いている。騎士団の副団長を退けたそうだな」
「お前もAランクを狩ったばかりのようだな」
俺たちの間に見えない火花が散る。

「俺の邪魔をするな」
仮面の男はそれだけを告げると、俺に背を向け闇の中へと消えようとした。
彼は俺と戦う気がないらしい。

だが、俺がそれを許すはずがなかった。
「待て」
俺の声は絶対的な確信に満ちていた。
「お前は俺が戦うべき相手だ」

その言葉に、仮面の男の足が止まった。
彼はゆっくりと、再びこちらへと向き直る。
その仮面の奥で彼の目が、初めて興味という色を帯びたのが分かった。

「……面白い。その目、気に入った」
仮面の男は静かに腰の剣の柄に手をかけた。
「貴様の強さが本物かどうか。この俺が試してやろう」

月明かりすらない完全な闇の路地裏。
だが、俺たちの目には互いの姿がはっきりと見えていた。
互いから放たれる尋常ではない闘気が、闇を切り裂く光となっていたからだ。

風が止んだ。
時間が止まった。
王都の片隅で誰にも知られることなく、二人の最強を求める者の運命の戦いが、今、始まろうとしていた。
俺の魂が歓喜の産声を上げていた。
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