死闘を求めた戦闘狂、異世界で最強スキル【闘神】を授かる 〜強敵と戦うほど無限に強くなるので、神だろうが殴りに行きます〜

夏見ナイ

文字の大きさ
35 / 71

第三十四話 初めての敗北

しおりを挟む
先に動いたのは仮面の剣士だった。
闇に溶けていたはずの影が、音もなく予備動作もなく、俺の目の前に現れる。
抜刀。
その一連の動作は、俺の目ですら捉えきれないほどの神速だった。

空気を切り裂く鋭い金属音。
死が俺の首筋を撫でた。
俺は本能的に、ありえない角度で上体を反らし、その斬撃を回避する。
俺の頬を、一筋の赤い線が走った。紙一重。掠っただけで皮膚が裂けていた。

俺は即座に後方へ跳び、間合いを取る。
頬を伝う生温かい血の感触。
ぞくり、と全身の肌が粟立った。恐怖ではない。歓喜だ。
こいつは本物だ。俺がこれまで戦ってきたどんな敵とも違う。

「……ほう。今の一撃を避けるか」
仮面の剣士が、初めて感嘆ともとれる声を漏らした。
彼はまるで最初からそこにいたかのように、自然な構えで剣を保持している。
その剣筋にはアレクシスのような華やかさはない。ガロウのような荒々しさもない。
ただ純粋に、効率的に、敵を殺すためだけに洗練された無駄のない動き。

「お前の番だ」
剣士が静かに告げた。
俺は笑みを浮かべ、地面を蹴った。
大神流体術「無影歩」。闇に紛れ、気配を消し、敵の死角から攻撃を仕掛ける。

俺は剣士の背後に回り込み、その無防備な首筋めがけて手刀を振り下ろした。
だが、その一撃が届くことはなかった。
剣士は振り返ることなく、まるで背中に目がついているかのように俺の攻撃を読んでいた。
彼はただ半歩だけ身をずらした。
それだけで俺の必殺の一撃は、空しく闇を切り裂いた。

「……遅い」
冷たい声と共に、肘が俺の鳩尾に叩き込まれる。
逆撃。俺の突進の勢いを利用した完璧なカウンターだった。

「ぐっ……!」
肺から空気が強制的に絞り出される。
俺の体はくの字に折れ曲がり、数メートル後方の壁に叩きつけられた。
凄まじい衝撃。内臓が揺さぶられる。

だが、俺はすぐに体勢を立て直した。
ダメージはある。だが、それ以上に俺の闘志は燃え上がっていた。
こいつは俺の動きを読んでいる。それも完璧に。
ならば読めない動きで攻めるまでだ。

俺は再び突進した。
直線的な動きではない。左右に、上下に、予測不能なフェイントを織り交ぜながら幻影のように剣士を惑わす。
そして、無数の攻撃の軌道の中から本物の一撃を放った。
目標は心臓。

だが、それすらも見切られていた。
仮面の剣士は俺の幻惑に一切惑わされることなく、ただ静かに、俺の拳が辿り着くであろう一点にその剣の腹を合わせていた。
まるで未来が見えているかのように。

ガキン!という硬い音。
俺の拳は完璧なタイミングで合わされた剣によって、いとも容易く弾かれた。
そして、弾かれた俺の体勢の崩れを剣士は見逃さない。
流れるような動きで、剣が翻る。

閃光。
俺の左肩と右脇腹に同時に灼熱の痛みが走った。
深い。骨まで達するほどの致命的な斬撃。
鮮血が闇に舞った。

「がはっ……!」
俺は初めて明確なダメージを受け、その場に膝をついた。
傷口から力が抜けていくのが分かる。

【スキル【闘神】の発動条件を認識。スキルを発動します】

待っていた。
この感覚。
傷を負った俺の体から、それまでとは比較にならないほどの闘気が爆発的に噴き上がった。
深い傷口が瞬時に塞がっていく。失われた力が、それ以上の力となって蘇る。

「……ほう。自己再生能力か。面白いスキルを持っているな」
仮面の剣士は俺の変貌を見ても少しも動揺していなかった。
ただ事実を観察するように、淡々と呟くだけだ。

「ここからが本番だ」
俺は立ち上がり、笑った。
痛みは俺を強くする。この傷は勝利への布石だ。

俺の動きは先ほどまでとは比較にならないほど、速く、そして重くなっていた。
闘気を纏った拳が空気の壁を砕きながら、仮面の剣士へと殺到する。

だが、仮面の剣士はそれにも対応した。
彼の全身から黒いオーラのようなものが、陽炎のように立ち上り始める。
それは俺の闘気とは全く違う、冷たく、そして禍々しい力。

「……消えろ」
剣士の剣が黒いオーラを纏った。
そして、俺の拳と彼の剣が再び激突した。

轟音。
路地裏の地面が衝撃に耐えきれず粉々に砕け散る。
俺の全力の一撃。
だが、それは黒いオーラを纏った剣によって、真正面から受け止められていた。

「な……!?」
信じられない。
【闘神】を発動した俺の力が通用しない。
それどころか押し負けている。

「その程度の力か」
剣士が冷たく言い放つ。
彼は俺の拳を受け止めたまま、その剣を押し返してきた。
ミシミシと俺の腕の骨が悲鳴を上げる。

まずい。このままでは腕ごと砕かれる。
俺は咄嗟に拳を解き、後方へ大きく跳躍した。

だが、剣士はその逃走すらも許さなかった。
俺が跳んだ先、その落下地点に彼は既に移動していた。
まるで俺の思考を、行動の全てを先読みしているかのように。

「終わりだ」
黒い剣が薙ぎ払われる。
それはもはや回避不能な、絶対的な一撃だった。

俺は最後の抵抗として両腕を交差させてガードした。
だが、その防御はあまりにも脆かった。
凄まじい衝撃と共に俺の両腕の骨が砕ける。
そして、俺の意識はそこで途切れた。

どれくらいの時間が経ったのか。
次に俺が気づいた時、俺は冷たい石畳の上に仰向けに倒れていた。
全身が鉛のように重い。指一本動かせない。
両腕は無惨に折れ、体中に走る激痛が俺がまだ生きていることを教えていた。

仮面の剣士が俺を見下ろしていた。
その仮面の奥の瞳には何の感情も浮かんでいない。
ただ壊れた玩具を見るような、冷たい視線だけがあった。

俺は生まれて初めて、完膚なきまでに敗北した。
手も足も出なかった。
スキル【闘神】を発動させ全力を出したにもかかわらず、全く歯が立たなかった。

「……なぜ、殺さない」
俺は掠れた声で問うた。
これほどの差があるなら、俺にとどめを刺すのは容易いはずだ。

「……お前は弱い」
仮面の剣士は静かに言った。
「今の貴様を殺しても何の価値もない。貴様は本当の強さを知らない。ただ己の力に溺れているだけの子供だ」

その言葉はどんな斬撃よりも、深く、鋭く、俺のプライドを切り裂いた。

「強くなりたければ、知るがいい。この世界の深淵を。そして、お前自身の本当の弱さを」

それだけを告げると、仮面の剣士は俺に背を向けた。
そして、まるで最初からそこにいなかったかのように音もなく闇の中へと消えていった。

後に残されたのは、動けない俺と砕かれたプライド、そして初めて味わう完全な敗北の味だけだった。
屈辱。
これほどの屈辱を俺は知らない。

だが、その屈辱の奥底で一つの黒い炎が静かに燃え上がっていた。
殺す。
次に会った時は必ず、あの男を。

俺の脳裏に、あの仮面が焼き付いて離れない。
初めての敗北。
それは俺の戦闘狂としての新たな始まりを告げる、屈辱に満ちた号砲だった。
俺は闇の中で静かに歯を食いしばった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。

猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。 もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。 すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。 主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。 ――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました―― 風景が目まぐるしく移り変わる。 天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。 移り変わる景色こそは、 第一天 ヴィロン。 第二天 ラキア。 第三天 シャハクィム。 第四天 ゼブル。 第五天 マオン。 第六天 マコン。 それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。 気付けば明星は、玉座に座っていた。 そこは天の最高位。 第七天 アラボト。 そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。 ――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...